ファストフードに代表される高脂肪、高カロリー、砂糖と塩を多用したメニューに長期的な免疫系へのリスクがあることが最新の研究で指摘されている。
■ウイルスとジャンクフードは同じ脅威!?
インフルエンザをはじめとする感染症から身を守る最後の砦になっているのが、我々の身体が持っている免疫システムである。
風邪のウイルスなど何か“ヤバそう”なものが体内に侵入してきた場合、これと戦うため血中の白血球が増えるなどして身体の免疫力が高まる。こうして感染症から身を守るわけだが、この勝利の体験は“戦歴”として身体が学習することが確認されている。次に同じウイルスが来た場合は“初対戦”の時よりもいち早く免疫システムが作動するのである。
であれば常に身体の免疫力が高い状態にあればいいと考えてしまうのも無理はないが話はそう簡単ではない。免疫システムが発動している状態は、身体が一種の“炎症”を起している状態であり、この状態が長く続けば血管や臓器に少なからぬダメージを与えるのだ。そしてなんと高脂肪・高カロリーなファストフードなどの食事は、まるでウイルスに侵入されかのように免疫システムが作動してしまうことが最新の研究で報告されている。
ドイツ・ボン大学の研究チームが2018年1月に学術ジャーナル「Cell」で発表した研究では、マウスを使った実験で高脂肪・高カロリーな欧米型の食事で身体の免疫システムが作動して炎症状態になり、動脈硬化などを引き起こしやすくなることが指摘されている。さらに厄介なことに、この体験を学習することで免疫系のプログラムが“書き換えられる”というのである。
具体的には高脂肪・高カロリーなな食事でコレステロール合成が高まり、炎症に関係するタンパク質の複合体であるNLRP33を介して免疫システムが遺伝子レベルで書き換えられてしまうということだ。遺伝子レベルの再プログラムであることから、いったん書き換わってしまえばすぐには元に戻ることはない。
いわば身体はファストフードを食べることとウイルスの侵入を同じ“脅威”であると判断していることになる。そして遺伝子レベルでの変化も伴うことから、人生の早い時期(幼児期・幼少期)の健康的な食習慣の形成がますます重要視されてくる話題だ。
■ファストフード店が少ない地域の住民は痩せている!?
ファストフードがすべて悪いとは言わないまでも、子どもの頃にファストフード系の食習慣がついてしまうことには、無視できないリスクをはらむと言ってもよさそうだ。
就職や結婚、あるいは新たな家族の誕生などを機に新生活をはじめるという人も少なくないだろうが、自分や家族の健康を考慮した場合、住む場所はファストフード店やコンビニ、食料品店が少ない地域にしたほうがいいのだろうか? 子どもが1人で買い物ができるようになった時のことを考えると、イメージ的には確かにファストフード店が少ない地域のほうが望ましく感じられるかもしれない。
実際、アメリカの地方自治体では住民の健康を考慮してファストフード店や食料品店の新たな出店を規制している地域もある。こうした社会工学的な政策が実際に効果があるのかどうか、2017年3月に米・イリノイ大学の研究チームが興味深い研究論文を発表している。
車社会の郊外などでは徒歩圏内に飲食店や食料品店がほとんどない地域がある一方、都市部では近所に何店舗もコンビニやスーパーがあり、さらにファストフード店をはじめとする飲食店がよりどりみどりの地域もある。こうした地理的条件は住民の体型や健康に影響を及ぼしているのだろうか。
イリノイ大学の研究チームは、アメリカの382の都市に住む170万人の退役軍人のBMIの変化を2009年から2014年の5年間にわたって記録したビッグデータを解析することで、地域の飲食店・食料品店の数と地域住民の体型の関連を探った。
データを分析した結果、その地域のスーパーマーケット、ファストフードレストラン、または食料品量販店の店舗数が個人のBMIの変化には関連していないことが判明した。つまり住民の体型は居住地の地理的条件に関係がないのである。どんな場所に住んでいようとも、本人に変化がなければ太っている人は太ったままであるし、痩せている人は痩せているのだ。
したがって飲食店や食料店の新たな出店を規制する政策は、成人の肥満への対策にはほとんど効果がないことが示唆されることになった。肥満はやはり生活習慣に拠るところが大きいようだ。
■セットメニューよりも“2個食い”
もちろんたまに訪れた機会にファストフードを口にしてもまったく問題ないのだが、その際により健康的でより身体にいいファストフードの食べ方はあるのだろうか。栄養士のエミリー・フィールド氏によれば多量栄養素(macronutrient)に考慮してメニューを選ぶべきであると提唱している。
多量栄養素とはすなわち脂肪、炭水化物、タンパク質の三大栄養素のことで、これらをバランスをとることで、食欲をコントロールし一日を通してエネルギーレベルを安定させることができる。
食事にファストフードを選ぶということは、その理由のかなりの部分が多忙であることだろう。そして忙しいにも関わらず食事をしたいということは、それなりに空腹であるということだ。
ファストフード店を訪れて、それなりの量を食べたいと欲した場合、普通に考えればハンバーガーとフライドポテト、ドリンクが揃ったセットメニューがまず目に入ってくるだろう。だがここでフィールド氏は、前述の多量栄養素のバランスを考えて欲しいと指摘している。そこで推奨されているのは、セットメニューを選ばずにハンバーガーを単品で2個注文することだ。
多量栄養素を考慮した場合、セットメニューでフライドポテト(フレンチフライ)がつくことで脂肪(油)と炭水化物が占める割合が多すぎてしまうのだ。
チーズやソースを除けば、普通のハンバーガーはだいたい約300~400キロカロリーである。その内訳は、パン=炭水化物:約40グラム、肉=タンパク質:約17グラム、脂肪:約10グラムだ。ある程度、三大栄養素のバランスがとれた状態であるので、空腹ならポテトを加えてバランスを崩すのではなく、もうひとつハンバーガーを追加して2つ食べるほうが栄養面では理に適っているのだ。フライドポテトを2個目のハンバーガーに交換することで、食事中の脂肪と炭水化物の量を減らしながら、タンパク質の摂取量を倍増できることになる。
ファストフードは脂肪と炭水化物が多く、タンパク質はかなり少ないので、この“2個食い”は血糖値を安定させることにも役立つ。ハンバーガーチェーン店で何を食べるか迷った時は“2個食い”のオプションを意識してみてもよさそうだ。
参考:「Cell」、「SAGE Journals」、「Business Insider」ほか
文=仲田しんじ
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