Google検索を利用しすぎることで起きる3つの懸念とは

サイエンス

 生活に欠かせなくなったSNSを使ったコミュニケーションだが、暮らしと仕事を効率良くする一方で我々の知的能力を低下させるリスクをはらんでいることが専門家から指摘されている。

■“いいね!”は最小限の認知的労力で済むコミュニケーション

 最近の調査では現在のネットユーザーは平均で7つものSNSアカウントを持っているという。そしてこれはeメールを除いた数字だ。つい15年ほど前までは先進的なネットユーザーであってもせいぜい2つのeメールアカウントしか持っておらず、携帯電話は主に通話に使っていたことを思い起こせば、ここ10年ほどでいかに急速にSNSが社会に浸透、蔓延していったのかがわかる。

 SNS全盛時代となって円滑で迅速なコミュニケーションが可能となりさまざまな利便性を生み出しているが、SNSでのコミュニケーションが習い性になってしまうことで、表現力やリアルな対人折衝能力に無視できない悪影響を及ぼす可能性が専門家から指摘されている。

 2016年に『The Distracted Mind: Ancient Brains in a High-Tech World』を出版した共著者の1人であるラリー・ローゼン氏は、“いいね!”をする行為を“最小限の認知的労力で済むコミュニケーション”であると定義し、人間同士のコミュニケーションのあり方を変えてしまう可能性があるとして警鐘を鳴らしている。

 労力を必要としないコミュニケーションという点では“いいね!”に加えて“絵文字”がSNSをさらに“省エネ化”している。省エネ化することで頻繁なメッセージ交換が可能になるのだが、素早く返信を受け取ることで脳内にドーパミンが分泌し快感を得られることが過去の研究で確かめられている。こうした絵文字などを使った頻繁なコミュニケーションもまた、従来の対人コミュニケーションを変えてしまう要因になるかもしれない。

 また2014年にFacebook社はコーネル大学の研究者と共にFacebookユーザー68万9000人のページにフィルターをかけ、あるニュースに対してポジティブなコメントばかりが流れるか、あるいはネガティブなコメントばかりが流れるかの状態にして、そのユーザーの気分に影響を与えるかどうかを探る調査を行なっている。結果はやはり、画面に流れるコメントがユーザーの気分に影響を与えていることが分かった。つまりFacebook上で感情が“伝染”するのだ。

 したがってFacebookはじめとするSNSユーザーは、ソーシャルメディアを利用中に、目にするコメントやニュースに気分を変えられていることになり、タイミングが良く出くわした広告に誘導されやすくもなる。

 確かに便利なSNSだが、そのソーシャルな繋がりがSNSがなければ維持できない関係なのかどうか、絵文字を使ってまでコミュニケーションする必要があるのかどうかなど、時には抜本的に考えてみてもよさそうだ。

■Google検索を利用しすぎることで起きる3つの懸念

 何か知らないことがあった場合、「とりあえずググってみる」というのがもはや常識に近い行為になってしまったと言えるだろう。

 情報の検索が容易になったことで、我々の仕事や学業に取り組む姿勢が大きく変ったと言えるが、自分の頭の中に記憶しなくてもいいという安心感もまた蔓延させることになったのではないだろうか。

 Googleなどの検索エンジンの普及に伴い、検索した情報をスマホやPCに保存したことで安心してしまい、その安心感から情報を忘れてしまう現象は“グーグル効果(Google Effect)”や“デジタル健忘症(digital amnesia)”と呼ばれ、これも昨今その危険性が指摘されている。

 まだ医学的な症状としては認められていないが、2016年のある調査では7割以上の人が「デジタル機器を活用するようになって昔に比べ記憶や暗記をしなくなった」と回答している。

 また2015年に発表されたカナダの研究では、iPhoneが普及する前の2000年には12秒あった人々の集中力持続時間が、スマホが普及した2010年以降、8秒に減少していることが報告されている。とすればやはり現代人はグーグル効果やデジタル健忘症に苛まれているのだろうか? Google検索を利用し過ぎることで起きる3つ懸念があるという。

1.ビジネスの注目度を上げるためにGoogleに依存してしまう。検索上位にくるようにするために、最悪の場合は不正に検索順位を上昇させる“ブラックハットSEO”の導入に繋がるものになる。

2.情報源の引き出しとしてGoogleを過度に活用する人は、自身が独自に築き上げる情報バンクの継続を放棄してしまう。

3.自分自身で独自のコンテンツ、エッセイ、まとめなどを作成するのではなく、Googleで利用可能なオンラインソースからコピーする傾向がでてくる。そして絶対に避けなければならないプロ盗作者(プロ剽窃者)になる道へと繋がる。

 一度手にした利便性をもはや我々は手放すことはできないが、“文明の利器”を活用する時にはある意味で“超能力”を使っているのだという深い自覚が必要なのだろう。

■デジタル健忘症でクリエイティブになれる!?

 スマホや検索エンジンは、良くも悪くも我々の頭の使い方を変えてしまったということになるのだが、デジタル健忘症は決して我々にとって不利益ではないことを示す興味深い調査が昨年に報告されている。デジタル健忘症は我々をクリエイティブにしてくれるというのである。

 ロシア・モスクワに本社を置くコンピュータセキュリティ会社のカスペルスキー社は、調査会社「Opinion Matters」に委託して2016年にヨーロッパで大規模な調査を行なっている。

 イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)からそれぞれ1000人(16歳~55歳、男女半々)、合計6000人の勤労者にデジタル機器とネットの利用が日々の仕事と生活にどう影響しているのかを探るアンケート調査を実施した。

 収集した回答を分析したところ、63%の人々がスマホやPCに情報をストックしておくことが価値のあることだと考えていて、将来の発想の源になると見なしていることが判明した。

 デジタル機器の使用についていくつか問題はあるものの、人々はおおむねポジティブにとらえていることがわかったのだが、その中でも創造性に結びつくと考えられているのが興味深い。

「創造性は短期のワーキングメモリで発揮される現象です。そこで一時的に情報が処理され、意味づけられ、学習されるのです。ワーキングメモリは、長期記憶に保存したより深い知識を利用して、創造性を発揮する発火点を見つけ出します」とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの経営心理学者であるゴーカン・アームトグル博士は、この調査結果を見て説明している。

 したがって、むしろあまり重要ではないことを記憶しないほうが、そのぶん余計に創造性のために頭を使えてクリエイティブになれるということで、デジタル健忘症が逆に好ましくポジティブなものへと変貌を遂げることになる。

「長期記憶を思い出すには労力を要します。しかしデジタル機器を効果的に活用すれば、より簡単で正確に情報を掘り起こして個人のクリエイティビティを促進し、知識の収集、保存、探索、統合を可能にします」(ゴーカン・アームトグル博士)

 ある意味ではすでに我々は脳の機能の一部をデジタル環境に“外注”してしまっていて、今後その割合はさらに進むということなのかもしれない。その場合やはり問題になってくるのがセキュリティだろう。デジタル機器とネットワークに関するこのような現状を時折でも意識して、SNS全盛のネット社会で安全で快適な日々を過ごしたいものだ。

参考:「PNAS」、「Econo Times」、「Kaspersky Lab」ほか

文=仲田しんじ

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