齢を取るほどに鼻が大きくなる?

サイエンス

 体力の衰えや老眼の進行など“寄る年波には勝てぬ”を実感する読者もおられることだろう。しかし加齢は悪いことばかりではないことが最近の研究で報告されている。我々は齢を取るほどにポジティブになれるというのだ。

■加齢によってポジティブになれる?

 加齢に伴うネガティブな影響はできる限り被りたくないものだが、齢を重ねることで好ましい変化も訪れるというから興味深い。齢を取るほどにソーシャルな交流において、幸せな気分になりやすいというのである。

 米・マクリーン病院やハーバード大学医学大学院をはじめとする合同研究チームが2019年2月に「Journal of Experimental Psychology: General」で発表した研究では、1万人もの人々の感情感受性(emotion sensitivity)を調査して、表情から感情を読み取る感情感受性の年齢の違いによる特徴を探っている。

 10歳から85歳の男女9546人が参加したオンライン調査では、怒り、恐怖、幸福をさまざまな程度で表現している人物の表情を見せて、表情から敏感に感情を察する感情感受性を計測した。

 収集したデータを分析したところ、女性は怒りと恐れの表情を男性よりも敏感に察していることが明らかになった。一方で幸福についてはあまり大きな男女差は見られなかった。

 年齢による特徴としては、思春期と若年成人は性別に関わりなく最も感情感受性が高くなることも判明した。特に怒りの表情にはきわめて敏感であったのだ。これは思春期の発達において、他者の怒りを敏感に察することが重要であるからだと説明できるという。

 では加齢による影響はどうなっているのか。中高年以降の感情感受性の特徴としては、怒りと恐れに対する感受性が顕著に低くなっていることが突き止められた。その一方で幸福の感受性はそれほど低くなっていなかったのである。

 他者の怒りや恐れの表情にはある意味で“鈍感”になり、逆に幸せな表情にはよく気づくことができるということは、ソーシャルな交流において前向きになりやすいということにもなる。意外にも加齢によってポジティブになれる要素があることは中高年にとっての希望になるかもしれない。

■齢を取るほどに鼻が大きくなる

“人生100年時代”といわれる今日、人々の年齢に対する認識も昨今は大きく変わってきているようだが、加齢により場合によってはポジティブな効果も持ち得る身体的変化もあるという。なんと齢を取るほどに鼻が高くなることがかつての研究で報告されているのである。

 フランス・ミラノの研究機関「Functional Anatomy Research Center(FARC)」の研究チームが2011年に犯罪科学系ジャーナル「Forensic Science International」で発表した研究では、4歳から73歳の859人の鼻のボリュームを示すデータを分析して、鼻の経年変化を調べている。

 研究チームは鼻梁の長さから、鼻の幅、両方の鼻孔の大きさ、鼻の高さ、鼻の角度など、いくつかのポイントを具体的に観察して各人の鼻の経年変化を追跡した。

 分析の結果、鼻の形状は加齢による影響がきわめて大きいことが示されることになった。簡単に言えば、齢を取るほどに鼻は大きくなっているのだ。

 男性のほうが女性よりも鼻が大きくなる傾向が高いが、幼児期の鼻の成長は女児のほうが早い。3、4歳の時点で女児の鼻の大きさは成長期が終わった成人初期(18~30歳)の42%に達している一方、男児の場合はまだ36%の大きさにとどまっている。

 もちろん成長期が終われば鼻の成長も極端に減速するのだが、それでも僅かながらに成長を続け、50代の時点で鼻のボリュームが成人初期よりも男性で29%、女性で18%増えているということだ。

 我々の鼻は軟骨が占める割合が大きく、成長期が終わってからでも僅かずつであれ組織が堆積していくのである。さらに鼻の周囲の皮膚が痩せていくことによって鼻が大きく見える傾向もある。残念なのは加齢によって鼻先はやや垂れ下がるということだが、若い時に自分の鼻が小さいと気にしていた向きには、その懸念は加齢と共に少なくなるのかもしれない。

■アンチエイジングにベストな運動法は?

 加齢をできる限り食い止める鍵のひとつが運動だ。ではアンチエイジングのためにはどんな運動が効果的なのだろうか。最近の研究では、最もアンチエイジングに有効なのは、長距離走などの持久トレーニングとインターバルトレーニングであることが報告されている。

 ドイツ・ライプツィヒ大学をはじめとする合同研究チームが2018年11月に心臓疾患系ジャーナル「European Heart Journal」で発表した研究では、3つのタイプの継続的な運動と細胞の老化との関係を実験を通じて探っている。

 我々の細胞の核の中にはDNAが巻きついたいくつもの染色体があるが、この棒状の染色体の末端部にあって“保護キャップ”の役割を果たしているのがテロメアと呼ばれるタンパク質だ。加齢によってこのテロメアは短くなるといわれ、染色体の保護機能も弱まるとされる。そして細胞の老化へと繋がっていくのだ。つまり長く健康なテロメアを維持することがアンチエイジングにとって重要なのである。

 研究チームは124人の運動習慣を持たない健康な若者を4つのグループに分け、6ヵ月間の運動習慣によってテロメアの長さがどのように変化するかを検証した。運動量は1回45分を週に3回で、Aグループはランニングなどの持久トレーニングを行い、Bグループは緩やかな運動と激しい運動を交互に繰り返すインターバルトレーニング、Cグループは筋力トレーニングをそれぞれ行い、Dグループはコントロールグループとしてそれまで通り運動をしない生活を送ってもらった。

 トレーニング開始前と6ヵ月後のそれぞれのテロメアを比較したところ、持久トレーニングとインターバルトレーニングを行なったグループにおいて、テロメアが長くなっていることが確認されたのだ。一方で筋力トレーニングを行なったグループのテロメアに変化は見られなかった。

 サンプル数が少ないなどの制約はあるものの、今回の研究によって、持久トレーニングとインターバルトレーニングにアンチエイジング効果があることが確かめられたことになる。早歩きのウォーキングからランニング、そして激しい運動を挟むインターバルトレーニングと、それぞれの体力に見合った運動を習慣づけたいものである。

参考:「McLean Hospital」、「ScienceDirect」、「Oxford University Press」ほか

文=仲田しんじ

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