運転中も歩行中も一家団欒でも手放せないスマホの弊害

サイエンス

 運転中のスマホ利用は厳に戒められているが、実際のところはどうなっているのか。オーストラリアでドライバーの運転中のスマホ利用の実態を調査した研究が発表されている。

■運転中のスマホ利用実態

 自動車事故の25%は運転中のスマホ使用や通話が関係していると言われている。アメリカの研究では、運転中にモバイル機器を使用することで、事故の確率が2.2倍になり、運転中のメールなどの文字入力(テキスティング)で事故の確率が6.1倍にも跳ね上がるという。

 運転中のスマホ使用は危険な行為であるが、それでもついつい手が伸びてしまうというドライバーも少なくない。ドライバーのスマホ利用の実態を探るべく、国際的なリスク研究学会である「Society for Risk Analysis」の研究チームがオーストラリアのドライバー447人に対して調査を行なった。

 予想されたことだが、運転中のスマホ使用では通話のほうがテキスティングよりも多いことが分かった。そして女性ドライバーと運転歴の浅いドライバーほど運転中にスマホを使用していることも判明した。多くのドライバーは実際のところは、道路交通法を遵守することよりもソーシャルな繋がりを優先しているのである。

 一方で厳格に自分を律している人々がいることも分かり、例えばスマホを覗くのは停車時か信号待ちの時に留め、交通量が多い場合やカーブを走行中にはスマホの使用を厳に戒めているということだ。

 そして実はドライバーの68%は運転中のテキスティングの危険性を自分に納得させるために、多くの説得力のある説明が必要であると考えているという。

 さらに携帯電話の使用がドライバーに軽微な影響しか与えないと考えている人々や、前出の運転中のスマホ使用が危険であることを納得する必要がある人々、要件終了後もスマホに気をとられる人々は、不注意な運転を行なう可能性がより高くなるという。

 したがってこうしたドライバーには交通安全キャンペーンやスマホ禁止を記した表示版などが有効であることになる。運転中にどうしてもスマホを利用したくなった際にはすぐに停車できるところに車を止めてから操作したい。スマホのことが気になっている状態で運転を続けるのはきわめて危険だ。

■“歩きスマホ”の危険性

 運転中と同じく、当然ではあるが歩きながらのスマホもまたきわめて危険であることが最近の研究で報告されている。“歩きスマホ”で当人がケガするのは自業自得だが、都市部の路上では往々にして周囲にも危害を及ぼすのである。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究チームが2018年6月に「Transportation Research Record」で発表した研究では、交差点を定点観測して“スマホ歩き”の人々の歩き方を分析している。

 研究チームは大学の近くのカムループスの街の交差点に3台のカメラを取り付け、2日間にわたって歩行者の様子を撮影した。記録された歩行者は357人で、そのうちの3分の1がスマホを手にして歩いていた。

 スマホに気をとられている歩行者は歩行スピードと進路を一定に維持するのが難しく、道を横断するのに時間がかかり、車に接近する可能性が高まっていると研究チームは説明する。録画された歩行の様子はコンピュータで分析され、人々の“スマホ歩き”の特徴が明らかになった。

 普通に前を向いて歩いている人物は車が近づいてくるなどして歩く速度を緩める際に、歩幅とピッチをどちらも減少させてスピードを低下させるのだが、スマホを持っている歩行者は歩幅は同じままでピッチを遅くしてスピードを低下させているのである。歩幅が同じでピッチを遅いということは地面への足の接地時間が短く不安定な歩行になる。歩きにくいばかりでなく安全性も損なわれるだろう。

 また20181月に発表されたニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の研究では、“スマホ歩き”の61%は目的地への導線から外れ、約13%も余分な距離を歩いていることが報告されている。つまりフラフラと蛇行しているのだ。

 スマホを手にして下を向いて歩いている人は、本人が感じている以上に不安定で足取りが定まっておらず、結果的に危険に晒されていることが指摘されることになった。そして人通りの多い通りでは周囲にも迷惑や危害が及ぶのである。地図アプリを見るために路上でスマホを見ることもあるだろうが、その際には必ず立ち止まり“歩きスマホ”は慎みたいものだ。

■頻繁にメールをチェックする者ほどストレスレベルが高い

 運転中にも歩行中にもついついスマホを手にしてしまう実態が明らかになっているのだが、ゆっくりとくつろぎ家族と一緒の時間を過ごすべき家庭でもスマホが手放せないというケースも少なくないようだ。そしてこうしたプライベートの時間に仕事関係のメールをチェックする習慣がメンタルの健康を損ない、パートナーの不満を募らせていることもまた最近の研究で報告されている。

 米・バージニア工科大学のウィリアム・ベッカー准教授をはじめとする研究チームが2018年6月に「Academy of Management Proceedings」で発表した研究では、現代の勤労者たちのメールチェックをする頻度と生活の満足度の関係を探っている。

 フレックスタイムの導入や在宅勤務の増加など、フレキシブルな働き方が求められている昨今だが、一方で仕事と私生活の境界が曖昧になってしまうという指摘もある。特にスマホなどのモバイル機器の普及により、どこにいても仕事関係の連絡を受け取れてレスポンスを返すこともできてしまうようになった。

 研究チームは31歳から40歳までの各業界の勤労者を対象に、メールチェックの習慣とパートナーとの仲違いの頻度を聞き出すと共に、不安障害のレベルと生活の満足度(wellbeing)を測定するテストを受けてもらった。

 収集したデータを分析した結果、男女を問わず、またオン・オフに関わらず頻繁にメールをチェックする者ほど受けているストレスの程度が高く、生活の満足度を低く申告している傾向がはっきりと浮き彫りになった。そしてその影響は家庭内の他の者にも波及し、パートナーのストレスレベルも高まっていたのである。

 ベッカー准教授は組織が従業員を支援するため、もっと多くのことを行う必要があると考えている。例えば夜7時以降は仕事関係のメールの送受信を禁止したり、上司からの夜のメールには翌日に返信するといった規則を導入することが考えられるという。またベッカー准教授はマインドフルネスや運動など、ストレスを溜め込まないアクティビティを日常生活に取り入れることを提唱している。

 インターネットとモバイル機器の普及により24時間が“スイッチオン”になっている現代社会だけに、むしろ積極的に“オフライン”の時間を確保することが求められているようだ。

参考:「Wiley Online Library」、「SAGE Journals」、「Virginia Polytechnic Institute and State University」ほか

文=仲田しんじ

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