音楽の好みは人それぞれだが、IQが音楽の嗜好に関係していることが最近の研究で報告されている。高IQの者は特にクラシックやジャズを好んでいるという。
■高IQはインストゥルメンタル好き
歌い上げるボーカルの曲でないと盛り上がれないという向きもいれば、逆に楽器が多いフルオーケストラのほうが浸れるというリスナーもいる。かくも音楽の好みは人それぞれだが、IQ(知能指数)が高い者はクラシックやジャズなどの楽器だけの楽曲(インストゥルメンタル)を特に好んでいることが示されている。
米・オックスフォード大学の研究チームが2019年4月に「Evolutionary Behavioral Sciences」で発表した研究では、調査を通じてIQの高い人ほど楽器演奏曲を好む顕著な傾向にあることを突き止めている。
研究チームのエレナ・ラセフスカ氏はイギリスの進化心理学者、サトシ・カナザワ氏の「サバンナ理論」に触発されて今回の研究に取り組んだということだ。
サバンナ理論によれば、基本的に人間の脳は人類の“故郷”であるアフリカ・サバンナの環境に適応するように設計されているのだが、高い知能を有する者の脳は、サバンナにはないモノや現象に好奇心を触発されて好むようになるという説である。これが音楽の好みにも反映され、知能の高い者はいわば原始的なボーカルがメインの曲よりも、より人工的な楽器演奏がメインの楽曲を好むようになるというのである。
研究チームはクロアチアの高校生467人を対象にIQテストを行い、その後、音楽の好みを浮き彫りにするアンケートに回答してもらった。収集したデータを分析したところ、IQが高い者ほど、楽器演奏曲(インストゥルメンタル)を好む高い傾向があることが明らかになったのだ。
とはいえ高IQの者がボーカル曲を嫌っているというわけではない。高IQの音楽的嗜好とボーカル曲の間には有意の関係性は特に発見されなかっただけのことだ。
今回の研究は高校生に限定したもので、より幅広いサンプルでのさらなる調査研究が求められているが、IQと音楽的嗜好の関係について興味深い研究結果であることは確かだ。
■高知能の者ほど孤独を好む?
クラシック音楽はたとえコンサートホールで聴いたとしても、かなり個人的な体験になるように思える。みんなで盛り上がるロックやポップスのコンサートとは質的に異なるような気がするがいかがだろうか。ましてや部屋の中でのクラシック鑑賞となれば、かなりの程度孤独な楽しみということになるのかもしれない。
そして最近の研究では、知的な者ほど孤独な状態を好んでいるというから興味深い。
たとえば2016年にシンガポールマネージメント大学とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの合同研究チームが「British Journal of Psychology」で発表した研究では、人類が生存を有利にするために培ってきたサバイバル戦略である「サバンナ理論」が、きわめて知能の高い人物では逆説的に働くことを報告している。基本的に生存に有利なはずである友人知人との頻繁な交流を、人口密度が高い都市に住む高知能の個人は好まないというのだ。
なぜ都会の知的な人間はサバイバルで有利に働く友人知人とのソーシャルな交流を嫌い、アドバンテージをわざわざ放棄しているのか。ライターのジェフ・ヘイデン氏によれば、その理由は大きく2つ考えられるという。
まず1つめは進化人類学からのアプローチで、高知能の人間ほど、文明が発達した現代社会に容易に適応することができる。初期人類が暮らした“サバンナ”の世界とは異なり、現代の都市では食料、家屋、セキュリティなどのために特定の社会集団と密接に連絡を取り合うことはもはやあまり重要ではない。したがってすでに社会に適応している高知能の人間は、ソーシャルな交流にあまり重きを置かないというのだ。
2つめは設定された長期的展望である。文化レベルの高い社会では、将来を見越した展望や長期的なゴール設定が可能になる。知的な者ほど先を見通した未来の観点から現在の行動を選ぶ傾向が強いという。したがって高知能の者は現在の刹那的な楽しみや資源を友人知人と共有することよりも、未来へ向けた活動を重要視するために現在の人づきあいが悪くなるというのである。
いずれにしても1つの理由だけではなくいくつもの理由や動機が複雑に絡み合って、高知能の者の人づきあいの悪さが形成されているようだ。もちろん人は独りでは生きていけないが、必要以上に社交的にふるまう必要もないのだろう。
■独で高知能な人々が好きな3つのゲーム
では高知能な人々は孤独な時間をどうやって楽しんでいるのだろうか。
高い知的能力を持つ人々は概して課題に挑戦することが好きだといわれていて、魅惑的でチャレンジングなゲームを好むということだ。特に以下の3つのゲームが共通して好まれているという。
●チェス
今では対戦相手をオンラインですぐに見つけることができるチェスは高知能の人々が好むゲームである。
チェスは頭の中で計算ができない者は興味が持てないゲームであるという。つまりチェスをプレイすることは高知能の証でもあるのだ。チェスで勝つには対戦相手の考えを先取りしなければならない。
もちろん対戦相手の次の一手を確実に予測することはできないので、指しそうな手を可能な限り抜き出してあらゆる可能性を計算しなければならない。
持ち時間を設定した対戦では、集中力も求められてゲームがより緊迫したチャレンジングなものになる。日常的にチェスをプレイすることで、判断力と忍耐力もまた日々磨かれていくのだ。
●数独
3×3のブロックに区切られた9×9の正方形の枠内に1~9までの数字を入れるパズルの一種である数独もまた高知能の人々が独りで楽しんでいるゲームだ。
数独はクロスワードパズルのようだが、クロスワードパズルよりも多くの暗算を必要とする。数独を巧みにプレイするには、英語の単語をたくさん知っていると同時に、クイズに慣れておくという素養もまた求められている。
数独をプレイすると脳神経細胞の可塑性(neuroplasticity)が向上するので、プレイ以前より賢くなることが知られている。
●リアル脱出ゲーム
必要は発明の母である。賢い人たちは自分の頭が良いということだけに満足することはない。自分のメンタルの能力が今の現実に活かされることを証明してみせたい意欲もあるのだ。
そこで注目されるのは昨今徐々に人気を集めている「リアル脱出ゲーム」である。リアル脱出ゲームは実際の施設内で行なうアドベンチャーゲームの一種で、閉鎖された環境に閉じ込められた状況からさまざまなヒントを手がかりに脱出することを目的としている。
それぞれのリアル脱出ゲームに取り組むことで、知的潜在能力が常に刺激されてIQが上がることが示されている。自分の知的能力にチャレンジしたい高知能の人々がリアル脱出ゲームに魅かれる理由はまさにそこにあるという。
上記の3つのゲームは自分の持つ知的潜在能力に対して実にチャレンジングであることで知られていて、それゆえに高知能の人々に人気があるのだ。ちょっとした暇な時間ができた時には興味本位で試してみてもいいのかもしれない。
参考:「APA PsycNet」、「Inc.」ほか
文=仲田しんじ
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