薄暗い店内では買い物が自分勝手になる!?

サイコロジー

 スーパーマーケットや家電量販店の店内はとにかく明るい照明が特徴だが、もし売り場が少し薄暗かったらどうなるのだろう。最近の研究では店内の照明の明暗が来店客の消費行動に影響を及ぼすことが報告されている。

■薄暗い店では自分本位の買い物になる

 商品の機能性を第一優先にする買い物もあれば、自分の満足感が判断基準になる品定めもある。最近の研究では、明るい店内は機能性を優先したショッピングに適していて、薄暗い店内は自分本位の買い物をするのに向いていることが報告されている。

 シンガポール・ナンヤン理工大学と米・ノースウェスタン大学の合同研究チームが2017年12月に学術ジャーナル「International Journal of Research in Marketing」で発表した研究では、実験を通じて店内の照明が及ぼす消費行動への影響を探っている。

 実験の1つでは、180人の参加者がランダムに明るい部屋と薄暗い部屋に振り分けられ、さまざまな二者択一の選択をしてもらった。2つの選択肢は例えば、就職面接での有能な応募者と愉快な応募者、仕事用のモバイルアプリと個人的なエンタメ系アプリ、機能的なオフィス向けPCとスタイリッシュなノートPC、ドキュメンタリードラマと恋愛ドラマ、などだ。一連の二者択一を行なった後、参加者はそれぞれの選択で本心ではどちらが欲しかったのかも訊ねられて回答した。

 収集した回答データを分析した結果、薄暗い部屋では自分の本心をより反映した選択を行いやすくなることが判明したのだ。この結果は、逆に明るい環境では合理性を優先した選択に導かれやすいことを反証することにもなる。

 これまでの研究でも、薄暗い空間では人々はより快楽主義的選択(hedonic options)を行なうことが報告されているのだが、その理由は“他人の目”がないからであると説明されている。しかし今回の研究では、“他人の目”があったにせよ薄暗い部屋では他者への意識が低くなり、そのぶん心理的ガードが弱まるために自分の本心を優先させやすくなるのではないかと説明している。

 しかし興味深いことに、薄暗い環境で自分本位になるというこの傾向は、当人が家族や友人などの親しい人物を心に思い浮かべている場合には打ち消されるということだ。したがって薄暗い店内であっても、例えば家族や友人へのお土産などを選んでいる場合は特に自分本位にはならないことになる。

 付随する発見としては、例えば車の渋滞にはまるなど物理的に自由が失われた状況での消費行動は機能面を優先させる傾向があり、そしてどの商品を選んでよいのか難しい場合は自分本位の意思決定になりやすいということだ。ともあれ小売店にとっては有効に活用してみたい研究結果だろう。

■薄明かりでバカになる?

 照明の明暗が消費行動に影響を及ぼすことがわかったのだが、オフォスや仕事場においては薄暗い照明は厳禁であることが専門家から指摘されている。薄暗い照明の部屋では記憶力と学習能力が低下するということだ。

 米・ミシガン州立大学の研究チームが2017年12月に発表した研究では、マウス(ナイルサバンナネズミ、Nile grass rat)を使った実験で、環境の明るさが脳の海馬に及ぼす影響を探っている。

 研究チームはマウスを2グループに分け、Aグループは明るい環境に置き、Bグループを薄暗い環境に置いた。マウスを観察した結果、明るい環境にいたAグループのマウスは空間運用課題においてBグループよりも好成績を収めることが確認された。

 脳の海馬は記憶と学習能力に強い関係があるとされているが、研究チームがマウスの脳活動をモニターしたところ、Bグループのマウスの海馬の活動は実験前よりも30%低下していることが突き止められた。つまり薄暗い環境に置かれたBグループのマウスは記憶力と学習能力が3割低下したのだ。

 1カ月間、薄嫌い場所に置かれたこのBグループのマウスを、明るい環境にしてひと月過ごさせると、海馬の機能低下が完全に回復を見せることも研究チームが確認している。やむなく薄暗い環境にいたとしても、それと同じくらい光を浴びることで海馬の機能低下は避けられることになる。

「神経細胞の接続状況が弱まるので、海馬に結びつく学習能力と記憶能力が低下します。言い換えれば、薄暗い環境はおバカを作り出すのです」と研究チームのジョエル・ソレル氏は語る。

 薄暗い照明は気分を落ち着かせたり、ロマンティックな気分を誘発したりといった効能もあるが、少なくともオフィスや仕事場は明るくなければならないことがあらためて確認されたことになる。

■洞窟で孤独に暮らせば丸2日間眠れるようになる?

 自然の中で日差しに遮られた場所といえば洞窟がまず思い浮かぶが、もし人間が洞窟の中で長い間孤独に過ごしたらどんな変化が訪れるのだろうか。

 1965年にアルプス山脈のフランス側にある洞窟で、探検家のジョージー・ラウレス氏(ちなみに女性)とアントニー・セニ氏が洞窟生活の連続最長記録に挑んでいる。それぞれ別の場所での単独の洞窟生活で、この記録への挑戦はそのまま、闇の中での孤独な生活で人体にどのような変化が起るのかという検証実験でもあった。

 挑戦の結果は、ラウレス氏が連続88日間という女性の世界記録を達成し、セニ氏が男性の世界記録である126日をマークした。

 2人はそれぞれ洞窟内部の暮らしの中で過ごした日数をカウントしていたのだが、興味深いことに3月12日にギブアップしたラウレス氏はその日が2月25日であると主張し、4月5日に洞窟を出てきたセニ氏はなんとその日は2月4日であると申告したのである。

 つまり実際の経過日数よりも、2人の探検家の主観的な滞在日数は大幅に短くなっているのである。いったいどういうことなのか?

 2人の洞窟生活の日記を詳細に分析してみると、我々が平均で1日7~8時間の睡眠時間が、なんと暗闇の洞窟内では一度に30時間も眠ることがあることが判明した。しかも本人の感覚ではそうした長時間の睡眠が短時間の“うたた寝”のように感じられているため、主観的な1日=24時間が実際にはどんどん長くなっているのである。

 研究では、暗闇の中で刺激のない孤独な生活を送るとなんと最大48時間まで一度に眠ることがあり得ると報告している。また逆に睡眠不足も本人の時間の感覚を狂わせるということだ。

 人間はやはり太陽を随時確認しないことには“体内時計”が狂ってくるため、このような現象が起ると説明されているが、この問題は近い未来の我々に再び喫緊の課題になることが指摘されている。その理由はほかならぬ、間近に迫っているといわれている人類の火星進出にある。

 片道3ヵ月かかるといわれている火星旅行において、宇宙船の閉鎖された空間の中で“旅客”がどのように過ごしたらよいのかが模索されているのだ。いずれにしても我々は暗い場所に長い時間いてもあまり良いことはなさそうだ。

参考:「ScienceDirect」、「Michigan State University」、「Science Alert」ほか

文=仲田しんじ

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