週に1度以上セックスする人は年に600万円以上多く稼いでいる!?

サイエンス

 日本ばかりでなく世界的にもゆるやかに“セックス離れ”が進んでいるという。

■アメリカでも進む“セックス離れ”

 2017年2月に一般社団法人「日本家族計画協会」が発表した統計では、セックスレス状態(1ヵ月以上性交渉がない状態)にある夫婦は10年前(34.6%)に比べて昨年は12ポイント悪化し、47.2%という、ほぼ半数近くに達しているという実態が明らかにされた。以前から日本人夫婦のセックスレス傾向は指摘されていたが、あらためてその実情がリアルな数字で突きつけられることになった。

 日本ではきわめて極端な事態を招いているが、カップルのセックスレス化は多かれ少なかれ世界的な傾向になっているという。例えばアメリカでも20年前に比べてカップルの性行為の回数が減少していることが明確に数字にあらわれている。

 アメリカの合同研究チームが総合的社会調査(GSS)のデータから1989年以降の2万6000人を対象に行なった分析によると、10年前と20年前に比べて2010年~2014年はカップルも未婚者もおしなべてセックスの回数が大きく減っている実態が浮き彫りになっている。

 特に既婚カップル及び同棲カップルの性行為数の減少が顕著で、2000年~2004年(年平均69回)から、2010年~2014年(年平均56回)では年に16回(15回強)も減っている。カップルを含むすべての成人においても全体的に性行為の回数は減っており、1995年~1999年(年平均62回)から1010年~2014年(年平均54回)では年に9回(8回強)減っているのだ。

 興味深いのは、これまでは既婚者カップル(あるいは同棲カップル)が独身者に比べてセックスの回数が多いのは当然だと考えられてきたが、現在では既婚者のセックス頻度が大きく低下したため独身者のほうが比較的多くセックスをしているという逆転現象が起っていることだ。しかしそうであるにせよ、今の独身者も10年前、20年前に比べればやはりセックスの頻度は減っている。もっとも“お盛ん”な25歳のセックス頻度は毎年平均1.8回分ジワジワと減り続けているという。

 これにはやはり“米国版さとり世代”ともいわれている20代前半~30代後半の「ミレニアルズ」の“セックス離れ”が主な理由と考えられている。ミレニアルズは肉体関係を伴うパートナーとの交際期間が短い傾向があり、その結果性行為が“ルーティーン”になり難いという面もあるようだ。しかしどの世代にとっても“セックス離れ”は進んでおり、社会全体の傾向としてはっきりとあらわれていることは確かなようである。“セックスレス化”は日本だけではなかったのだ。

■週に1度以上セックスする人は年に600万円以上多く稼いでいる!?

 これらのデータからわかるように、今後は性的に“淡白”なライフスタイルが世界的にも主流になっていきそうな気配が濃厚だ。しかしこうしたトレンドに“待った”をかけるような研究が最近発表されている。週1度以上のセックスはポジティブな生活を送る原動力になるということで、それを経済的効果に置き換えた場合、年間600万円にも匹敵するというのである。

 カナダ・トロント大学の研究チームが社会心理学系学術誌「Personality and Social Psychology Bulletin」で発表した研究ではいくつかの実験が行なわれている。オンライン上で募った恋愛中のアメリカ人335人と、米サンフランシスコ地域在住のカップル74組に、セックスの頻度と生活の満足度、親しみに溢れる愛撫行為(ハグ、キス、愛情表現)の頻度などについての調査を行なったのだ。

 調査を分析した結果、セックスと愛撫は日常生活の中での気分の爽快さに関係があることがわかった。そして各種の数値を計算した結果、心身の健康に寄与しているのは愛情(セックスと愛撫)であると結論づけたのである。

 続く調査では、106組のスイス人カップルを日報ベースでデータを取って分析したところ、10日間の調査期間中に多くのセックスを行なっていたカップルほど、6ヵ月後の生活の満足度だ高いことが判明した。また別の調査では、満たされたセックスの“余韻”は行為終了後も数時間続いていることがわかっている。

 これらの調査が示すものは、セックスで得られた満たされた思いや幸福感は行為後もしばらく続くということである。この現象が社会生活や仕事にも影響を及ぼし、前向きで生産性の高い行動へと繋がるということだ。その効果たるや、年間600万円以上(4万ポンド)のボーナスを得ていることと同等であると、研究をレビューした心理学者で著作家のクリスチアン・ジャレット氏は主張している。

 世の“セックスレス化”の流れに反旗を翻すような最新研究が報告されていると言えるだろう。しかしながらこうした人物像は、仕事もセックスもお盛んな古典的な“モーレツ社員”というニュアンスも感じられ、ミレニアルズの関心を得そうにないが……。

■「ワーク・ライフ・バランス」の最初の一歩は性行為に費やす時間の確保

 セックスを奨励する主張がさらに続いているようだ。また別の研究でもセックスが仕事への意欲とパフォーマンスに好影響を与えていることが指摘されている。

 米・オレゴン州立大学の研究チームは、159組の夫婦を対象に2週間にわたって性生活についての簡単な報告を1日2回してもらいデータを収集した。結果はやはりセックスの効能を強力に支持するものになったのだ。活発で健康的な性生活を送っている者は、仕事を楽しく感じ生産的である傾向が判明したのだ。すなわち、セックスの回数が多い者ほどポジティブな気分を保っており、前夜のセックスは仕事への意欲を高め、より職務に精励していることがわかったのだ。

 セックスの頻度は職場における労働生産性にも関係していることもわかり、結婚生活への満足感や快眠など生活全般の質を向上させる大きな役割を担っているという。またセックスによる満たされた幸福な気分は少なくとも24時間は続くということである。

 生理学的にはセックスによって報酬系の脳内神経伝達物質であるドーパミンと、別名“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンの分泌が盛んになることで、気分が高まり行為後もしばらく高揚が続くということだ。

 昨今のIT技術の急激な発達で、職場を離れても仕事の一部、あるいはすべてを継続できてしまう事態を迎えている。そうした中、完全に仕事から切り離された時間の確保が求められているのだが、そこで活用されるのがセックスなのだ。昨今叫ばれている「ワーク・ライフ・バランス」の最初の一歩として、セックスの時間の確保が挙げられるのかもしれない。もちろん完全に我を忘れて没頭できる対象を(薬物以外で)すでに持っているのならそれに越したことはないが、高度情報化社会の今日、プライベートな時間を確保することがこれまで以上に重要になっていることは間違いない。

参考:「Springer Nature」、「SAGE Journals」、「EurekAlert!」ほか

文=仲田しんじ

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