1990年代以降、世界的に社会階層が固定化していた!

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 経済協力開発機構(OECD)が発表したデータによれば1990年以降、加盟各国の社会階層はますます固定化してきているという。貧しい家庭の子どもが経済的に成功することがますます難しくなってきているのだ。

■1990年代以降、世界的に経済格差が固定化している

 低所得者層の家庭で育った子どもが中所得者層や高所得者層になったり、あるいは逆に高所得者層から下の層へと“転落”したりすることは社会移動(social mobility)と呼ばれている。この社会移動性が高い社会ほど民主的で平等であると考えられ、政治的にも経済的にも健在な社会であるとされている。

 豊かな先進各国は社会移動性が高い社会であるとみなされているが、しかしながら1990年以降、裕福な国々でも社会移動性は低下してきているということだ。高所得者層に移動できた低所得者層の子どもはわずか17%に過ぎないという。

 OECDが2018年6月に発表したレポート「A Broken Social Elevator? How to Promote Social Mobility(社会のエレベーターは壊れているのか? 社会移動性を高める方法)」では、貧しい家庭出身の子どもが平均所得に到達するのに要する年数を各国別に示すグラフも含まれているのだが、その平均は150年、あるいは5世代ということだ。

 不幸中の幸いというべきなのか、日本は120年、あるいは4世代と平均よりは上回っている。デンマークでは60年、2世代と北欧諸国はかなり平均を上回っているが、ワーストのコロンビアは330年・11世代とほとんど社会移動性がない社会だと形容できる。

 低所得者の父親を持つ子どもの3人に1人は自身も低所得者となり、残る2人は社会的に“上昇”するのだがほとんどの場合、1つ上の中所得者層への移動に限られるという。

 上の所得者層への移動は、1955年から1975年の間に生まれた低学歴の両親を持つ人々にとっては現実的なものであったのだが、1976年以降に生まれた人々にとっては現実味が欠けてきていることも深刻な問題として指摘されている。

 所得階層の最下層(下位20%)の人々の60%が調査した過去4年間の間そのままの状態であり、また逆に高所得者(上位20%)の70%がそのままの収入を保っていたという。つまり1990年代以降、世界的にも格差が固定してきているのである。

 この事態にOECDは警鐘を鳴らしており教育と医療、各種行政サービスへの投資を増やすことで、恵まれない環境にいる子どものハンディを取り除き、経済的苦境が子どもの将来に及ぼす影響を軽減させなければならないと提言している。

 格差が固定してくれば経済活動をはじめ社会のあらゆる部分が“停滞”してくるだろう。活気に溢れた社会を維持するために社会移動性、階層流動性の向上が喫緊の課題となっている。

■アメリカ国民の半数が親と同等の仕事をしている

“アメリカン・ドリーム”の国、アメリカでも階層の固定化は進んでいるようだ。最新の研究では、国民の半数が生まれた時の親の職業と同等の仕事に就いているというのだ。

 もちろん職業に貴賎はないが、高い技能を求められるプロフェッショナルな仕事もあれば、単純作業の仕事もある。ニューヨーク大学の心理学者であるマイケル・ハウト教授はアメリカの総合的社会調査(General Social Survey)の1994年から2106年のデータを分析して、539もの職業を100点満点のスケールで査定した。例えば靴磨き(9点)からフライトアテンダント(53点)、外科医(93点)などだ。職業に貴賎はないのだが、その価値は違ってくるというのはごく当然の認識ではあるだろう。

 調査データからは親の職業も分かるのだが、注目すべきことにデータを分析すると、高い職業ステイタスにある親を持つ子どもたちは、職業選択においてこれまで考えられてきた以上に大きなアドバンテージがあることが浮き彫りになったのである。つまり親が医者や弁護士や経営者などの高いステイタスにある場合、その子どももまたステイタスの高い職業に就ける可能性が高いということだ。

 例えば親が高いステイタスの職業に就いている場合、その子どもの半数は76点以上の職業に就いているという。一方で親が下位の仕事に就いている子どもの半数は28点以下の仕事に就いているということだ。子どもの半数は親と同程度のステイタスの仕事をしていることになる。

 生まれたときの状況、その時に両親が生活のために就いている職業は、以前に考えられていたよりも、人生で何を得るかのについての大きなファクターになっており、これまでアメリカはチャンスに満ちた国だと考えられていたが、この研究はそのことについて素朴な疑問を投げかけるものになるとハウト教授は解説する。

 いわゆる“リーマンショック”以降、アメリカでも貧富の格差が広がっているといわれて久しい。その原因のひとつに、経済面でなかなか親を越えられないという階層の“粘着度”が高まっているようだ。

■低所得者層の子どもにとっては地方が有利

 社会移動性、階層流動性は都市と地方で異なってくるのだろうか。最近の研究では、低所得者層の子どもにとって、育つ環境は都市よりも地方のほうがよいかもしれないことを示唆している。

 米・ペンシルバニア州立大学の研究者をはじめとする合同研究チームが2018年6月に「Regional Science Policy & Practice」で発表した研究によれば、ほかの条件が同じであれば、低所得層の子どもは都会よりも地方で育ったほうが良さそうであることが示されている。

 研究チームによれば社会移動性を左右する最も大きな要素が5つあるという。そしてその5つの要素が都会と地方では異なる働きをするということだ。

 5つの要素のうち3つはネガティブな要素で、シングルマザー世帯の割合が多いこと、高校中退率が高いこと、経済格差が大きいことである。残る2つぱポジティブな要素で、通勤通学時間が15分以内であること、行政サービスが充実していることである。

 まずは通勤通学時間だが、意外なことに通勤通学時間が短いことは地方での暮らしに大きな恩恵を与えるということだ。地方は道路が空いているので、車で15分走ればかなりの距離を移動できるかもしれない。

 そして高校中退問題だが、これは地方よりも都市部できわめて深刻な問題になっているという。都市部では学歴が社会的成功の大きな要素であるため、もし高校を中退した場合は将来においてきわめて大きなダメージであると認識されるからであるからだ。

 とすれば、あまり心理的なプレッシャーを感じることなく地方の高校に通っていたほうがよいということにもなりかねない。そしてまた都市部の学校は“玉石混交”でもある。

 この他にも都市と地方の違いが浮き彫りになった。シングルマザー世帯は都市部のほうが地方よりも収入を上げやすいということだ。また収入格差についても、都市部は地方のおよそ半分にまで縮まっている。そして行政サービスについては都市部と地方に関わらず低所得者層に手厚く恩恵を与えているということだ。

 低所得者層の子どもにとっては地方が有利で、シングルマザーにとっては都市の生活が適しているという大雑把な傾向が示されることになり、都市と地方の行政はこうした実態を理解して、マイナス要素を補う政策が求められているということになる。行政の側においても経済格差を埋める解決策が期待されているようだ。

参考:「OECD.org」、「PNAS」、「Wiley Online Library」ほか

文=仲田しんじ

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