高級ブランド人気が少子化を招く!? 止められない浪費行動を科学する

サイコロジー

 高級ブランド品の数々がもしこの世からなくなっても、人々の健康で文化的な生活に支障をきたすことはないだろう。しかしそれでも高級ブランド品は存在し、人々のニーズも確実にある。そして最近の研究では、ブランド品が良く売れる地域には、ある特色があることが指摘されている。

■経済格差がある州ほど高級ブランド品が売れる

 ブランド品を買い求めて身につける行為には、さまざまな理由があるだろう。具体的にどうであれ、かいつまんで言えば自分および他者へメッセージを発信する行為である。そしてあたかも生活必需品であるかのように、ブランド品へのニーズが高い地域があるという。いったいどういう地域なのか。

 Googleの研究者であるウカシュ・ワラセク氏とゴードン・ブラウン氏が2015年に心理学系学術誌「Psychological Science」で発表した研究は、Googleの検索サービスのひとつである「Google Correlate」(現在はサービス終了)を使って、所得格差と関係のある検索ワードの検索結果を分析し、アメリカ国内の各地域の社会経済的な特色を探っている。

 研究によれば、所得格差の激しい地域で高級ブランド品が売れていることがわかった。またイメージ的には富裕層がブランド品や贅沢品を多く買っているように思われがちだが、実はそうではなく、低収入層と中流層が多くブランド品を買っているというから意外に思えるかもしれない。

 経済格差が激しい地域ほど、富裕層が目立つと共に低所得者層も目立つことになる。そこでこうした地域の一部の低所得者は、見た目で貧しさを体現しないように、無理をしてでもブランド品(主に衣服、装飾品)を購入して身につける傾向があるということだ。

 そして中流層のほうはと言えば、すぐ近くに住んでいる低所得者層と同一視されたくないという理由から、ブランド品を買って着用するということである。したがって経済格差が激しい地域では、まるで生活必需品であるかのようにブランド品が良く売れるのだ。そしてイメージに反し、富裕層が特に多くブランド品を買っているわけではないのである。

 経済格差が激しい環境の中で、むしろ低所得者という弱者の側のほうがブランド品などへの出費がかさんでいるとすればますます金銭的に逼迫してくるだろう。そしてこうした実情が破産や犯罪に結びつく可能性も無視できない。貧困状態から自力で脱出して成功できる“アメリカンドリーム”がまだまだ実現可能であることを願うばかりだが……。

■女性は女性の目を意識して高級ブランドを身につけている

 高級ブランド品を身につける理由を突き詰めればつまり“他人の目”と“自尊心”だ。“他人の目”の他人は、第一にはやはり異性であると思いがちだが、実は考えられている以上に同性の目を意識しているという。ブランド品はパートナー(&パートナー候補)のために身につけるというよりも、同性の目に対処する意味合いかなりあるということだ。

 男性もそれなりに同性の目を意識しているのだが、高級ファッションアイテムを身につけることにおいては、女性のほうがより同性の目を意識しているという。

 ファッションアイテム売買サイト「My Luxury Bargain」が行なった調査では、18歳から45歳までの計300人の女性にファッションアイテムの購入に関する質問に回答してもらった。回答を分析する上で、若年グループ(18歳~32歳)、と中年グループ(33歳~45歳)の2グループに分けてその特徴を探っている。

 中年グループの63%は、友人知人との社交的な集まりのために高級ブランド品を購入していると回答している。つまり異性の目というよりは、周囲の仲間の女性たちの目を前提にして高級ブランド品を購入して身につけているのだ。

 一方、若年グループは、そもそも高級ブランド品をあまり購入しない(できない)ものの、37%は自分自身の満足感のために高価なアイテムを身につけるということだ。

 そして中年グループの52%は自分で決めている高級ブランド名があり、そして57%はそれらの高級ブランド品の高価な価格に納得しているということである。社交的な集まりの中で目を惹かせるアイテムであるだけに「安くては困る」ということだろう。こうした女性たちが多くいる限り高級ブランドはまだまだ安泰だ。

■誇示的消費行動が妊娠出産率を大きく低下させる

 高級ブランド品を購入して身に着けることなどの、財力や地位を誇示するための消費行動は誇示的消費(conspicuous consumption)と呼ばれているが、やはり度が過ぎればネガティブな事態を招くことになるのかもしれない。誇示的消費が広く行なわれている社会では、妊娠出産率が下がることを示唆した研究が昨年に発表されている。

 米・エモリー大学の人類学者であるポール・フーパー氏らの研究チームが2016年に「Philosophical Transactions of the Royal Society B」で発表した研究では、労働市場での競争が激しく誇示的消費行動が普及している社会においては、女性の妊娠出産率が大きく低下することを指摘している。

 フーパー氏は南アメリカ・ボリビアの先住民族であるチムシュ族(Tsimane)の暮らしぶりを観察してある発見をした。

 チムシュ族は狩猟採集生活を行なう部族としても知られているが、狩猟採集型の部族民はあまりモノを持たないといわれている。必要最小限のモノだけを所有し身軽に移動できたほうが都合がよいためであろう。

 しかし同じチムシュ族でも、街の近くで暮らしていて時には街のマーケットに出向き現金収入を得ている家族には、街で購入した腕時計やナイロンバッグなど、必ずしも生活必需品ではないモノを所有して身につけている傾向があることがわかったのだ。これはつまり誇示的消費行動だ。

 そしてこうした街のマーケットと接触が多い家族ほど、子どもが少ないこともわかった。森に暮らすチムシュ族のカップルは平均9人の子どもを出産して育てているが、街に近い家族は平均して5、6人になり、街の中で暮らしている家族の子どもは平均3、4人であるという。

 時計やバッグなどを家族全員に買い与えるにはもちろんそれなりの出費になる。さらに子どもを学校を通わせようと考えるなら、街の人々に近い現金収入が必要になってくる。つまり誇示的消費行動が増えれば、養育費が削られ子どもを多く持てなくなるのは自然な成り行きではある。

 フーパー氏によれば、規模が大きく匿名性が高くなった現代の社会では、人間の本能はある意味で止むを得ず誇示的消費行動に向かうように働くということだ。つまり大規模になった社会の中で個人を埋没させないためにも、程度の差こそあれ誇示的消費の必要性を感じるのである。

 とすれば今日の社会は人間の本能を間違った方向へ向かわせるほど大きくなってしまったということだろうか。高級品を購入する際には、それが度を越した誇示的消費であるのかどうか、少し気にしてみてもいいのかもしれない。

参考:「SAGE Journals」、「Hindustan Times」、「Emory University」ほか

文=仲田しんじ

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