若者の間に完璧主義者が増加中! 原因はSNSの普及か?

サイコロジー

 仕事でも遊びでもパーフェクトに物事が運べたならば嬉しさもひとしおだが、はじめから完璧を目指すかどうかは人それぞれだろう。しかしここ最近、何かにつけてパーフェクトであろうとする“完璧主義者”が増えているというのだが――。

■若者の間に完璧主義者が増えている!?

 興味深いことに若い世代に“完璧主義者”が増えているという。イギリスのバース大学とヨーク・セント・ジョン大学の合同研究チームが2017年12月に心理学系学術ジャーナル「Psychological Bulletin」で発表した研究では、アメリカ、カナダ、イギリスの大学生合計4万1641人のビッグデータから、若者たちの“完璧主義者”の度合いを探っている。分析の結果、2016年の時点で若者の間で“完璧主義者”が顕著に増加していることが判明したのだ。

 完璧主義者には3つのタイプがありそれぞれ、自分で自分を厳しく律する自己指向型(self-oriented)、自分が完璧であることを周囲から求めらていると感じる社会規定型(socially prescribed)、完璧であることを他者に厳しく要求する他者指向型(other-oriented)である。

 研究チームが分析した結果、1989年の大学生に比べて2016年の大学生は、自己指向型が10%、他者指向型が16%それぞれ増加し、社会規定型にいたっては33%も増えていることが明らかになった。つまり今の若者は、周囲からの要求水準の高い“視線”をより強く意識していて、完璧であろうと尽力している者が多いということになる。

 これほどまでに若い世代で完璧主義者が増えている原因としては、SNSの普及が考えられるということだ。今の若者はSNSの活動において他者と自分を比較する機会が前の世代よりも格段に増えたため、なるべく物事をパーフェクトに運ぼうとしたり、“ボロを出さない”ように気をつけたりといった行動の必要性を感じているという。つまりそれだけ周囲からのプレッシャーに敏感になっているということでもある。

 しかしながら完璧であろうとする態度と、それができる能力とはあくまでも別物である。例えば1976年の高校生は約半数が大学に進学して学位を取得することを思い描いていたが、2008年の高校生はなんと80%が大学を卒業することを見込んでいるという。そうはいっても学位取得者の割合はそれほど変わらない。つまり期待と現実のギャップが広がっているのだ。

 研究チームはこの期待と現実のギャップの大きさがメンタルに及ぼす悪影響を指摘している。今の若者は四半世紀前と比べてメンタルへのリスクが各段に高まっているのだ。今の社会が抱えるこうした問題に幅広い理解が求められているだろう。

■完璧主義に起因するうつを緩和・予防する“セルフコンパッション”

 周囲の期待に応えなくてはならないというプレッシャー、そして自分はかくある人物であらねばならないセルフイメージという“完璧主義者”の思考様式が、メンタルヘルスに無視できないリスクを及ぼしている。この悪影響から当人を守るのが、今の自分をすべて受け入れて自己を思いやるというセルフコンパッション(Self-compassion)の心構えである。そして最新の研究で実際にセルフコンパッションが完璧主義に起因するうつを緩和・予防することが指摘されている。

 高い理想を掲げて尽力を怠らない完璧主義者は往々にして周囲から高い評価を受けるが、そのぶん期待に応えられなかった時には本人は強い自責の念や自己批判に駆られるものだ。そしてこうした完璧主義の“副作用”はメンタルヘルスに悪影響を及ぼし場合によってはうつ症状に繋がることがこれまでの研究で報告されている。

 オーストラリアカトリック大学の研究チームが2018年2月に学術ジャーナル「PLOS ONE」で発表した研究では、完璧主義とうつ症状との結びつきを、セルフコンパッションで緩和できることを報告している。

 研究チームは成人512人、青少年541人に匿名のアンケート調査を行い、人々の自己認識とメンタルヘルスの状態を分析した。そして完璧主義とうつとのネガティブな結びつきが、セルフコンパションで弱められることを突き止めたのだ。つまり完璧主義者傾向のある人物でも、セルフコンパションをうまく取り入れることでうつのリスクを低減することができるのだ。

 セルフコンパッション、つまり自分を優しくいたわることは、青少年、成人双方における機能不全の完璧主義とうつ症状の結びつきを生涯を通じて弱めるものであると研究は説明している。完璧主義がはびこるSNS時代にあってセルフコンパッションの重要性が指摘されているようだ。

■セルフコンパッション養成の5つのポイント

 ではどうやってセルフコンパッションの能力を養成していけばよいのか。心理セラピストのアリソン・エイブラムス氏がセルフコンパッションを培うための5つのポイントを解説している。

 セルフコンパッションは自分を甘やかすことでもなければ、よもや傲慢さやうぬぼれでもない。セルフコンパッションは自分自身を丁寧に扱うことであり、たとえ失敗やミスをしたとしてもそれで自分自身の価値が揺らぐことはないという信念である。つまり自分の評価を他者に委ねないということだ。

1.自分を小さな子どもとして扱う
 セルフコンパッションの基本は自分を客体(他者)として見なすことなのだが、その際に自分を小さな子どもであると設定することで、自分に優しくなれる。あるいは自分をもう1人の親友、または最愛のペットとして扱ってみても良いということだ。

2.マインドフルネス(瞑想)を行う
 高い理想を持つ者であるからこそ、そこに到達できない自分を批判して悔しさを味わう。この自己批判は成長のための発奮材料になる一方で、メンタルにネガティブな影響も及ぼす。そこで効果的なプラクティスがマインドフルネスである。

 マインドフルネス時の精神状態では物事の是非を判断しない。つまりマインドフルネスによって過度な自尊心もなければ自己卑下もないニュートラルな精神状態に置くことでネガティブな感情から解放されるのだ。

3.自分が孤独な存在ではないことを再確認する
 人間が1人で生きているのではないことを深く理解できれば、自分1人だけの完璧主義は成立しないことも実感できる。そしてセルフコンパッションによってミスや失敗は、我々をより結びつけるものであり決して疎外されるものではないことが理解できるのだ。

4.常にパーフェクトにはいかないことを認める
 セルフコンパッションはある意味で自分が弱い人間であることを認めることもある。人間は常に全力で課題に向き合えるわけではなく、ミスもすれば怠惰で非生産的になる時もある。調子のいい時もあれば不調な時もあることを認めることで、不必要な自己批判や自責の念にとらわれることなく日々の任務に取り組むことができる。

5.信頼できる身近な人物から助言を仰ぐ
 課題や問題をすべてを自分で抱え込もうとするのが完璧主義者の落し穴と言えるだろう。何か判断に迷っていることがあれば信頼できる人物に助言を仰いでみれば、検討に値する知見や何らかのヒントが得られたりもする。信頼できる人物が身近にいなければ心理カウンセラーや心理セラピストに相談してみてもよいだろう。

 完璧主義者といえどロボットでもなければAIでもない人間であることを深く自覚し、人との繋がりの中で気負うことなく自己実現を目指すことに尽きるということだろうか。感じる必要のないプレッシャーに脅かされることなく日々の職務に勤しみたいものだ。

参考:「NCBI」、「PLOS ONE」、「Psychology Today」ほか

文=仲田しんじ

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