進むロボットの“社会進出”! ロボットと人間が同じ仕事をするとどうなるのか?

サイエンス

 2018年は北米の職場で記録的な数のロボットが導入されていたことがかつて発表されている。ロボットと共に働く職場は現在進行形で急増しているのだ。

■職場へのロボットの“進出”が急速に進む

 賛否はあるものの、仕事の現場へのロボット導入は各分野で急速に進んでいることが最近発表された報告から明らかになっている。職場へのロボットの“進出”は着実に増えているのだ。

 アメリカのロボット業界団体、RIA(Robotic Industries Association)が発表した報告によれば、2018年は北米でのロボット出荷数が過去最高を記録したことが示されている。

 RIAによれば、2018年にアメリカ、カナダ、メキシコに出荷されたロボットは3万5880台で、前年から7%の伸びを見せた。このうち1万6702台は自動車産業以外の分野への出荷で、前年比41%の増加を記録している。

 興味深いことに、これまでロボット産業の最大の顧客であった自動車産業だけはロボットの出荷数が減少しており前年比12%低下している。そして自動車産業はロボット出荷数の53%を占めるにとどまり、これは2010年以来最も少ない割合である。

 出荷数が減少する自動車産業に代わって、食品産業、消費財産業、プラスチックおよびゴム産業、ライフサイエンス、エレクトロニクスの分野のロボット需要が急速に伸びていることが浮き彫りになった。今やロボットの活躍の場は大規模工場にとどまらないのである。

 ロボットの“社会進出”で懸念されるのはもちろん雇用であり、雇用創出に繋がる政策は世界各地で試みられているが、現実にはロボットの導入は各分野で強力に推し進められていることが明らかになった。

 米シンクタンク「ブルッキングス研究所」が2019年1月に発表したレポートでは、今後ロボットとAIに雇用を脅かされない職種はほとんどないということだ。全業界、全職種でロボットとAIの導入が否応なく進むのは必定ということなのだろう。

■人々の3割がロボットの同僚に好感を持つ

 今後ますます進むロボットの“社会進出”だが、現在、人々はロボットやAIについてどのような印象をもっているのだろうか。興味深いデータが2018年8月に英オンラインショッピングサイト「OnBuy.com」から発表されている。例えば職場の同僚がロボットになったとしても、今や3割の人々が快適に仕事ができると感じているのである。

●将来、ロボットとの間に“友情”が芽生えると思いますか?
※Yes:男性17%、女性10%
※No:男性68%、女性77%
※わからない:男性15%、女性13%

●将来、ロボットが恋愛の対象になると思いますか?
※Yes:男性9%、女性3%
※No:男性82%、女性93%
※わからない:男性8%、女性4%
※Noと言いたい:男性1%、女性1%

●ロボットの同僚と一緒に働くことをどう思いますか?
※快適である:男性33%、女性22%
※不愉快である:男性54%、女性65%
※わからない:男性13%、女性13%

●ロボットのマネジャーと働くことをどう思いますか?
※快適である:男性20%、女性12%
※不愉快である:男性66%、女性75%
※わからない:男性14%、女性13%

“友情”や“恋愛”といったプライベートな部分ではまだまだロボットへの感情の隔たりがあるようだが、話が仕事関係になるとロボットへの“拒否反応”は案外弱そうにも思える。

 それでもまだ半数以上がロボットと一緒に働くことに否定的な感情を持っているのだが、今後ますますロボットの“社会進出”が進めばこの数字はかなりの程度、変わってくるのではないだろうか。

■人間とロボットが同じ仕事をするとどうなるのか

 職場にやって来るロボットはたいていの場合、ある特定の仕事を専門的に行なう“専門職”として戦力に加わるだろう。

 逆に言えば、ロボットができる仕事はもはや人間の力を必要としなくなっているわけだが、AIやロボットの進歩の過渡期においてはロボットと人間が同じ作業をするケースも起り得るかもしれない。

 米・コーネル大学とイスラエル・ヘブライ大学の合同研究チームが2019年1月に発表した研究では、ロボットが人間と同じ仕事をした場合、人間の側にどんな影響を及ぼすのはを実験を通じて探っている。

 実験に参加した61人はそれぞれ、単語のスペルの中にある“G”の数を数えて、その数の分だけのブロックをゴミ箱に捨てるという一連の作業をどれだけ早く出来るのかロボットと競う課題を行なった。そして課題が終わった後には、ライバルのロボットをどのように見ているのを明らかにする質問に参加者は答えた。

 ロボットのパフォーマンスはあらかじめ調節できるのだが、たいていの人間は敵わない“ハードモード”で競った参加者は、ロボットに勝てないと分かるとモチベーションが失われて作業のパーマンスが落ちる傾向が浮き彫りになった。そして課題後には競争相手のロボットは素晴らしいと讃える一方で自分を卑下し、そのロボットを嫌いになっていたのだ。

 他方、能力を低く設定した“イージーモード”のロボットと競った参加者は、最大限のパフォーマンスを発揮し、自尊心が高まると共に、負かしたロボットを好ましく感じていた。つまり人間は能力の高いロボットを嫌い、自分よりも仕事ができないロボットをより好むのである。

 もちろん通常の場合は人間とロボットが同じ仕事をすることはないと思うが、今後のAIとロボットの進歩の仕方次第では、思わぬ分野の仕事がロボットに任されることがないとは限らない。仕事の現場においてはロボットと人間の“持ち場”を常に明確にすることが求められているのかもしれない。

参考:「Exxpo.com」、「Open Access Government」、「SSRN」ほか

文=仲田しんじ

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