魚は年々釣られ難く進化している? 魚のニオイで思考能力が高まる? 魚にまつわる興味深い話題3選

サイエンス

 ルアーフィッシングやフライフィッシングの経験のある向きには周知のことだが、釣り場で同じルアーやフライをずっと使い続けていると徐々に魚に飽きられてそのうち見向きもされなくなってくる。文字通り“スレる”という現象で、こうなる前にルアーやフライを交換しないことには釣果が上がらないのだ。しかし改めて冷静に考えてみると、人間のような知能があるはずのない魚にそんな能力があるというのもスゴイ話だ。そして最新の研究では漁場や釣り場にいる魚は進化している可能性があることが指摘されている。

■人間の獲物にされた魚は進化する!?

 英・グラスゴー大学のショーン・キレン博士が率いる研究チームの論文が先頃、学術誌『Proceedings of the Royal Society B』に発表され、魚の生態に関する新たな認識が提示された。

 実験では水槽の中の小魚(ヒメハヤ)の魚群(43匹)をネットで繰り返し捕獲し、捕まえやすい個体と捕まえ難い個体を特定したという。そしてそれぞれの運動性能と基礎代謝率を調べたところ、個体によって大きな違いが出てきたということだ。

 まるで短距離選手のように瞬時に反応してネットを素早く避ける個体は、無酸素運動性能に優れており、そのぶん基礎代謝率も高いという。逆に捕まりやすい個体は運動能力が低く基礎代謝率も低い。一群のグループの中でこれほどの個体差があるのはどうしてなのか? 検証と議論を重ねるうちに、この個体差はグループの個体数に関係していることが濃厚になったという。

 つまり、このヒメハヤのように肉食魚や水鳥などの餌になっている種は、捕獲されやすい個体とされ難い個体がバランス良く並存し、生態系の中で全体の数を調整しているという。全体の数が増えてくれば弱い個体も増え、減れば強い個体の割合が増していくのだ。

 しかし肉食魚や鳥の脅威であればまだしも、人間の標的にされた場合のプレッシャーたるや比較にならないほど高い。網や釣り針などで一度に大量の個体が捕獲されるからだ。人間のターゲットにされることで、運動性の低い個体はまさに一網打尽にされ、残された優れた個体は度重なるプレッシャーの中で遺伝子的な変化を遂げるのではないかと示唆している。つまり漁や釣りの対象魚は進化しているというのだ。

「漁や釣りによる捕獲は、平均以下の能力の個体を殲滅し残った個体の生殖能力を最大化します。そしてこれが遺伝子的な変化へと繋がっていくのです」と、研究を主導するショーン・キレン博士は「Phys.org」の記事で語っている。

 研究ではまだ実際に野生の種を研究するには至っていないが、もしこの仮説が正しいとすれば、管理釣り場のニジマスがすぐにルアーを見飽きることにも納得がいく。現代の釣魚たちは進化した文字通りのゲームフイッシュだったのである。

■魚のニオイが“批判的な思考”をもたらす

 英語世界でfishyというと、「魚のような」という意味以外にも「あてにならない」「うさんくさい」「いががわしい」などというニュアンスもあり、魚が持つ欺瞞的なイメージがよく現れているのかもしれない。

 そして実際、「人間は魚のニオイを嗅ぐと疑い深くなる」という学説が米・南カリフォルニア大学のノルバート・シュワルツ教授から発表されて世間を驚かせると共に、いったいどういう局面で魚のニオイを嗅ぎながら思考を巡らせるのか、なかなかツッコミどころのある研究として話題になった。しかしこの学説をより確かなものにする実験が行なわれ、新たな知見をもたらす可能性が出てきたのだ。

