SNSは依存症になるようにデザインされていた!?

サイコロジー

 サイエンスの側からフェイスブックにまつわる興味深い研究が報告されている。5日間の“フェイスブック断ち”でストレスが顕著に緩和されるのだ。

■5日間の“フェイスブック断ち”で心身のストレスが低減

 フェイスブックをはじめとするSNSの活用が仕事の一部であるのならともかく、個人ユーザーは利用状況に波があるといわれている。つまり熱心に利用する時期と、あまり利用しない時期が交互に訪れるというのだ。

 豪・クイーンズランド大学心理学部のエリック・バンマン氏もまた、こうしたサイクルでこの10年もの間フェイスブックを利用してきた。場合によっては数日間の“フェイスブック断ち”をすることもあるということだ。

 バンマン氏は“フェイスブック断ち”をスタートさせたときはいつも安堵感を感じて気分がよくなるという。そうであるならばそのままフェイスブックを止めてしまえばいいともいえるのだが、“フェイスブック断ち”をして数日ほど経つと、自分が仲間たちから取り残されたような気分(fear of missing out)になり、ある意味では止むぬ止まれずフェイスブックに“復帰”することになるということだ。

 こうした個人的な体験もあることから、バンマン氏は“フェイスブック断ち”がユーザーにどのような変化をもたらすのか、138人のフェイスブックユーザーを募って実験している。

 実験では参加者のうちの60人に5日間の完全な“フェイスブック断ち”をしてもらい、78名のコントロールグループと共にその前後に健康状態を推し量る問診を行い、加えて唾液中のコルチゾールのレベルを計測した。コルチゾールは別名“ストレスホルモン”と呼ばれ、ストレスを感じると分泌量が増える。

 実験で収集したデータを分析した結果、5日間の“フェイスブック断ち”で精神的にも身体的にもストレスが著しく低減することが判明した。“フェイスブック断ち”によって実際にコルチゾールの分泌が減少するのである。

 したがって定期的な“フェイスブック断ち”は心身の健康にとってきわめて効果があるのだが、事はそう単純ではないというから興味深い。“フェイスブック断ち”の期間中には、生活に対する満足度が低下していたのだ。ということはフェイスブックユーザーの“フェイスブック断ち”は、やはり何らかの欠落感や不便さを感じさせるということだろう。当然ながらヘビーユーザーであるほど、生活の満足感の低下が大きいことは想像に難くない。

 しかしそれでも“フェイスブック断ち”で得られる心身のストレス緩和効果は、不便さを感じるストレスを補って余りあるものであることは確かなようだ。定期的な“SNS断ち”を検討してみてもよさそうだ。

■「SNSは依存症になるようにデザインされている」

 まさにSNS全盛時代に生きる我々のSNS依存、SNS中毒のメカニズムもまた、徐々に明らかになっているようだ。

 スマホをはじめとするデジタル機器に毒された生活からの「デジタルデトックス」の必要性を提唱している作家のタニヤ・グーディン氏は、フェイスブックは「依存症になるようにデザインされている」と語る。

「なぜなら、“いいね”やコメントはいつ来るのかわかりませんから、常にフェイスブックをチェックすることになるからです」(タニヤ・グーディン氏)

 グーディン氏によれば、SNSでの承認体験で脳内に快楽に関係のある神経伝達物質であるドーパミンが分泌されるということだ。ドーパミンはセックスやギャンブル、ドラッグなどで盛んに分泌されて快感をもたらすのだが、SNSでの承認体験はそれらと同質の快楽を引き起こしていることになる。そして“味をしめる”ことで依存症に繋がるのだ。

 グーディン氏が英紙「The Sun」に語ったところによれば、フェイスブックの“仕掛け”はギャンブルと同じ手法で人々を依存に誘い、行動嗜癖(こうどうしへき、Behavioral addiction)が形成されてしまうということだ。

 もちろん大半のユーザーは“依存症”まで症状が進むことはないが、2016年の調査では成人イギリス人の62%がスマホを過剰にチェックしていると自己申告している。そしてスマホを携行していないと“欠落感”を覚えるということだ。いかに今日の我々がデジタル機器を通じたオンラインコミュニケーションに毒されているのかが各種の調査で浮き彫りになっているのである。

