過去の“銭失い”体験は思い返さないほうがいい!? ムダ遣いを抑える7つの秘訣とは

ライフハック

 ムダ遣いの最も大きな原因のひとつが止むに止まれぬ衝動買いだ。実際に店舗で見て思わず飛びついてしまうのはもちろん、あまり自覚のないネットショッピングが知らず知らずかさんで月の支払いに驚くケースもあるだろう。そんなことにならないためにも、過去のショッピングの“大失敗”を折に触れて思い返せば、買いたい気持ちを戒められると考えても不思議ではない。しかし実は過去にしでかした“失敗の反省”にはあまり意味がなく、むしろ衝動買いに再び火をつけてしまう危険な行為だというから驚きだ。

■過去の“失敗の反省”はしないほうがよい!?

 過去の“失敗”から教訓を学び、再び同じミスを繰り返さないというのが、叡智ある人間の態度であるということに異を唱える人はあまりいないのではないだろうか。もちろん誰だって同じ過ちを2度と繰り返したくないものだが、一方で現実には同じようなミスを自分あれ、他者であれ、何度も繰り返していることに気づかされることもある。これは過去への反省が足りないということなのだろうか?

 とすれば歴史学者のように一度過去の失敗を詳細に検証してみようとさえ思えてくるが、しかし最近の研究では、過去の失敗はあまり思い返さないほうが良いという意外な指摘がなされている。

 米・テネシー州ナッシュビル市にあるヴァンダービルト大学のケリー・ホーズ氏が主導する研究チームが2015年に「Journal of Consumer Psychology」で発表した研究は、過去を思い出して未来の指針にすることは、常に有効な手段ではないと主張している。これは“失敗の反省”をしなくてもよいということなのだろうか?

 研究チームは実験参加者に、過去の消費行動の記憶を数多く思い出してもらう実験を行なっている。参加者はグループに分けられ、一方のグループには衝動に支配されずに“いい買い物”をした経験を思い浮かべてもらった。もうひとつのグループには欲望に負けて購入してしまった“銭失いの買い物”をなるべく多く思い出してもらったのだ。

 その後、参加者たちはクレジットカードを使った買い物のシミュレーションを行なった。すると“銭失いの買い物”を思い出したグループが多くの金額を買い物に費やしたという。過去の買い物の嫌な記憶を思い出したグループは“失敗の反省”をしてあまりお金を使わないようにも思えるのだが、実際には買い物にお金をかけるのを厭わなくなる傾向があることが浮き彫りになった。とするならば過去の“失敗の反省”などしないほうがよいということにもなってくる。

 過去の失敗を思い返すことで気分が落ち込み、そして「気分が落ち込んだ時に、我々は浪費をする傾向があるのです」とホーズ氏は説明している。ホーズ氏によればこの研究で、過去を掘り返して詮索することは現在の行動にネガティブな影響を与える可能性が指摘されることになったということだ。より良い自己コントロールという点においては、「前だけを見つめて後ろを振り返らない」ことが肝要であるという。

 過去の教訓を将来に活かしたいと常々考えている向きにとってはかなり驚きの研究ではないだろうか。もちろんまだまだ実験と検証が必要とされていそうだが、いっぺん騙されたつもりで「前だけを見つめて」決断を下してみてもよいかもしれない。もちろんその結果は自己責任ということだが……。

■確率50%の幸運がもっとも“ワクワク”する

 それにしても厄介なのが“衝動買い”だが、それもそのはず、ショッピング中の脳内には快楽に関わる神経伝達物質であるドーパミンが盛んに分泌しているのである。そしてこのドーパミンは、お目当ての商品を入手した時よりも、どんな商品があるのか探している時のほうが多く出ているというからますます話を複雑に(!?)している。

 なぜ、実際に望みのモノを手に入れた時よりも、あれこれ探しているときのほうがドーパミンが多く分泌されるのか? それは“期待”と“ワクワク感”が、商品を探している間のほうが、実際に商品を入手した時よりも高まっているからである。

 米・スタンフォード大学などで教鞭を執る神経科学者、ロバート・サポルスキー教授がかつてサルを使って行なった実験がある。サルは光が近づいてくるとこれからある出来事が起ることを覚え込まされている。光が近づいたところで、目の前にあるボタンを10回続けて押すと、食物を入手できる手筈になっているのだ。

 そしてこの一連の出来事と作業のなかで、サルの脳内のドーパミンの出方を調べた。すると、ドーパミンが盛んに分泌されるのは、光が近づいてきた時からボタンを押す作業が終わるまでの間で、意外にも実際に食物を手にした時には、光に気づく前の状態に戻っているのだ。モノを入手できるチャンスが到来し、獲得に必要な手続きを終えるまでの過程がもっとも“ワクワク”しているということである。しがって、代金を支払って実際に商品を渡された時は、もはや“胸の鼓動”は収まっているのだ。

