金銭欲を暴き出す“フリーマネー社会実験”動画に注目が集まる

サイコロジー

 当事者のモラルと金銭欲をあぶり出すような“意地悪”な社会実験の数々が行なわれていた――。

■1ドル札を持って行くのは身なりの良い人物ばかり

 人気YouTuberのコビー・パーシン氏が2015年11月に公開した“社会実験”動画は実に興味深い内容だ。パーシン氏は自らのジャケットに1ドル札を50枚、セロハンテープで貼りつけてニューヨーク・ユニオンスクエアの街を徘徊したのだ。両手でダンボール紙を掲げ、そこには「必要なら取って」というメッセージを表示。はたして、彼を目撃した人々はどんなリアクションを見せるのだろうか。

 実験開始直後、スーツ姿の恰幅の良い中年男性がパーシン氏に近づいてきておもむろに1ドル札を次々と引き剥がしていく。身なりのしっかりした男性だけに「本当に必要なの? そうは見えないけど」と思わず質問してしまうパーシン氏。

 ニューヨークで行なわれた“社会実験”

 すると男性は「必要じゃないが、タダなんだろ」と答え、さらに黙々と1ドル札をひき剥がしていくのだ。そして12、3枚ほどもぎ取ったところで札束を自分のジャケットに入れて「サンキュー」とひと言残し足早に去っていく。タダで手に入れたこのお金をこの後一体何に使うというのだろうか……。

 さらに動画では、ジョギング中の男性がすれ違いざまにパーシン氏のメッセージに気づき、いったん戻ってきて7、8枚引き剥がして走り去っていったり、ブランド物のバッグを持った身なりの良い女性が「明日ネイルに行かなくちゃいけないから」と20枚ほど持っていくシーンなどが収められている。意外なことに、彼に近寄ってきてお札を引き剥がすのは身なりの良い人物ばかりであることだ。中には高級なジバンシィのバッグを腕に提げて1ドル札を引き剥がす女性の姿もある。

 なかなか心穏やかではなくなるシーンが続くが、人通りの多い道を歩いていたところでパーシン氏は犬を連れたホームレスらしき男性に呼び止められる。犬はおそらくペットシッターの仕事で預かっているものだろう。

 掲げているメッセージが本当なのかどうか半信半疑の男性に「全部持っていって」と気前良く応じるパーシン氏。しかしホームレスの男性はすまなそうに2枚取って感謝の言葉を口にし「食べ物を買うから」と去っていこうとする。この謙虚なホームレスの男性に、これまで慇懃無礼で欲深い人々に接してきた反動もあるのか、パーシン氏はいたく感動したようで「それだけでいいの?」と問い質す。じゅうぶんだという男性に、パーシン氏は思わず自分の財布から60ドルを取り出して彼に与えるのだった。最後に待っていた感動的なシーンに、ひとまずホッと胸を撫で下ろしたくなるのだが……。

■心温まるシーンが続くも最後は後味悪いものに

 所変わって英・イングランドを代表する都市であるマンチェスターの繁華街の通りには5ポンド(約800円)紙幣を5枚、ピンで留めたボードが設置された。並んだ5ポンド札の上には「これは必要としている人だけのためのお金です」という注意書きが明記されている。そして少し離れた位置からビデオカメラを回し、このボードの周辺の様子を定点観測したのだ。なおこの社会実験を行なったのは、イギリスの娯楽系情報サイト「The Lad Bible」だ。

 マンチェスターの人々の“人間性”をテストするかのような意地悪な(!?)この実験、当日は天気の良い春先の1日で多くの通行人がこの5ポンド札が留められたサインボートを目にしている。

 マンチェスターで行なわれた“社会実験”

 動画ではまず、若者の集団がボードの横を通り過ぎた際に、5ポンド札が1枚なくなった様子が綴られる。しかし、ほとんどの通行人は目にしてもまったく紙幣を取ろうとはしていない。

 ほどなくするとボードの近くに、松葉杖を突いたホームレスらしき男性がやってくる。そして若い女性の2人組が、何か話し合いながらボードの前の男性に近づいてくるのだ。女性2人は男性に何やら話かけ、次にボードの5ポンド札を2枚取って男性に手渡したのだ。この女性たちは、このホームレスの男性こそが、このお金を必要としていると判断したのだろう。美談と言えそうな出来事である。

