仕事の関係で出席せざるを得ない会議や集会で退屈なスピーチを聞かされるのは災難というほかにない。しかもそうした退屈なスピーカーは話が長いというから始末に負えない。
■退屈なスピーチほどダラダラ長い
退屈なスピーチほど時間を奪われていると感じるものはないだろう。しかもそういう飽き飽きする話をする人物ほど話が長いというからさらに厄介である。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのロバート・エワーズ氏が2018年9月に「Nature」で発表した研究では、50ものスピーチを分析して退屈さとスピーチ時間の関係を探っている。
「私は聴衆として50ものスピーチを聞き話を録音しました。そして話がはじまってから4分経った時点で、スピーチの長さが判明する前に、この話が興味深いのか退屈なのかをジャッジしました」とロバート・エワーズ氏は英紙「Daily Mail」に話す。
スピーチでは話者に12分が割り当てられていたのだが、50のスピーチの中でエワーズ氏が興味深いとジャッジした話は34で、退屈と判断したのは16のスピーチであった。
「34の興味深い話は平均で11分42秒で、16の退屈な話は平均で13分12秒続いたのです」(ロバート・エワーズ氏)
退屈な話は興味深い話よりも約1分半も長かったということになる。聴衆側にとっては退屈で長いというダブルパンチのダメージになるのだ。そしてエワーズ氏が独自に分析したところ、スピーチが70秒長くなる毎に退屈な話である確率は2倍になるということだ。
エワーズ氏はスピーチを退屈になものにしないためのアドバイスをしている。
「陳腐な話にしないためには、スピーチの目的を最初にはっきりと言及し、(主観的な話ではなく)役立つ情報を解説することに焦点を当てなければなりません。紋切り型の凡庸な説明、繰り返しの言及を避け、関係ない瑣末な話やありふれた考えを新鮮なアイディアに装うことで陥る“泥沼”を回避しなければなりません」(ロバート・エワーズ氏)
せっかくスピーチをする以上は興味を持って聞いてもらいたいものだろう。事前に内容をよく吟味し過不足なくまとめたスピーチを心がけたいものである。
■効果的なパブリックスピーキングの5つの秘訣
退屈な話は聞きたくないものだが、スピーチをする側になってみれば、そんなことよりもまず緊張や不安感、恐怖感に襲われるという人も多いだろう。そこで弁護士でカリフォルニア大学バークレー校法科大学院の客員教授でもあるオルガ・マック氏が効果的なパブリックスピーキングのための5つの秘訣を解説している。
●聴衆がどんな人たちなのかを考える
勘違いしてはいけないのは、スピーチは自分ためではなく聴衆のために行なう行為であるということだ。自分のことをを気にかければそれだけ緊張や不安も募ってくるが、“聴衆ファースト”であることを再確認することでスピーチに集中できるようになる。そして聴衆がどんな人々であるのか、何を求めて話を聞きにきているのかを理解することで、話し方も説明の仕方もおのずと聴衆に合ったものになる。
●シンプルかつ明瞭な内容
誰にでもわかる言葉を用いシンプルに話すことを心がける。決して難しい専門用語を使ってはならない。もし使う場合にはわかりやすく説明する。
●スライドはシンプルに
パワーポイントやスライドを使う場合、それらの画像資料と主従逆転してしまわないように注意する。画像に表示する言葉は“キーワード”に留め、文章にはしないほうがよい。そしてスライドを見せる場合でも、顔は常に聴衆へと向いていたい。
●個人的な話もする
自分がどんな人間なのか、どんなことに興味をもち普段どんなことをしているのかを積極的に織り交ぜてみたい。話に関係する事例を挙げる時などは、自分の個人的な体験談を話してみてもよい。スピーカーの個人的な話は聴衆の記憶に残りやすく、話の内容の信頼感を高めるものになる。しかしもちろんだが、主観的な話に終始してしまうのは厳禁だ。
●物語と統計を多く用いる
上の話にも繋がるが、内容に関係する個人的な体験談や物語を話に多く盛り込み、それを裏づけする統計データを示すことでより聴衆を納得させることができる。こうして個々の聴衆との間にパーソナルな信頼関係を築くとともに、話の内容の説得力を高めることができるのだ。
やはり聴衆のことを第一に考え、どのように説明すれば分かりやすいのか、どういうアプローチで理解が進むのかをよく考えてスピーチに臨むことが肝要のようだ。
■人前で話す緊張を克服する3つの方法
“聴衆ファースト”であると深く理解できれば人前で話す緊張は和らぐのだが、それでも特に将来の仕事を左右するような重要なプレゼンなどでは緊張もひとしおだろう。ビジネスコンサルタントのキャロル・サンカー氏がパブリックスピーキングの緊張を克服する3つの方法を解説している。
●登壇前に客席側で話す
当日は早めに会場に来てすでに来場しているなるべく多くの人々と情報交換をする。つまり聴衆の中に“味方”を作ってしまうことで、壇上にあがる緊張感を和らげられる。またこうして知り合った人々は当人に興味を持ち、スピーチをより熱心に聞いてくれるだろう。
またもっと早めに会場に来て知人と食事をしてスピーチの内容を伝えてみてもよい。相手の反応が聴衆の反応を予測できるものにもなる。要するに早めに会場に来て現場の雰囲気と人々に慣れることで余計な緊張をせず済むのだ。
●考えすぎない
スピーチの予行練習は必要だが、一度決めた内容についてあまり考えすぎないほうがよい。一部変更の必要を感じる場合もあるだろうが、こうした変更が多くなるほど不安感も増してくるということだ。
登壇の時間が近づいてきたらもはや話の内容のことは考えず、深呼吸を繰り返したり好きな音楽を聴いたりしてリラックスすることを心がける。サンカー氏によれば、キューバの音楽であるカプリソは気持ちをリラックスさせ集中力を高めるのに役立つという。
●ユーモアを忘れない
話の間のいくつかのタイミングで聴衆を笑わせるユーモアを挟むことを忘れてはならない。聴衆の笑い声はきわめて効果的に緊張を拭い去ってくれる。そして笑わせたことで自信を高めることができるのだ。
笑わされた体験は聴衆の印象に強く残り、スピーチを思い出深い体験にする。ユーモアは個人的な体験談などのかたちで提供できるとなお良い。
人前で話す機会が近々あるという向きは参考にしてみても良さそうだ。
参考:「Daily Mail」、「Above The Law」、「Inc.」ほか
文=仲田しんじ
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