「SNSは私たちが再びアクセスするように念入りに設計されていることを考えれば、完全に断ち切ってしまおうとするのはあまり得策ではありません。最近の多くの研究ではSNSから定期的に離れることができれば、私たちはもっと幸せになることを示しています」(タニヤ・グーディン氏)

 完全にSNSから手を引く決断ももちろんあり得るとは思うが、まずはスマホやSNSから少し距離を置いてみることからはじめてみてもよさそうだ。

■SNSがもたらすネガティブな5つの“副作用”

 画期的なコミュニケーションツールであるSNSは、仕事にも私生活にも有効に活用できる“文明の利器”だが、過度に依存することでメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼす。これまでに確かめられているSNSのネガティブな“副作用”を5つ、この機会にあらためて確認しておきたい。

1.SNSは不安障害とうつの原因になり得る
 英・ランカスター大学の研究では、SNSの利用がうつに結びつく可能性が報告されている。これはユーザー自身が自覚症状を感じ得るものであるということだ。

 また最近の別の研究では、複数のSNSの利用が不安障害とうつに関係があることが指摘されている。利用しているSNSプラットホームの数が多いほど、また利用時間が長いほど、不安障害とうつへの結びつきが強まるということである。

2.SNSは取り残された気分(fear of missing out)を生じさせる
 SNSの普及で新しいネガティブな感情が生まれている。それは「取り残された気分(fear of missing out、FoMO)」である。SNSのおかげで、自分が参加していない集まりの様子などが友人の写真投稿などで容易にわかるようになっているが、これが本来は抱く必要のない羨望や嫉妬にも繋がり、自分が蚊帳の外に置かれていると感じる機会もまた増えているということだ。

 このFoMOは特に若年層においては強くネガティブな影響を及ぼしており、気分の落ち込み、生活満足度の低下、さらなるSNSの利用に繋がっているということである。

3.SNSは睡眠障害に直結する
 ピッツバーグ大学とアメリカ国立衛生研究所の合同研究では、ヤングアダルトにおいてSNS利用時間が長くなるほど、睡眠障害およびうつの症状を招きやすいことが報告されている。SNS利用と睡眠障害の詳しい因果性はまだよくわかっていないが、単純に睡眠時間を削ってまでSNSを利用しているとすれば睡眠に問題が生じてくるだろう。

 またスマホやPCのスクリーンから放出されるブルーライトを浴びることで“体内時計”に狂いが生じて睡眠のリズムに悪影響を及ぼすことも指摘されている。

4.SNSは自分の容姿にネガティブなイメージを抱かせる
 特に女性の標準的な容姿について、これまでは雑誌や広告のグラビア、テレビなどが実状を無視した高水準(!?)のイメージを伝播しているとして“犯人”扱いにされてきた。しかし今日それよりもさらに容姿と体型の要求水準を引き上げているのが画像投稿がメインのSNSであるということだ。

 いわゆる“SNS映え”や“インスタ映え”を意識した画像がネット上に氾濫することになり、特に若い女性において自分の身体をモノとして扱う「自己客体化(self-objectification)」が進行しているという。これにより十代の女性に摂食障害がかつてないほど蔓延っている。またある調査では現在、美容整形手術を受ける理由の55%が“SNS映え”を意識してのことだということだ。

5.SNSは依存症になる
 前出の話題でもとりあげたが、SNS上の活動に“いいね”などの何らかのレスポンスがあった際には承認欲求が満たされて脳内に快感をもたらす神経伝達物質・ドーパミンが分泌される。これによってさらなるSNS活動が動機づけられて依存症に結びつくのである。

 また別の研究ではフェイスブックなどのSNSの利用時には脳の特定の部位の活動が活発になることが判明したという。この部分は報酬を見込んだ情報処理を担当しており、これが満たされることでSNS活動のモチベーションが強化されるのだ。

 SNSがはらむこうした落し穴を前提にしたうえで、充実したオンラインコミュニケーションを図りたいものだ。

参考:「Taylor & Francis Online」、「The Sun」、「Psychiatric News」ほか

文=仲田しんじ

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