VRゲームのように楽しい“明晰夢”を見る方法とは?

サイエンス

 体調が良い日もあれば調子の悪いときもある。そして気分が良い日もあれば気分がすぐれない日もあるだろう。最近の研究では、夢の内容もまた当人の生活の満足度を占うものであることが指摘されている。

■夢と生活の満足度の関係

 精神分析学の祖、フロイトの時代から夢の内容は当人の状態を示すものであると考えられてきたが、これまではもっぱら精神的な問題を探るための“夢判断”として夢が分析されてきた。ではポジティブでハッピーな夢にはあまり意味はないのだろうか。

 スウェーデン・シェブデ大学とフィンランド・トゥルク大学の合同研究チームが2018年8月に学術ジャーナル「Scientific Reports」で発表した研究では、夢の内容と当人の生活の満足度(well-being)の関係を探っている。

「実際のところ、これは心の平安が夢の内容にどのように関係しているかを検証する最初の研究です」と研究を主導したピッレリーン・シッカ氏は語る。

 研究チームは健康な実験参加者たちに一連のテストを受けてもらい、覚醒時の気分の落ち込み度と生活の満足度を測定した。そしてその後3週間にわたって毎朝、見た夢を記録しその時の気分を採点しておくことを指示した。

 回収したデータを分析した結果、心の平安の度合いが高いレベルの者ほど、夢の中でポジティブな気分になっていて、一方で不安感のレベルが高い者ほど、夢を見てネガティブな気分になっていることが判明したのだ。

 この結果が意味するのは、もし夢の内容が覚醒時の生活の満足度に関連しているのであれば、精神疾患の症状を測定するだけでは十分ではなく、生活の満足度も計測する必要があるということだ。

 研究チームは、より高いレベルの心の平安を有する個人が、覚醒時だけでなく夢の中でも自分の感情をよりよく制御できていることを示唆している。一方でより高いレベルの不安を有する者にとっては逆のこと、つまり感情の制御に問題がある可能性があるということだ。

 今後の研究では、より良い感情制御と自己制御が、より高いレベルの心の平安を持つ人々を特徴づけるものであるかどうか、そしてそのような感情制御スキルの向上が心の平安に繋がるのかどうかを探る必要があると研究チームは言及する。

 夢の内容がその日の気分を左右するとすれば、夢はこれまで考えられてきたよりもはるかに重要な役割を持っていることになる。願わくば毎夜“いい夢”を見たいものである。

■明晰夢を見る方法

 ぜひともいい夢を見たいものだが、あるスキルを獲得することで、自分の見たい夢が見られる可能性が高まるというから興味深い。そのキーワードは“明晰夢”である。

 明晰夢とは夢の中で「これは夢だ」と気づきながら見る夢である。そして夢と気づいている以上、夢の中での言動が自分でもある程度コントロールできるといわれている。よく見る人もいればまったく見たことがないという人もいて、きわめて個人差がある現象でもある。

 豪・アデレード大学のデンホルム・アスピィ博士が昨年、「Dreaming」で発表した研究ではこの明晰夢を見る効果的な方法を紹介し、実際に多くの実験参加者に明晰夢を“意図的”に見させることに成功している。

 意図的に明晰夢を見る方法とは、リアリティテスティングとMILD(Mnemonic induction of lucid dreams)を組み合わせることだ。リアリティテスティング(reality testing)とは、覚醒時に任意のタイミングで定期的に「これは現実で私は起きている」と確認することで、これを習慣化することである。

 MILDとは就寝時の5時間後に目覚まし時計のアラームを設定し、起きたときに「次の眠りできっと夢を見る。夢を見ていることに気づく」と何度も復唱しながら再び眠りに就くことでである。この後に明晰夢が見られる可能性が高まるということだ。

 実験では169人の実験参加者にこのリアリティテスティングとMILDを試してもらったところ、なんと53%もの確率で明晰夢が見られた。17%の参加者はトライアル期間中の毎夜、明晰夢を見たということだ。

 明晰夢を見た後はすぐに目覚めることが多いと言われているが、アスピィ博士によれば夢の扱いに慣れることで1時間ほどにまで明晰夢の時間を延長できるということだ。明晰夢はトラウマの解消や不健康な生活習慣の改善にも活用できると考えられており、今後も明晰夢に関する研究からは目が離せそうにない。

■明晰夢のメリットとデメリット

 以下、メリットである。

●楽しい:明晰夢がVRゲームの世界の中にいるように楽しい体験になる。

●“本当の自分”が見つかる:明晰夢の世界の中で、これまで気づかなかった自分の欲望や願望が見つかるかもしれない。つまり“本当の自分”が見つかるのだ。

●予行演習になる:明晰夢の状況設定が現実に直面し得るものだった場合、よい予行演習になる。明晰夢の中で大勢の前で話す体験をしていれば、確かに実際のスピーチに際しても“既視感”を感じてあがりにくくなるかもしれない。

●発想の源になる:クリエイターにとって明晰夢は発想の源になり得る。明晰夢の世界はまさにキャンバスのようなものであり、これまで考えてもみなかった物事に出会える。

●不安を克服できる:明晰夢の中で勇気溢れる言動を体験することで、実生活での不安を克服できる。

 そして以下がデメリットだ。

●睡眠まひ:意識は戻っているのに身体はまだ睡眠中で動かせないという、いわゆる“金縛り”が睡眠まひだが、明晰夢で起りやすいといわれている。

●影響が続く:明晰夢での体験がその後の現実の生活に影響を及ぼす。楽しい体験であればあまり問題はないが、夢がネガティブな内容のものであった場合はやはりその日の気分も落ち込みがちになる。

●夢の閉所恐怖症:明晰夢の中で自分の言動がコントロールできなかった時には夢の閉所恐怖症(dream claustrophobia)になるリスクがある。

●現実逃避:明晰夢の世界があまりにも興味深くで鮮やかであるため、現実逃避の手段にもなり得る。

 こうした明晰夢の持つデメリットにもよく配慮して再び“いい夢”を見たいものだ。

参考:「Nature」、「APA PsycNet」、「Lifehacker」ほか

文=仲田しんじ

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