驚異の繁殖力と身体構造を誇るゴキブリに科学者が注目

サイエンス

 ハエやカはどこからともなく部屋に入ってくることが多いが、ゴキブリがやっかいなのは少しでも“快適”と感じたならそこを住処にしてしまう点だ。拠点を築いて卵を産み、どんどん増えて気づけば一大勢力(!?)になっていた、なんてことも……。

■ゴキブリ駆除スプレーでアパートが爆発

 そこで各社からさまざまなゴキブリ駆除グッズが発売されているわけであるが、ある種のグッズはくれぐれも取り扱いに注意しなければならない。2016年4月、米・ニュージャージー州のアパート1階の部屋で、窓ガラスが粉々になるほどの爆発が起り、幼児を含む住人の3人が病院へ運ばれるという事故が起った。テロ事件にナーバスになっている昨今だけに、付近住民の不安を煽り立てたが、爆発の原因はなんとゴキブリ駆除スプレーの使い過ぎだったのだ。

 4月13日の夜10時頃、ニュージャージー州アズベリパークにある3階建ての集合住宅の1階で、窓が粉々に砕けるほどの爆発が起った。部屋の住人の3人は救急車で近くの大学病院へ急送されたが幸いにもいずれも軽症だったということだ。消防の調べによれば、この爆発は3つの要因が重なったことで発生したということである。

 まず最大の原因が、ゴキブリ殺虫スプレーの撒きすぎである。アメリカのご家庭では有名な害虫駆除スプレー「Raid Roach Killer」を、部屋の中に大量に噴射していたことだ。2番目の要因は火種となったストーブの種火である。アメリカには今でも種火がずっと灯っているタイプのストーブが使われているのだが、スプレーを撒いた場所がこの種火にあまりにも近すぎたようだ。しかし、この2つの要因だけでそうそう爆発に繋がるものでもない。いくらスプレー製品といえども、今時の製品にそんなに簡単に火事を引き起こすものなどないことはご存知の通りだ。

 アンラッキーだったのは、スプレーを撒いている間、部屋の窓を閉め切っていたことだった。スプレーを撒き過ぎたため、いくぶんか吸い込んでしまい頭が痛くなり窓を開けたところで、急に流れ込んできた酸素に種火の火力が増して爆発を引き起したということのようだ。偶然が重なって起った爆発だが、部屋の中でスプレー製品を使うことがある向きは気をつけるに越したことはないだろう。消防によれば、スプレーを撒く前に窓を開けていたならおそらく爆発は起らなかったということである。

 もちろん、この部屋の住人も好き好んで殺虫スプレーを撒きすぎたわけではない。それほどこのアパートがゴキブリの“一大帝国”と化していたからなのだ。今回の悲劇がゴキブリたちにも大きなダメージを与えたならば、多少は報われるものになるのかもしれないが、駆けつけた消防士はこのアパートのゴキブリの多さにも驚いていて、ゴキブリが「我が物顔で横行している」と地元メディア「Patch」の取材に答えている。まさにゴキブリたちに占領された部屋といっても過言ではない。

■ゴキブリの驚異の身体構造がロボット開発に活かされる

 部屋の主を追い出すほど、数で圧倒するゴキブリの凄まじい繁殖力だが、脅威なのはその生殖能力だけではない。素早く地を這い、時には羽ばたいて宙を舞う運動性能と、ホウキで叩いたくらいではビクともしないタフな身体構造もまた、憎らしくなるほどに秀でている。

 成虫になればそれなりに硬い甲殻と羽、外骨格を備えていながらも、実にフレキシブルで復元力に富んだゴキブリの身体構造に着目し、ロボット開発に活用できないかと考えたのが米・カリフォルニア大学バークレー校の統合生物学者、カウシィク・ジャヤラマ氏とロバート・フル氏だ。

 彼らはまず、どれほどゴキブリの外骨格と羽が柔軟性と復元力に優れているのかを検証した。体高が9mmのゴキブリ(ワモンゴキブリ)を僅かな隙間のある箱に閉じ込めたのだが、なんと3mmの隙間をくぐり抜けることができたのだ。まさに忍術のようなその“くぐり抜けの術”の模様は克明に撮影されて動画で確認することができる。この時にはまるで乗用車にスポーツタイプのサスペンションをつけて“シャコタン”にするように、脚の形状が変化しまさに地を這うような歩き方になるということだ。

 またゴキブリの身体を機器で挟み込んで圧力をかける実験も行なわれており、それによれば自分の体重の900倍の重さで踏みつけられてもダメージを受けることがないというからこれも驚きだ。柔らかいカーペットの上などでは特に、相当強く叩いたり踏みつけたりしなければお陀仏しないのも頷ける。

 こうして明らかになったゴキブリの脅威の身体構造をロボットに応用する研究開発が進められている。彼らがプロトタイプとして作り上げたのが6本足のゴキブリロボット「CRAM」だ。ゴキブリに比べれば大きなロボットだが、その名に恥じぬ機能が盛り込まれている。CRAMの体高は140mmだが、その半分の75mmまで“シャコタン”になって歩行が可能だ。甲殻となるアルマジロのような分割プレートは弾性に富んでいて、約9kg(20ポンド)の圧力に耐えられるということだ。

 またL字型の6本の脚は強固な“芯”が通った構造になっており、“シャコタン”状態では脚が180度に開くようになっている。つまり水泳に例えれば、クロールから平泳ぎに変えて前進し続けるということだ。予期せぬダメージやシビアな地形にも対応できるロボットということで、このCRAMは災害現場の情報収集や人命救助での活用が期待されているという。

「潜在的なダメージを前提にしたロボット開発が推進されるのはとても素晴らしいことです」と語るカウシィク・ジャヤラマ氏。人間にとって手強い強敵であるゴキブリだが、ロボットに姿を変えて味方になってくれれば心強い限りだろう。

参考:「Patch」、「Science」ほか

文=仲田しんじ

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