 サルを使った実験はさらに行なわれている。今度は、手でグイッと押し込めるバーが用意され、任意のタイミングでサルの目の前に置かれた。サルがバーを押し込むと、ある確率で食物が現れる仕組みになっている。その確率は25%、50%、75%の3種類で行なわれた。

 実験の結果、50%のセッティングでは、最初に行なった10回ボタンを押す実験よりも2倍のドーパミンが分泌されたのだ。そして興味深いことに、25%と75%のセッティングはどちらも最初の実験の1.5倍のドーパミンが分泌されたという。すなわち、確率50%の幸運を期待している時に脳はもっとも“ワクワク”するのだ。

 そこでもしデパートやショッピングモールの経営者になったつもりで考えてみると、想像通りの品揃えが充実している店舗というのは望むモノは確実に手に入るがあまりエキサイティングではないということになる。多くの来店客にとってはじめて目にするような意外性のある商品がある程度ちりばめられていることで、買い物客の脳内のドーパミン分泌が盛んになりワクワク感が増すのである。

 だがこのショッピングとドーパミンのメカニズムは、オンラインショッピングではかなり異なるものになるという。オンラインでは配達の時間があるために購入の時点でもワクワク感が収まることなく、実際に商品が手元に届いたときに最も満足感を感じるということだ。そして期待と同程度かそれ以上の商品だった場合はきわめて高い満足感を得ることができ、この経験をすることでオンラインショッピングが病みつきになってしまうのだ。ともあれショッピングとは、いわば確率50%の幸運を求めるギャンブルであるのかもしれない。

■ムダ遣いを抑える7つの秘訣

「これくらいはいいだろう」と感じてそれが浪費と気づかないところが、まさに浪費の厄介なところだろう。家計管理ソフトを提供しているマネー関連情報サイト「Quicken」では、個人や家庭の支出を抑える7つの秘訣を解説している。

●個人レベルの予算案を組む
 すぐに必要なものから、その月に必要とされてくるもの、あるいは年内に購入を考えているものなどをリストアップして、1年間の大まかな予算案を組んでみる。“急な出費”がある程度予測できるため備える時間が生まれ、その間のムダ遣いの抑制に繋がる。

●日常生活の中で幸せの優先順位をつける
 日常生活において自分が何を幸せと感じるのかを今一度よく考えてみる。友人や家族と行く週1回のディナー(あるいは酒宴)が身近なイベントとしては最も楽しいという人なら、ランチでの外食を控えて浮いたお金をディナーに回すなどの対策がとれる。あるいはついつい習慣で購入している缶ジュースや缶コーヒーなども、毎日のことであればそれなりの金額になるが、大きな幸せのためと思えば水筒を持参するなどしてカットできるだろう。自分にとっての“幸せ”にはっきりと順位をつけることでお金の使い方が効率的になるのだ。

●“代替案”に気を配る
 ルーティーンだと思っていることにも、代替案があることを時折意識すべきである。今通っているスポーツジムの月謝より安いジムが近所にオープンしていることもあるだろうし、業者から毎月定期的に届けてもらっているミネラルウォーターがネット上ではるかに安く手に入ることもある。もちろんすぐさま代替案を採用しなくてもよいが、そういった代替案があることに気づいて知っておくことで支出を抑える可能性が生まれてくる。

●衝動買いを抑える“24時間ルール”
 普段は倹約していても時には衝動買いの欲望に襲われることもあるだろう。その場合のために“24時間ルール”を課しておくのが有効だ。ある商品を見て購入したい衝動に駆られても、その時点から24時間は保留しておくことをルールにして厳守するのだ。その24時間の間に、できれば家族や恋人、友人知人などに購入を考えていることを相談してみるのもよい。この24時間以内に“魔法が解ける”ことも多いはずである。

●週に一度は支出を把握する
 もちろんこまめに家計簿をつけるのが一番だが、時間がないという人でも1週間の間で溜めたレシートを合算する時間を持つべきだ。ムダ遣いや衝動買いに近い行為を自覚する良い機会になる。

●中古品の購入を常に選択肢に入れる
 車やパソコンやカメラ、あるいは服などでも常に中古品を購入する選択肢を意識しておく。個人間売買の情報もうまく活用してみたい。

●“持ち込み”を活用する
 大型のフードコートなどでは食事スペースが共用になっている施設も最近は増えている。家族や友人など数人で食事する場合、そういった“持込み可”の(もちろん施設によりけりだが)場所でいくつか食べ物を持参していけばかなり出費を抑えることができるだろう。日本ではコンビニの「イートイン」を活用するのもよい。

 過去の“失敗の反省”はあまり期待できないにせよ、最低でも週に1度は自分がどんな出費をしたのかチェックしてみるに越したことはなさそうだ。

参考:「Futurity」、「Psychology Today」、「Quicken」ほか

文=仲田しんじ

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