カップル間でいわゆる“シモネタ”が気軽にやりとりできるのなら、かなりの仲ということになるだろう。そして今はこうした“シモネタ”もSNSやLINEで実に簡単にやり取りできる便利な世の中になっているのだが……。
■頻繁にメッセージのやり取りをするカップルは関係が不安定に
オンラインでやり取りする性的なメッセージや画像のことを、英語圏で「セクスティング」と呼ぶようになって久しいのだが、これまでの研究ではセクスティングのやり取りが性行為の満足に繋がることが報告されている。しかし今日のあまりにも整い過ぎているオンラインコミュニケーション環境を利用して頻繁にセクスティングをやり取りすることで、2人の関係はより危ういものになっていることが最新の研究で報告されている。
カナダ・アルバータ大学のアダム・ガロバン博士をはじめとする国際的な合同研究チームが2017年10月に学術ジャーナル「Computers in Human Behavior」で発表した研究では、頻繁にセクスティングをやりとりするカップルは関係が不安定で浮気しやすい傾向があるという意外な研究結果を報告している。
研究チームは現在パートナーがいるアメリカ人とカナダ人615人を4つのカテゴリーに分類してカップルの満足度を分析する調査を行なった。その4つとはセクスティングをしないグループ、文字だけのセクスティングをたまに行なうグループ、わりとセクスティングを行なう(週に3、4回)グループ、かなり頻繁にセクスティングを行なう(1日1回以上)グループである。
4つのグループのパートナー関係を分析して比較したところ、性行為の満足度はやはり頻繁にセクスティングを行なうグループが最も高かった。しかしながらこのグループは同時にパートナー関係において最も安定性を欠いていることも判明したのだ。また頻繁にセクスティングを行なうグループは、オンライン上のポルノコンテンツを良く見ていることも判明した。出会い系サイトの情報にもよく目を通していることから、浮気をする可能性も高まることもわかった。
この傾向はセクスティングに限らない可能性も浮上してきている。つまり頻繁なメッセージのやり取りが習慣づくことで、相手からの素早い応答への期待値がどんどん高まっているのである。そして2人の関係が不安に感じるからこそ、さらに頻繁にメッセージのやり取りをするという悪循環に陥ってしまうのだ。
研究チームはこの現象は今の社会にあるインスタントに欲望を充足するカルチャーを反映していると解説し、実際に対面で会話をしてゆっくりと関係を育む時間を過ごす必要があると忠告している。SNS全盛の時代を迎えているからこそ、よく理解しておきたい話題ということになりそうだ。
■10代の少女たちはセクスティングの“絨毯爆撃”を受けている
パートナーやセックスフレンドの間でセクスティングをやり取りしているぶんには害はないとも言えるが、一部では不特定多数へのセクスティングが氾濫していることもまた一面の事実だ。そしてこの影響をもろに受けているのが10代の少女たちであるという。
アメリカ・ノースウェスタン大学のサラ・トーマス氏が昨年12月に学術ジャーナル「Sexuality Research and Social Policy」で発表した研究では、思春期の少女たちが日常的にセクスティングのプレッシャーにさらされていることを指摘している。さらされているという形容ではもはや生ぬるいようで、もはやセクスティングの“絨毯爆撃”を受けているというのである。
研究では、ネット空間でのイジメ(cyber bullying)に取り組むウェブサイト「A Thin Line」に寄せられた462のネット上でのイジメや虐待の体験談を分析することで、セクスティングによるコミュニケーションを探っている。そして特に10代の少女たちがセクスティングを求められ、また送りつけられて困惑し身動きがとれない実態にあることが明らかになったのだ。
ヌードの自撮り画像を要求するといったセクスティングのリクエストについて、少女たちはネットの規則を持ち出すことに頼っていて、潜在的なリスクを知っていながら“ノー”を言うことにためらっていると研究チームは解説する。つまり自撮りヌード画像の交換などは、自分がしたくないわけではなく法律で禁じられているからできないと訴え、日常的な画像のシェアもいつかは止めたいが現状ではズルズルと惰性で続けてしまっている実態が見えてきたのだ。
特に10代の少女は、SNSなどを利用している限りにおいて日々セクスティングのプレッシャーを受けていて、どうやって断るのかについて常に対策を求められているのである。人間関係を密接にしてくれる各種コミュニケーションツールだが、スマホがあるからこその悩みが広がっているとすれば皮肉な限りである。
■未成年のセクスティングは親の責任
物心ついた時からデジタル端末に自然に触れている世代を“デジタルネイティブ”と呼ぶが、今や先進各国では平均10歳でスマホを手にして活用しているといわれている。もちろんスマホや携帯電話を与えているのは親たちなのだが、子どもが大人たちのセクスティングやポルノコンテンツに接触することはやはり親たちの責任であることをイギリスの警察が警告している。場合によっては親を逮捕するケースもあり得るというのだ。
イギリス・ケント州警察は2018年1月、親は子どものスマホ・携帯電話の使用の責任者であることを明言している。18歳以下の子どものスマホが不適切な使われ方をしていた場合、その責任は親にあることを念を押してアナウンスしたのである。
「子供の携帯電話契約が親の名前である場合、親は電話の使用状況およびそこから保存または送信された猥褻なものについて責任を問われることがあります。これは警察が家庭内に踏み込むことを意味しており、立ち入り捜査、財産の押収、そして逮捕に繋がる可能性があります」と、州警察本部長のスージー・ハーパー氏は語る。
このアナウンスは昨今、ネット上で若者を中心に性的画像をシェアするSNSの増加を受けてのことであるという。未成年を狙った自撮り画像などのセクスティングの被害がそれだけ深刻化しているのだ。
警察としてはこれは決して警察の捜査権の拡大を意味しているものではなく、子どもを持つ親たちへ向けて家庭内で犯罪から身を守る話し合いをする機会を持ってもらうための注意喚起であるという。そしてオンライン犯罪の捜査において、子どものいる家庭の通信機器のデータが重要な手がかりにもなり得るということだ。つまりどのように犯罪者が未成年に接触しているのか解明の糸口にもなるのである。未成年を狙ったネット犯罪に歯止めをかけるべく、世の親たちにも深い理解が求められているのだ。
参考:「Science Direct」、「Springer」ほか
文=仲田しんじ
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