運転中のドライバーはなぜ路上のバイクを見落とすのか?

ライフハック

 恋は人を盲目にするというが、もしお洒落なバーでほろ酔いならばさらにその“盲目”ぶりに拍車がかかるのかもしれない。最近の研究ではお酒が入ったときの我々は、見えているものを見ないでいられるという。

■お酒を飲んでも熱心に課題に取り組めば注意力は落ちない

 目を開けていれば否応なしに目の前の光景が視界を占めるが、その一方で我々は目の前の光景のどこに注目するかでさまざまな“観点”に立っていることもわかっている。つまり個々の人間は見たいものを見て、見たくないものは無視しているのだ。そしてこの傾向は、お酒が入るとますます顕著になることが最近の研究で報告されている。

 1999年に発表されたユニークな研究で脚光を浴びた現象に非注意性盲目(inattentional blindness)がある。実験参加者は白い服装の人物3人、黒い服の人物3人の計6人の人物がバスケットボールのパス回しをしている映像を見せられ、白い服装のグループのパスの回数をカウントすることを求められた。

 6人は目まぐるしく動き回ってボールをやり取りしていたのだが、途中でそこへ着ぐるみのゴリラが登場し、わずかの時間人々の間に紛れ込んだのだ。しかしながら白い服装の人々のパス回しに注意を払うあまり、ゴリラに気づいた実験参加者は実際かなり少なかったのである。当然ながら視界には入っているのだが、多くは後からこのゴリラの姿は思い出せなかったことになる。そしてこの実験は「見えないゴリラ実験」と名づけられ、さらにこの現象は非注意性盲目として知られるようになったのだ。

 この非注意性盲目はお酒が入っている時にも発生しやすい現象なのではないかと考えたイギリス・ポーツマス大学の研究チームは学生バーでお酒を飲んでいた大学生104人を対象に酩酊度合いを計測したうえで、録画したバスケットボール試合の一部を見てもらい、パスの回数をカウントしてもらった。そして映像を見てもらった後、試合中のパス回し以外に会場内で何か気になった物事があれば報告するように求めた。

 結果はある意味で予想通りで、お酒に酔っている状態では非注意性盲目の度合いが高まり、パスをカウントすることに注意が集中してほかの要素はあまり見ていないことが浮き彫りとなった。

 しかしながら興味深いことに、カウントするパスを直接パスとバウンドパスに分けてそれぞれ数えてもらったところ、非注意性盲目の度合いは特に高まることはなかったのだ。つまり多少はお酒に酔っていても“本気で”、“真剣に”課題に取り組めば注意力は低下しないということになる。

 今回の結果をもってして飲酒運転がそれほど危険な行為ではないとするのはまったくナンセンスなのだが、ある意味ではお酒を飲んでリラックスすることで注意力が散漫になるのであり、ダラダラせずに課題に取り組んでいる限りはそれほど注意力は損なわれないようだ。お酒を飲んでもできることが増えそうだがいかがだろうか。

■なぜバイクを見落とすのか?

 当然のことながら飲酒運転は御法度であるが、アルコールが入っていなくとも事故に繋がる非注意性盲目は起り得る。

 誰でも事故を起こしたくて起しているわけではないが、それでも事故は発生してしまう。そこでよく引き合いに出されるのが、LBFTSという用語だ。これは「Looked But Failed To See」の頭文字であり、「確認したのにどういうわけか見落としてしまった」という意味である。これもまた非注意性盲目の一種といえるだろう。

 そしてドライバーがどういうわけか見落としてしまうのはオートバイであることが交通事故の統計から明らかになっている。車とオートバイがからむ事故では、自動車のドライバーはバイクが視界に入っていながらも事故に繋がる運転をしているケースが多いのである。

「運転している時には脳が扱わなければならない膨大な量の知覚情報があります。この処理には莫大な認知リソースが消費され、じゅうぶんな時間もないためすべての情報には関わることができません。したがって脳はどの情報が最も重要かを選択しなければなりません。LBFTSが原因の事故は、脳が情報をフィルターにかける実態との関連を示唆しています」とオーストラリア国立大学のクリステン・パンマー教授は説明している。つまりドライバーにとってバイクの姿は脳の“フィルタリング”で弾かれてしまう視覚情報ということになる。

