都市でペットなしの家で育つとストレスに弱くなる!? 成長期に潜む3つのリスク

サイエンス

 最近の研究で子どもの健やかな発育において留意すべきいくつかのポイントが指摘されていて興味深い。

■都市でペットなしの家で育つとストレスに弱くなる!?

 自然に囲まれた環境で幼少時を過ごすことは、子どもの発育に多大なメリットを及ぼすことがあらためて指摘されている。

 ドイツ・ウルム大学とコロラド大学ボルダー校の合同研究チームが2018年4月に「PNAS」で発表した研究は、乳幼児期の衛生環境の過剰な改善がアレルギー疾患の増加を招いているのではないかという衛生仮説(hygiene hypothesis)を支持するものになっている。

 研究チームは20歳から40歳の40人の健康なドイツ人男性を対象に実験を行なった。参加者の半数は家業が養畜業などの家畜のいる環境で育った者で、もう半数は大都市でペットのいない環境で育った者であった。

 実験でそれぞれの参加者は無表情の観衆を前に、制限時間内で難しい数学の問題を解く課題に取り組んだ。そしてこの課題を行なう5分前、課題を終えた15分後、60分後、90分後、120分後にそれぞれ唾液と血液の検査が行なわれた。つまりは他者の目に晒された状態で難しい課題に挑むというストレスフルな体験への耐性と回復力を検証する実験である。

 収集したデータを分析した結果、大都市でペットなし育ったグループは課題終了後に血中の末梢血単核細胞(PBMC)のレベルが著しく高まっていることが判明した。加えて時間の経過による回復が遅いことも分かった。これは身体の炎症反応が高まっているからで、強いストレスを感じていることになる。

 一方、家畜のいる環境で育ったグループは課題終了後の炎症反応は軽微で、その後の回復も早いことが明らかになった。つまりストレス耐性が高いのである。

 研究チームは幼少時に接触した菌や微生物の種類の多さがストレス耐性の鍵を握っていると説明しており、大都市でペットのいない環境で育った子どもは晒されてきた微生物の種類が少ないため、ストレスを受けると免疫系が過剰に反応してしまうことを指摘している。この過剰な炎症反応はメンタルの健康にもネガティブに作用してうつなどの原因にもなるということだ。世の親は我が子に自然に触れさせる機会をなるべく多く持たせ、条件が許せばペットを飼うことも検討すべきなのかもしれない。

■12歳以下のタックル練習に脳障害リスク

 子どもの成長にとってほかにも見逃せない研究が報告されている。アメリカンフットボールやレスリングなど身体接触の多いスポーツにおける慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy、CTE)のリスクだ。

 VAボストンヘルスケアシステムとボストン大学の合同研究チームが2018年4月に「Annals of Neurology」で発表した研究では、12歳以下の児童がアメリカンフットボールのタックルなどの脳に衝撃が加わる運動を繰り返すと、慢性外傷性脳症(CTE)などの脳にまつわる症状のリスクが増すと共に発症が早まることを報告している。

 CTEは死後の脳の病理学的検査でしか診断することができない症状なのだが、研究チームは死後にCTEと診断された211人のアメフト選手の経歴を詳しく調べたところ、12歳に以前にタックルを含む練習を開始していた選手は、CTEなどの脳変性疾患の症状の発症が平均13年早まっていることが判明した。

 タックルの練習を開始した年齢が1歳若くなるごとに、認知機能の低下が平均で2.4年早まり、気分障害の発症が2.5年早まるということだ。

 アメフトに取り組んだ年齢が若いほど、CTEやその他の脳の脆弱性が増し、認知障害、行動障害、気分障害の発症に影響を与えるということで、スポーツへの参加は健康および社会性の養成にきわめて便益をもたらすものの、激しい身体接触を伴うスポーツを分けて考え、将来の潜在的な神経学的リスクとのバランスをとることが重要であると研究チームは説明する。

 研究チームは亡くなった選手の医学的データはもちろん、アメフトの記録や家族へのインタビューなどで収集した情報を分析したのだが、サンプル数は少ないために今後さらに研究を深めることが期待されている。そしてアメフトばかりでなく、ヘディングを伴うサッカーはもちろん、ボクシング、レスリング、相撲などの格闘技にも当然該当するリスクになるだろう。幼い時期にはじめるスポーツにはこうした身体への後の影響を考慮してみたい。

■“クラスのお笑い芸人”は8歳で人気凋落!?

 クラス・クラウン(class clown)というのは学校のクラスのピエロであり道化役ということだが、日本語のニュアンスでは“クラスのお笑い芸人”ということになるだろうか。

 最近の研究では、幼稚園や小学校低学年で“クラスのお笑い芸人”となって同級生の人気を集めた児童は、その後8歳を境に、その人気は凋落して当人もネガティブな自己像を抱くようになることが報告されている。

 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教育心理学者であるリン・バーネット教授が2018年3月に心理学系学術ジャーナル「Frontiers in Psychology」で発表した研究では、学童期に人気者だった“クラスのお笑い芸人”が突然その身分から“失墜”する時期があることを指摘している。

 バーネット教授は278人の幼稚園児の小学校入学から3年目の学校生活を追跡調査して、“クラスのお笑い芸人”がどのように自分を受け止め、またクラスメイトや教師からどのように見られているのかを研究している。

「6歳の時点で遊び心のある子どもたちは、より個人主義的で自発的であり、教師や他の大人たちに承認されることよりもクラスメイトの人気を得ることを意識しています。そしてこの“お笑い芸人”の人気は最初の3年間で確かなものになります。しかしその後、周囲の子どもたちが社会的に成熟してくるにつれて、その人気は急落していくのです」(リン・バーネット教授)

 残念なことに(!?)“クラスのお笑い芸人”の人気は義務教育3年目、8歳の頃から凋落していくという。正確にはこれらの人気者は、3年生になった時点で、クラスメイトを笑わせている自分が“笑われる存在”であるとネガティブにとらえられてきてしまうということだ。また教師からもクラスの雰囲気を乱す不確定要因として見られていることに気づき、自分がネガティブな存在であることを思い知らされるからであるという。つまりは、面白がられてはいるけれども疎外されて“浮いている”存在になるために自己嫌悪を感じはじめてしまうのだ。

 小学校低学年時代を思い起こしてみれば、ひょっとすれば思い当たるフシがあるかもしれないがいかがだろうか。これもまた後の人生を左右する学童期の“あるある”なリスクなのかも!?

参考:「University of Colorado Boulder」、「NCBI」、「University of Illinois」ほか

文=仲田しんじ

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