 主催者はこの後女性たちに接触し話を聞いている。それによれば、この男性はすいぶんと前からこのお札とメッセージに気づいていたが、自分で取ることをひどく怖れていたということだ。ならばと、代わりにお札を取ってあげたということである。

 この時点で3枚になってしまった5ポンド紙幣だが、さらに心温まるのは、ボードの前にやってきた若い男性がメッセージの意味を良く理解し、自分の財布から5ポンド札を出してボードにピンで留めたのだ。この善行を誰かに褒めてもらおうとするわけでもなく、若者は足早に過ぎ去っていく。これでボードの5ポンド札は4枚、計20ポンドになったのだ。

 最初の一件を除き、地元の人々の慈善精神に思わず感服してしまうが、しかしここマンチェスターでも事はそうはうまく運ばないのであった。若い男性2人組がボードの存在に気づき近くにやってくると、残る20ポンドをすべて持っていってしまったのだ。この様子を見ていた女性が止めようと後を追うが、笑い飛ばされて終わってしまう。ニューヨークの実験とは違い、最後は後味の悪いものになってしまった……。

■視覚障がい者に扮して“人間性”をテスト

 もうひとつ、昨年にオーストラリアで行なわれた社会実験もまた興味深く“意地悪”なものであった。実験を行なったYouTuberのエイドリアン・ギー氏は白い杖を持ち視覚障がい者のふりをして、道行く人に5ドル(オーストラリアドル)札を小銭に両替してくれないかと頼むのだ。しかし実際に差し出すのはなんと50ドル札。両替に応じた通行人は、ラッキーとばかりに5ドル分の小銭を渡して50ドル札を頂いてしまえるわけで、まさに“人間性”が問われる社会実験である。

 視覚障がい者用のステッキを持ち、サングラスをかけたギー氏が街で通行人を呼び止めて両替を頼むのだが、やはりその反応はそれぞれだ。動画の最初に登場するスーツ姿の初老の男性は、差し出された50ドル札を受け取ると、ちょっと辺りをキョロキョロ見まわしてから、小銭を渡すこともなくそのまま持ち逃げしてしまう。冒頭からなんとも苦々しい気分にさせてくれる光景が展開する。

 オーストラリアで行なわれた“社会実験”

 もちろん動画の編集次第でどうにでもなることではあるが、男性の半分くらいは50ドルをそのまま入手しようとし、一方、女性は親切にも「それは50ドルよ」とギー氏に教えてくれる者が多い。最後に登場する太った男性は50ドルを受け取って一応はコインを探すそぶりを見せるのだが、50ドル札を自分の財布にしまってから小銭がないと言い、謝りながら10ドル札を返すという行動に出る。足早に立ち去る男性をギー氏が追いかけて「本当は盲人じゃないんだ」と詰め寄り50ドル札を取り戻す顛末に。これまたなんとも後味の悪いエンディングだ。

 しかしこの“社会実験”については後日譚がある。この動画に出演している男性の幾人かが“俳優”であることが判明したのだ。特に動画の中盤に登場する左腕に大きなバンテージが貼ってある男性は、顔にはモザイクがかかっているものの、その左腕の特徴(大きな傷跡をバンテージで隠しているらしい)から動画を見た家族にも特定されて叱責を受けたという。そこで彼は俳優として雇われて演技をしたのだと、家族に事情を説明したのである。

 そしてエイドリアン・ギー氏はテレビの情報番組「Today Tonight」で疑惑を追及されることになり、この動画の内容はすべて演出のある“芝居”であることを白状したのである。しかしながらギー氏にはそれほどの良心の呵責はないようで「結局のところ、(この動画は)単なるエンタテインメントなのです」と悪びれない。道行く人々の“人間性”を明るみに出すはずの企画で、奇しくも動画を作った当人の、平然と嘘をつけるというモラルの欠如が暴かれることになった。とすれば後日談を含めてこれもまた興味深い人間ドラマだろう。

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました