中国に追い上げられているものの、今でも世界一の消費大国であるアメリカ国内の具体的な消費の実態に近づいてみると、個人消費に占める“衝動買い”の割合が無視できないものになっているようだ。
■買い物の2割が“衝動買い”
アメリカの大手ショッピングクーポンサイト「Slickdeals」が2018年2月に発表した調査では、なんとアメリカ人の個人消費の約2割が“衝動買い”であることを報告している。
成人2000人の消費行動をさぐる調査で、アメリカ人は平均週に3回、年にして156回もの衝動買いをしていることが明らかになった。金額にして月に4万8000円(450ドル)、年にして57万円(5400ドル)以上ものお金を衝動買いに費やしているのだ。
“衝動買い”に分類されるちょっとした贅沢や浪費は、その瞬間の気分を高揚させたり慰めたりするものでもあるのだが、チリも積もれば山となるものでもあり、なるべく回避するに越したことはないだろう。1年間に60万円の近くお金をもし計画的に使うことができればある程度の“大きな買い物”ができるはずだ。もちろん貯蓄に回すこともできる。
では平均的アメリカ人はどんな衝動買いをしているのか? やはり最も多いのは本来必要のないちょっとした飲食での散財だ。主な衝動買いは下記の通り。
●食品全般:71%
●衣服:53%
●日用雑貨:33%
●靴:28%
スーパーやコンビニではレジの近くにガムやキャンディなどの小さいパッケージの菓子類が売られているが、アメリカ人の3分の1はレジの待ち時間が一定時間以上あるとこうした菓子類を手に取って買い物カゴに入れるという。そして近所の飲食店の前を通り過ぎた後、32%の人々が食欲を刺激されて衝動的に食べ物を購入している。また店頭で気に入った靴を見かけた場合、4人に1人はその場で購入すると回答している。
アメリカ人の54%は自身の楽しみのために衝動買いをすることがあると申告していて、実際にちょっとした幸せを感じているということだ。衝動買いしたことを当面は後悔はしていないのだ。そして興味深いのは衝動買いを行なった人の63%が割引セールがきっかけとなったと回答し、40%は割引クーポンを受け取って背中を押されたということで、割引セールやクーポンの誘惑には実に弱いことが浮き彫りになっている。
ある意味で消費行動自体が娯楽になっている側面もありそうだが、本来使わないものや食べる必要のないものまで衝動買いしているとすれば確実に経済的な損失になるだろう。こうした機会に普段の消費行動を振り返ってみてもよさそうだ。
■“アメリカンドリーム”を信じる者は浪費しない!?
消費大国のアメリカだが、その国家理念のひとつに貧しくても努力すれば成功を収められるという“アメリカンドリーム”がある。今や失われてしまったとも言われているアメリカンドリームだが、このアメリカンドリームを信じて着実な努力を続ける者ほど無駄な消費をせずに貯蓄が増えていて、一方でアメリカンドリームが信じられずに将来の経済状況に悲観的な者ほど衝動買いが多い傾向あることが2017年の研究で指摘されている。
アメリカンドリームとは経済的階層の移動性の高い社会のことで、富裕層や貧困層が固定化せずに一代で別の階層へと移動しやすいことが“古き良き”アメリカの掲げるひとつの理想なのだ。この経済的階層の移動性はエコノミックモビリティ(Economic Mobility)と定義され、アメリカンドリームとはこのエコノミックモビリティの高い社会のことである。
ニューヨーク州立大学バッファロー校のサンイー・ユーン助教授とジョンズ・ホプキンズ大学のヒョンミン・キム准教授の合同研究チームは、都市の消費者と大学生を対象にした4つの調査分析で、エコノミックモビリティと衝動買いの関係を探る研究を行なっている。
研究の結果、いわゆるアメリカンドリームを信じ、出自よりも高い経済的階層に上がることができると考え、長期的展望に立った生活を送る者は無駄遣いをせずに出費を抑えられる傾向があることがわかった。一方でアメリカンドリームが信じられす、自分には経済的階層を上がることができないと考えている者は、衝動買いの欲望をあまりコントロールできない傾向があるということだ。
しかしながら楽観的な消費者は、将来の目標を達成するための投資となる商品(例えば公の場に相応しい服装や靴)やサービスであれば、衝動買いもあり得るということである。
将来経済的にレベルアップできると感じていれば“金離れ”はよくなりそうにも思えるが、実際はむしろ無駄遣いが減ることが今回の研究で示唆されることになった。国民の自己破産や経済破綻の増加を食い止めるためには、努力すれば報われるという健全なアメリカンドリームの復権が求められているということだろうか。
■“買い物依存症”から抜け出すための9つの助言
衝動買いや浪費という言葉に収まるものであればまだしも、“買い物依存症(shopaholic)”となるとそれはもはや精神疾患とも言える。かつて買い物依存症であったと自認するライターのチェルシー・グリーンウッド氏が衝動買いの癖を断ち切り、買い物依存症から抜け出すためのポイントを解説している。
1.瞬間的な満足は長期に及ぶ充足感をもたらさない
人を衝動買いに誘う最大の要因は今すぐ満足感を得たいという欲求である。そしてこの満足感は実際に購入してしまうことで急速に減衰することをよく理解することが求められている。
2.“大きな買い物”を計画する
車や旅行などの“大きな買い物”を詳細に検討することで、日常の中での小さな衝動買いを抑えられる。
3.ウィンドーショッピングをやめる(オンラインショップを含む)
オンラインショップを含めて空いた時間になんとなく売り場を見てしまうという癖をなくすことに尽きる。
4.家計簿アプリを使う
家計簿アプリなどを使って出費をすべて記録する。
5.商品選びは量より質を優先する
いわゆる“安物買いの銭失い”を避けるためにも、商品選びは品質を最優先にすることを心がける。
6.フリマアプリを活用する
タンスの肥やしになっているようなアイテムはフリマアプリなどを活用してどんどん処分する。売りさばく経験を積むことで買い物にも慎重になれる。
7.必需品と嗜好品をはっきり区別する
買い物をするにあたって、それが本当に必要なものなのか、それとも所有欲を満足させるためのものなのかをはっきり区別し、自覚して購入する。
8.購入する理由をはっきりさせる
必需品以外のモノを購入する時には、どうして必要なのかその理由をはっきりさせて自分に納得させる。合理的な理由が説明できればその買い物は“衝動”ではなくなるからだ。
9.買い物依存症をよく理解する
買い物依存症という症状が存在することをよく理解する。買い物依存症はストレスや欠落感、自信喪失などが原因の充足行為であり、周囲から承認を得たいという欲求を満たすものでもある。そしてこの時、脳内では快楽を感じる神経伝達物質が多く分泌されていることもわかってきている。買い物依存症はれっきとした病気であるとよく理解することが肝要である。
もちろん人間である以上、娯楽やちょっとした贅沢なども時には必要だが、どんなことにお金を使っているのかをよく自覚して買い物や飲食を楽しみたいものだ。
参考:「Yahoo! News」、「University at Buffalo」、「Insider」ほか
文=仲田しんじ
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