 実験では、まず実験参加者を2グループに分け仕切りで分離した2つの区画に招いた。その1つの区画には魚油(フィッシュオイル)を撒いて“魚のニオイ”に満ちた状態にしてあったのだ。そして2グループの参加者たちに簡単なクイズのような質問に回答してもらったのだが、その中でもキーとなる質問が「(旧約聖書の『創世記』で)箱舟の中にモーゼは同じ種類の動物を何匹ずつ乗せたか?」という質問であったという。

 この質問、実は「モーゼの錯覚」と呼ばれる“ひっかけ問題”で、動物の匹数に焦点をあてることで、そもそも箱舟の所有者はモーゼではない(正しくはノア)という設問ミスに多くの人が気づけないという、性質の悪い問題なのだ。

 しかしこのひっかけ問題に、魚のニオイに満ちた区画にいた31人のうち13人がこの質問自体がおかしいことに気づいたのだ。一方、無臭の区画にいた参加者のほうは30人中5人しか疑問を感じる者がいなかった。つまり、魚のニオイは人間に“批判的な思考”をもたらしているということだ。

 漁港の近くでもなければ、魚のニオイに満ちた環境の中で思考をめぐらせる機会もあまりないと思うが、この興味深い実験結果はいったい何を示唆しているのか? 今回の研究を行なったシュワルツ教授とミシガン大学の研究チームは、この現象は人間の本能に直結する能力であると説明している。彼らの仮説によれば、我々の祖先は腐った魚を食べて健康に支障をきたさぬように、魚のニオイに敏感になったのだという。

 つまり、食べられるか食べられないか慎重に判断を巡らせながら嗅ぐ習慣を我々人類はこれまで積み重ねてきたため、魚のニオイもまた“批判的思考”モードのスイッチを入れるキッカケになるということだ。もちろん魚だけでなく、人間は自分たちが食用にしているあらゆる食物の腐敗臭にとても敏感なのだという。それぞれの文化によって、どの腐敗臭が特に“批判的思考”を呼び覚ますのか、今後の研究の課題であるということだ。今後、重要なビジネス案件について判断を下す際には、意図的に“臭い環境”に身を置いてみるのもいいのかもしれない!?

■日々の食事に鉄分を供給する鋳物フイッシュ

 最後に、お魚関係でちょっとユニークなグッズがこの「Lucky Iron Fish(ラッキー・アイアン・フィッシュ)」だ。手のひらの半分のくらいの大きさの魚の形をした鉄の鋳物なのだが、お土産の置物? ペーパーウェイト? と一見しただけではどんな目的で作られたグッズなのか判然としかねるだろう。なんとコレ、料理中の鍋の中に入れて鉄分を供給するための食生活改善グッズだったのだ。

 カンボジアを訪れたカナダ人医師のクリストファー・チャールズ氏が、現地の一般の人々の日常の食生活の中で鉄分が不足している現状を認識し、その手軽な解決策としてこのLucky Iron Fishを思いついたということだ。実際に発展途上国の地域では鉄分不足から起る貧血症などが健康面の大きな懸念になっており、この鉄分不足を薬剤などに頼ることなく解決する画期的なアイディアがこのLucky Iron Fishなのだ。

 使い方はいたって簡単。煮物や汁物を調理する鍋に食材と共にこのLucky Iron Fishを一緒に入れて煮るだけだ。何故魚の形をしているのかといえば、カンボジアでは魚が日常的な食べ物であるからだという。腐食させない限りはもちろん半永久的に効果を発揮する。

 このLucky Iron Fishを用いた料理を毎日摂取するだけで、成人の1日の鉄分摂取必要量の75%をこのグッズだけから獲得できるというから驚きだ。そう考えると、我々の食生活の中においても鉄製の調理器具の重要性を改めて見直すことになるだろうか。ちなみに魚の中ではマグロやカツオ、ニシンなどが鉄分が多く含まれているという。ウナギなどの漁獲量が懸念される昨今だが、今後も食用に観賞に釣りにと、魚たちとうまくつきあっていきたいものだ。

参考:「Phys.org」、「Popular Science」ほか

文=仲田しんじ

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