記憶力、着想力、問題解決能力がアップする絵描きの効能

サイコロジー

 授業中や会議中には重要なことを書き記しておきたいものだが、単純に英単語を記憶するような場合でも手を動かしてノートに書き記したほうが記憶が定着しやすいといわれている。しかしそれよりもはるかに有効な記憶法があることが最近の研究で報告されている。それは絵に描いて残すことだ。

■絵を描いて記憶する“絵描き効果”とは

 英語の古いことわざに「一枚の絵は一千語に匹敵する」というフレーズがあるが、これはやはり一面の真実を突いていたようだ。

 カナダ・ウォータールー大学の研究チームが2018年8月に心理学系学術ジャーナル「Current Directions in Psychological Science」で発表した研究では、絵を描くことで記憶の保持と想起に“驚くべき強い影響”を与えていることを主張している。研究チームはこの素晴らしい記憶法を“絵描き効果(Drawing Effect)”と名づけた。

 研究チームはいくつかの実験を通して、言葉や物事を絵に描いて記憶することは、文字で書き記したり視覚化(ビジュアライズ)するといったほかの記憶法のどれよりも多くのことを長く憶えていられると結論づけている。

 この実験結果が示すのは、文字でノートをとるのが最も有効な学習方法ではなく、情報を絵に描くことが実効性を備えた効率的な学習法であると研究チームは説明している。

 実験のひとつでは参加者たちは「買い物リストゲーム」に挑んでいる。参加者たちは買うべき品物を30点伝えられたのだが、その際に言葉でメモ書きするグループと、絵に描いてリストを作るグループに分けられた。いったんリスト表を回収して品物を思い出してもらったところ、絵に描いたグループのほうが多くの品物を記憶している顕著な傾向が見られたのだ。

 別の実験ではより複雑な概念をあらわす言葉、例えば胞子(spore)や同位体(isotope)などを用いて同様の実験を行なっている。そしてここでも絵に描いて憶えたグループのほうがはるかに多く記憶できていることが明らかになった。

 いったいどうして絵に描いたほうが文字を記すよりも記憶に残るのか。そのメカニズムは完全には分かっていないが、いくつかの説明が考えられる。ひとつは絵を描くことは創造的な行為であり、社会で共有されている言葉を使うよりも当人にとって印象強い体験になる点だ。

 もうひとつは絵が持っている情報量の多さである。言葉で記せば長くなることでも、絵に“暗号化”することで短時間に多くの情報を詰め込むことができるのだ。もちろん絵の場合は究極的には当人にしか分からない表現にはなる。

 研究ではまた老人介護施設の認知症患者に対しても同様の実験を行なっており、ここでもやはり絵を描いたほうのグループがより多く言葉を記憶している“絵描き効果”が確かめられた。

 絵を描く習慣のない者にとっては最初はなかなか難しそうだが、何かの機会に“絵描き効果”を試してみてもいいかもしれない。

■絵描きが習慣づけば人生がうまくいく

 インターネット社会を迎え、とかく文字入力とスマホ画像に偏りがちな生活の中、絵を描くことのメリットがさまざまな面から注目されているようだ。

 これまでの研究でちょっとした時間に自由に絵を描いてみることで、記憶力だけでなく集中力と脳の認知機能が向上することが報告されている。最近の研究ではこれに加え、絵を描くことによって脳の報酬系が作動し気分がよくなるばかりでなく、新たなアイディアが湧く着想力と問題解決能力もまた高まることが示されている。

 米・ドレクセル大学の研究チームが2017年5月に学術ジャーナル「The Arts in Psychotherapy」で発表した研究では、実験を通じて絵を描くことで楽しみを追求する脳の報酬系が強化されることを指摘している。

 26人の実験参加者は脳活動をモニターする機器であるfNIRSを頭に装着した状態で、3タイプの絵画をそれぞれ3分間描く作業を課された。3タイプの絵画とはそれぞれ、マンダラの塗り絵、指定された円の中での絵描き、白紙上の自由な絵描き、である。1つの絵描きが終わった後は目を閉じて2分間休憩してから、次の絵描き作業に挑んでもらった。

 収集した脳活動のデータを分析した結果、いずれのタイプの絵描きでも脳の報酬系を司る前頭前皮質(prefrontal cortex)の血流が活発になっていた。特に指定された円の中に絵を描く課題で最も血流が活発になっていたが、程度の差こそあれ、どんな絵を描いていてもその間は脳が快感を感じていることになる。

 目を閉じて休んでいる2分間の間、この部分の血流の流れは元に戻ったが、次の絵を描きはじめると再び血流は活発になった。

 研究チームはさらに分析を進め、15~20分の絵描きによる“自己表現”で当人の着想力と問題解決能力が高まることを結論づけている。そして各種の常習行為や摂食障害、気分障害などに対する“絵描きセラピー”の可能性を指摘している。我々の脳が“喜ぶ”絵描きの効能にますます注目が集まっているようだ。

■絵でわかるパーソナリティー

 絵描きやちょっとした落書きが習慣づくのは“脳に良い”ということになるのだが、その絵には当人の性格特性が浮き彫りになっているといわれている。そこで筆記具メーカー「BIC」のコンサルタントも務める筆跡学者のトレイシー・トルーセル氏が絵の特徴からわかる性格特性を解説している。

 まずはどんな形を描くことが多いかという点だ。

●円が多い:フレンドリーで親切。愛情に動かされて争いを嫌う。

●四角形が多い:組織的で制御された状態を好み、細部にまで行き届いたプランニング能力を持つ。

●三角形が多い:野心家である。夢や目標に到達するまでは何があっても立ち止まらない。また競争心に溢れ機知に富むが、一方で人間関係で摩擦を引き起こしやすい。

 次に何をよく描くのかでも性格特性が占える。

●花:友人との人間関係を大切にする。忠実で信頼の置ける人物である。

●星:確実に野心家である。物事に熱心に取り組む楽観主義者だが時には短気を起こす。

●顔:人間に興味があり、人情を解する人物である。

●立方体:抜け目のない戦略家で、大きな観点からや別の人間の立場から物事を見ることができる。

●家:家族主義者で安定した生活を好む。

 どんな線を多用するかでも性格特性を推察できる。

●円と曲線:愛し愛されたい人物で対立を避け、関係の調和に務める。

●クネクネした波線:適応力が高く、頭の回転が早い。その一方で回避的で決断力に欠ける場合もある。

●ジグザグした線:意思が強く物事をどんどん進めることを好む大胆不敵な人物である。

 タッチの癖でも性格特性が推し量れる。

●大きな絵を描く者は自己顕示欲が強く、一方で小さな絵を描く者は静かな生活を好む謙虚な人物である。

●同じ絵をあちこちで何度も描く者は根気と忍耐力がある。

●同じ場所に絵を描き続けているのは不安のあらわれであり、プレッシャーに晒されている状態である。また罪の意識を感じている場合もある。

●影や網かけ、塗りつぶしの箇所が多い絵を書く者は基本的に退屈している。何か怒りを抱えていたり、自信を喪失していたりと不幸な状態にある。

 もちろんおおまかな傾向ということにはなるが、絵にまつわる雑学として何かの役に立つかもしれない。

参考:「SAGE Journals」、「Drexel University」、「Mirror」ほか

文=仲田しんじ

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