酔うと声が大きくなるのは何故? お酒で失敗しないための話題3選

サイエンス

 昨晩の飲み会はホロ酔い程度で気持ちよく楽しめたはずなのに、どういうわけか次の日が二日酔い気味だったことはないだろうか。あるいは逆にかなり酔っぱらったと思っても、翌朝は案外スッキリ目覚めたり……。実はどのくらい酔っているのかの“自己査定”はあまりアテにならないことが指摘されている。

■酔いの自覚は一緒に飲む人次第?

「酒に飲まれる」タイプの人々がいる。酒にまつわるいろんな失敗をしている人々だが、その場で当人に忠告しても、十中八九は自分は酔っていないと頑なに主張するのではないだろうか。

 酔っているか酔っていないかは脳や身体の生理的反応として判断できるが、それを自覚するかどうかは人それぞれなので、問題が根深いものになってしまう。自覚が足りなければいわゆる“酔った勢い”で、後で後悔するような行動を起すことにもなる。自分が酔っているかどうかの“自己査定”は、その場の状況で実はかなりかなり異なってくるのだ。

 イギリス・カーディフ大学のサイモン・ムーア教授らの研究チームが先日発表した研究によれば、自分がどのくらい酔っているかの自己判断は、実際のアルコール消費量よりも周囲の人々の状態に左右されることが指摘されている。

 実験では、平均年齢27歳の男女1862人を8つのグループに分け、パブなどの4つ場所で開かれている飲み放題のイベントに参加してもらった。その後、自分がどの程度酔っているのか自己申告してもらい、呼吸中のアルコール濃度を測定した。その結果、自分か酔っているかどうかの自己査定は、実際の飲酒量にもあまり関係なく、一緒に飲んでいる人々や場所の雰囲気でかなり変わってくることが明らかになった。

 つまり具体的には、あまり酒に酔っていないシラフの人が多い中で飲んでいると、自分がけっこう酔っているように感じて酒を控えるようになる一方、すでに酔っている人々に囲まれていればつられてもっと飲もうとし、酔っている自覚も低くなるということだ。

「(今回の発見で)我々はある環境の中で泥酔している人を減らすこともできれば、シラフの人を増やすこともできるようになります。これは社会に大きな影響を及ぼすものになるでしょう」(サイモン・ムーア教授)

 酒に酔うとは、まさにその場の雰囲気に酔うということでもあるということだろうか。外でお酒を嗜む際にはこうした“環境要因”も考慮して、決して「酒に飲まれる」ことがないように気をつけたいものだ。

■酔うと声が大きくなるのは何故か?

 後で後悔するような飲酒に起因する失敗は避けたいものだが、一緒に飲んでいる仲間にも、できればそうした失敗はしてほしくないものだ。

 目の前の人物が酒に酔いはじめている兆候はもちろんいくつかあるが、その中でも特徴的なものに「声が大きくなる」という変化がある。もちろん適量のアルコールで気分がリラックスし、心が落ち着いてくれば自然に声も大きくなっても不思議ではない。とはいえ、どうやら単なる気分の問題だけでもないようだ。この件について、ABC放送の科学コメンテータであるカール・クルツェルニスキー博士が同局の科学番組『Dr Karl’s Great Moments In Science』で解説している。

 お酒が入ると声が大きくなる最大の原因は、聴覚の働きが鈍るからであるという。普通の声でしゃべると、自分の声が自分でも聞こえ難くなるため、自然と声が大きくなるのである。アルコールを摂取することで耳の機能が低下し、聴覚を司る脳の部分の働きが鈍ると考えられている。

 クラブスタイルのバーでは、シラフでは耐えられないほど大音量で音楽を流していたりするが、確かにアルコールが効いてくるとあまり気にならなくなるのは、やはり聴覚機能が鈍くなっているからのようだ。

 そしてこの聴覚機能の低下は、男性よりも女性のほうが著しくなる傾向があることが実験で証明されているというから興味深い。女性のほかにも、肥満の人、不健康な人、お年寄り、そして毎日アルコールを飲む人々も聴覚機能の低下が比較的顕著になるということだ。そして長期におよぶアルコール常飲者は、まったく飲まない人や毎日は飲まない人に比べて基本的な聴覚機能(特に高周波帯を聴く力)が低下している傾向があるという。酒好きにとってはまさに“耳の痛い話”かもしれない。

■ヤケ酒を飲む人は差別主義者?

“耳の痛い話”はこればかりではない。いわゆるグローバル化が着実に進む世界にあって、各国でその反動ともいうべき“右傾化”の動きが昨今問題になっているのはご存知の通りだが、最新の研究によればアルコールの暴飲と差別思想に関係があるという報告がなされている。

 米・アイオワ大学の研究チームは、差別とアルコールの乱飲の間に関係があるという研究結果を、この6月に学術誌「Social Science & Medicine」で発表している。酒量の多い酒飲みはえてして差別主義者であることが浮き彫りになったという。いったいどういうことなのか?

 まず、健康を害するほどに酒を多飲する者は、ストレス解消のために飲酒をしているケースがほとんどであるという理解が前提となる。つまり“ヤケ酒”である。そして“差別主義者”にとっては、そのストレスの発生源が差別の対象なのだ。はたから見ると差別主義者は攻撃的かつ一方的に差別表現をしているようにも思えるのだが、実は対象からストレスを受けその反応として差別を行なっているのだ。そしてこの差別表現や差別行動も、アルコールと同じように度が過ぎれば健康を害すものになるということだ。

 研究チームは、差別や飲酒に関する1200にも及ぶ研究論文をレビューし、その中から97の研究に差別と重度のヤケ酒習慣の関連を示す定量的な証拠(quantitative evidence)があることを突き止めた。差別の種類として最も多いのは71%を占める人種差別で、残りは同性愛者差別と女性差別である。

 参考となった論文は主にアメリカ国内の黒人差別に関するものが多く、今後さらに研究を深めていく必要があることをポール・ギルバート准教授は主張している。例えば、アフリカ系黒人以外の民族グループへの差別や、宗教差別、性的志向差別、性差別、年齢差別、障害者差別などについてのきめ細かい研究が求められているということだ。

 ともあれ決して“ヤケ酒”になることなく、また「酒に呑まれる」こともなく、気持ちよくお酒を楽しみたいものである。

参考:「Elite Daily」、「ABC」、「Science Daily」ほか

文=仲田しんじ

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