都会の子どもたちが自然に触れる機会が少ないのは理解できるというものだが、少し足を伸ばせば自然が広がっている地域の子どもたちも今は自然の緑の中で過ごす時間が減っているという。その原因はやはりスマホやタブレット端末などのデジタル機器にあるようだ。
■延び続ける子どもたちの“スクリーン時間”
学び盛り、遊び盛りの子どもたちのデジタル機器の利用時間がどんどん延びているようだ。今や住んでいる地域を問わずにこの傾向が子どもたちの間に広がっているのだ。
米・ノースカロライナ州立大学とクレムソン大学の合同研究チームが2018年10月に「Environment and Behavior」で発表した研究では、サウスカロライナ州の自然に恵まれた地域の中学生を調査して、屋外で過ごす時間と屋内でテレビやデジタル機器を利用する時間(スクリーン時間)の実態を探っている。
6年生から8年生(11~13歳)の543人に対して行なった調査では、70%が1日に30分以上は屋外で過ごしていて、さらに40%は1日に2時間以上は屋外で活動していると報告している。屋外で自然に囲まれて過ごす時間が長い生徒ほど、自然に親しんでいて、自然環境との一体感を感じていることも明らかになった。
現代の子どもたちとはいえ意外に屋外で遊んでいることがわかったのだが、実はテレビを含むデジタル機器利用時間が屋外で過ごす時間を上回っていたのである。そしてこうしたスクリーンを見て過ごすスクリーン時間(screen time)が長い生徒ほど、自然に親しみを感じていないことも示されることになった。屋外で過ごす時間が削られていることは、生徒の心身の健康と生活の満足度に強い影響を及ぼすと研究チームは指摘している。
スクリーン時間が長い傾向は特に女子生徒、アフリカ系、8年生(13歳)に見られ、一方で屋外で長く過ごしているのは白人の男子生徒と6年生(11歳)に多く見られた。
若者が本来持っている新たなテクノロジーへの興味関心を満たすと共に、屋外でも活発に活動できるプログラムや体験を提供することが今後の教育に求められているということである。一方的にスクリーン時間が“悪者”ということではなく、屋外活動とデジタル機器利用のバランスを探る道が求められているようだ。
■テレビやネット、ゲームは1日2時間まで
スクリーン時間が一方的に“悪者”というわけではないのだが、その時間は1日に2時間に制限したほうが良いことが最近の研究で報告されている。学童期においてそれ以上のスクリーン時間は知育の発達にネガティブな影響を及ぼすということだ。
カナダの小児科系研究機関である「Children’s Hospital of Eastern Ontario Research Institute」が2018年9月に「The Lancet Child & Adolescent Health」で発表した研究では、アメリカの8歳から11歳の生徒4500人以上を調査した研究で、カナダの青少年健康ガイドラインがどれほど生徒の知育の発達に関係しているのかを探っている。
カナダの青少年健康ガイドラインである「Canadian 24-hour Movement Guidelines」によれば、1日に9時間から11時間の睡眠、2時間以下の娯楽スクリーン時間、1時間以上の運動が青少年の知育の発達に求められている。
研究チームが4520人の生徒の生活実態と認知機能テストの成績、健康状態のデータを分析したところ、このガイドラインの3つの推奨を満たしている生徒はわずか5%であり、2つ満たしている者は25%、1つしか満たしていない生徒は41%で、3つのどれも満たしていない生徒は29%であった。実に生徒の3割がガイドラインにまったく適合していないのである。
そしてこの3つの推奨を多く満たしている者ほど、認知機能テストの成績が良いこともまた明らかになった。特に認知機能に関係していたのは「2時間以下の娯楽スクリーン時間」で、この1つだけしか満たしていなくとも認知機能テストの成績が良い傾向が浮き彫りになったのだ。
「2時間以下の娯楽スクリーン時間」と「9時間から11時間の睡眠」の2つが満たされた場合はさらに認知機能テストの成績は良くなったのだが、一方で「1時間以上の運動」だけを満たしたケースでは認知機能テストの成績には何の影響も及ぼさないことも判明した。しかしもちろん運動習慣が身体的健康に結びついていることは自明である。
「2時間を越える娯楽スクリーン時間が認知機能の未発達に関係していることを見出しました」と研究チームは結論づけている。ガイドラインと知育の発達について、関連する研究がさらに必要とされているが、テレビの娯楽番組やネット動画、ビデオゲームは2時間以内に抑えることが、サイエンスの側からも強く推奨されている。
■部屋にテレビのある女子児童に肥満リスク
長いスクリーン時間が悪影響を及ぼすのは認知機能ばかりではない。女子児童の体型にもスクリーン時間が影響していることが最新の研究から報告されている。
ポルトガル・ポルト大学をはじめとする研究チームが2018年12月に「Science & Sports」で発表した研究では、義務教育入学前の女子児童の生活実態と体型、そして自分専用のテレビの有無を調査してその関係を探っている。
研究チームはポルトガル国内の4歳から6歳の120人の女子児童の生活実態を親への質問によって聞き出すと共に、体型(BMI値)と部屋にテレビがあるかどうかを確認した。
結果はある意味で予想通りで、太り気味あるいは肥満に分類された児童の部屋には専用のテレビがある傾向が浮き彫りになった。そしてあまり外で遊ばないと親が報告している児童は、部屋にテレビがある確率が2倍になっていた。就学前の女子児童において、部屋にテレビがあることは肥満リスクを高め、外で遊ぶ時間を減らしていることが指摘されることになったのである。
そしてこの時期の児童は年齢が上がるほどにテレビの視聴時間が増えてくることも明らかになった。6歳の時点で女子児童のおよそ3分の2が自分専用のテレビを持っているということだ。
テレビの視聴時間が長いとなぜ肥満リスクが高くなるのかについてはまた別の研究テーマになるが、テレビを見ながらのスナック菓子類の消費と、目に入る食品関連のCMにより食欲が刺激される点を指摘されている。
ちなみに以前の研究で男子児童には部屋のテレビの有無と肥満にはあまり関係がないことが報告されているのだが、今回の研究では女子児童にとっては専用テレビが肥満リスクを高めることが明らかになった。幼い時期での長いスクリーン時間にはさまざまな弊害があるようだ。
参考:「NC State University」、「The Lancet Child & Adolescent Health」、「ScienceDirect」ほか
文=仲田しんじ
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