 オーストラリア国立大学の研究チームは実験参加者の成人56人に対してドライバー目線での車通勤時の路上の様子を表した一連の画像を見てもらい、それぞれの画像が安全であるのか危険であるかを素早く判断してもらった。一連の画像は道路と風景のみであったのだが、最後の1枚にはバイクかタクシーのどちらかが描写されていた。

 実験の結果、参加者の48%が最後のバイクとタクシーに気がつかなかったのだが、この2車両には大きな違いが生じた。タクシーを思い出せなかったのは31%に留まったのに対し、バイクはなんと65%が見たことを思い出せないと報告していたのだ。ドライバーから見てバイクはタクシーの2倍以上“無視”されていることになる。

 バイクとタクシーはドライバーにとって同程度の存在感であるようにも思えるのだが、実際はバイクの存在感はタクシーよりもはるかに低いことが明らかになった。したがって視界に入ってはいるのに見落としてしまうというLBFTSがきわめて高まるということになる。ドライバー目線のこの“偏見”は確実に存在していることになるため、各種の安全運転講習や免許更新時などに務めてこのバイクに対する“軽視”があることを周知徹底しなければならないと研究チームは提唱している。車を運転する際には「バイクは見落としやすい」という科学的事実を思い返してみるべきだろう。

■カフェインなしで注意力を高める方法7選

 自動車を運転するときなどは注意力を高めたいものだが、そのためだけにカフェインを摂るのは憚られるという向きも少なくないだろう。そこでライターのセス・シモンズ氏がカフェインを必要としない注意力の高め方を7つ紹介している。

1.うたた寝
 数分間の効率的なうたた寝でその後数時間のパフォーマンスを高められる。決して横にならずに椅子やソファの上で行なうのだが、その際に床に落とすとある程度音が鳴り響くモノを手に握ってうたた寝をする。完全に眠りに落ちてしまうと手の力が緩んでモノが床に落ちて音が鳴り響き否応なく目覚めることになる。

 しかしこの数分間のうたた寝でメンタルが回復して集中力と注意力をその後数時間、復活させることができる。自動車を運転中にも、どこか停められる場所があればこの方法でうたた寝してみてもよいだろう。

2.ミニゲーム
 課題に取り組んでいる最中に“飽き”がきてしまうこともあるだろう。こうした場合は、短時間で終わるミニゲームで気分転換を図ってみてもよいだろう。ちょっとした手に汗握る体験をすることでいったん脳をリセットすることができる。

3.ストレッチ運動
 使ってない筋肉を伸ばして刺激を与えることで気分もリフレッシュできる。車を運転中にも停められる場所があれば車を降りて少し体操をしてみてもよいだろう。

4.競い合うゲーム
 短時間でできて競い合えるゲームもよい気分転換になる。オセロやウォーゲーム、カードゲームなどで相手に勝利することで、脳が刺激されて“ヤル気”が復活する。

5.水分補給
 水分の不足が脳のパフォーマンスを低下させることがこれまでの研究で確かめられている。仕事中にも意識的に水を飲むことを心がけたい。目安は1日2リットルで、1日の間に大きめのコップで8杯の水を飲むようにしたい。

 コーヒーで瞬間的に意識をはっきりさせてもよいのだが、水をこまめに補給したほうが1日の間で集中力は長続きする。

6.友人と電話で話す
 課題や仕事に飽きや疲れを感じた場合、少しの時間友人と電話で話すこともよいリフレッシュ方法だ。話の内容はむしろ他愛のない雑談のほうがよい。もちろん近くに友人がいて邪魔にならなければ直接雑談を交わしてもよいだろう。

7.運動
 ストレッチで物足りなさを感じた場合は、短時間の運動をしてみてもよい。階段を駆け上がったりその場でジャンプを繰り返したりしてもよいだろう。少し心拍数をあげることで眠気や気だるさを払拭することができる。

 コーヒーを1杯飲む代わりにこれらのどれかを試してみれば意外な効き目を実感できるかもしれない。

参考:「Springer」、「APS」、「Lifehack」ほか

文=仲田しんじ

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