“良薬口苦し”積極的に摂りたい苦くてカラダに良い食べ物10選

サイエンス

 鼻にくるツンとした匂いや、ひと口食べてウッとなる苦い味や酸っぱさなどは、基本的にその食べ物が人体に危険であることを示している。危険な匂いや味を検知できるのは、人間が進化人類学的に身につけた能力だ。しかしその一方で、ビールやブラックコーヒーを好み、ゴーヤチャンプルーやセロリが好物だという人もいる。そしてこうした苦い食べ物の中には、きわめて健康に良いものがあるのは興味深い。

■積極的に摂りたい“苦い食べ物”10選

 健康と身体活動のパフォーマンス向上のために積極的に摂りたい“苦い食べ物”が10種ある。以下の通りだ。

1.ルッコラ(ロケット)
 アブラナ科キバナスズシロ属の1種であるルッコラ(ロケット)は、イタリア料理の普及と共に日本でも徐々に知られるようになったハーブ草である。苦味はあるがカルシウムやビタミンが豊富に含まれていて、サラダの食材として最適な葉物のひとつだ。肝臓の働き高めて胆汁の分泌を促して優れたデトックス効果をもたらし、免疫機能を向上させることでがんの予防に繋がる。

2.ゴーヤ(ツルレイシ)
 ゴーヤには抗菌効果のある化学物質が含まれており、血液の浄化と抗炎症作用の働きで免疫機能を向上させる。

3.コーヒー
 コーヒーは特に肝臓と大腸に対する高いデトックス効果を有する。コーヒーに含まれるテオフィリンとカフェインが胆汁の流れを良くし、血管を広げて血行を改善する。

4.タンポポの若葉(dandelion green)
 タンポポの若葉は茎もすべて食べられる。肝臓の働きを整え、血液をきれいにし、便秘や下痢を緩和する効果がある。腸内ガスの発生を抑え、高タンパクで減量をサポートする食材でもある。スムージーにしたり、おひたしにして賞味してもよさそうだ。

5.ディル(イノンド)
 ディルはセリ科のハーブでピクルスの香り付けによく使われる。天然の抗生物質とも言われ、含まれているカルボンという化学物質が胃のむかつきを緩和し、ガスの発生を抑え、食物の消化を助ける。

6.キクイモ
 キクイモは多糖類であるイヌリンを豊富に含んでおり、血糖値を制御し免疫機能を高める効果を発揮する。また鉄、マグネシウム、カリウムも多く含んでいる。

7.ケール
 アブラナ科の野菜であるケールには多くのビタミンと抗酸化物質、抗炎症化物質、カルシウムが含まれ“スーパーフード”の称号を与えられている。またケールの硫黄と水溶性繊維は優れたデトックス効果を発揮する。

8.サフラン
 クロッカスなどのめしべを乾燥させた香辛料がサフランである。料理にほんのわずかのサフランを加えるだけで、抗酸化作用が働き、血行を良好にする。アスリートの疲労回復と筋肉の炎症の緩和に優れている。

9.ゴマ全般
 古代エジプトにおいてゴマは医薬品であったとされ、また古代ローマではゴマとハチミツは兵士のエネルギー補給食品であったことからも、その栄養価の高さがうかがえる。カルシウムとマグネシウムを豊富に含んでおり、大腸を洗浄する働きもある。

10.ターメリック(ウコン)
 ウコンの地下茎を乾燥した香辛料であるターメリックは、二日酔いの防止効果がよく知られている。また食物の消化を助け、炎症を緩和する。運動の前に摂取すると、筋肉へのダメージが少なくなるということだ。

 まさに“良薬口苦し”を地で行く苦くてカラダに良いこれらの“スーパーフード”を知っておいて損はないだろう。

■人体にとって苦味は非常事態サイン

 人体にとって危険サインであるはずの“苦味”だが、どうしてこうも多くカラダに有益な苦い食べ物があるのか。またブラックコーヒーやビールなどの苦い飲料を好む人が少なからず存在しているのはどういうわけなのか? そこにはいろんな要素が複雑に絡みあった事情があるという。

 2018年10月にペンシルべニア大学の研究チームが発表した研究は、“苦味”を感じる受容体は人体の舌だけではなく、鼻や気道、心臓、肺、腸などにも存在していることに注目している。そして特に鼻から気道にかけての苦味受容体が、空気を介して侵入してくる細菌を“苦い”と感じて素早く検知し、すぐさま防御反応を引き起こすメカニズムを解明した。つまり人体にとって“苦味”は、侵入した敵に対するための非常事態サインなのである。

 具体的には鼻の苦味受容体が細菌の侵入を“苦味”によって検知すると、クシャミをして鼻先まで来た菌を追い出したり、抗菌性のあるタンパク質を分泌したりしてカラダが“スクランブル”状態になり菌の侵入に対処するのだ。

 苦味受容体が作動することでカラダの抗菌能力が高まるということは、あえて苦い物を食べたり飲んだりしてカラダを“抗菌仕様”にしようという目論みも考えられないことではない。このへんに“苦味”好きの秘密が隠されているのだろうか。

 ほかの説としては、苦い物が好きな人でもそればかり食べているわけではなく、むしろほかの好物をより美味しく食べるために、苦い飲み物を活用しているという説明もあるようだ。ちょっとした人数で居酒屋などへ行くとファーストオーダーで「とりあえず最初はビールで」となることも少なくなさそうだが、最初に苦いビールを飲むことで食欲が促されることが期待されるからこそ、“最初はビール”になるともいえる。

 生物としての生理反応においては危険のサインである“苦味”なのだが、あらゆる食材をさまざまな調理を加えて堪能する人間にとっては一筋縄ではいかない味であるようだ。

■“苦味好き=サイコパス説”に疑問の声

 実はブラックコーヒーやビール、あるいはジンやトニックなどを愛飲する“苦い物好き”は昨今、やや肩身の狭い思いをしている経緯がある。それは2015年に発表された研究で、ブラックコーヒーやビールなどの苦い物が好きな人は、功利主義的でナルシストでしかもサイコパスであるという指摘があったためだ。

 オーストリア・インスブルック大学が行なった500人もの人々の味覚の好みと性格特性を探った研究で、好みの味覚とその当人の性格的特性に関係がある可能性が浮き彫りになり、特に“苦味”好きと反社会的な性格特性に関連があることが示唆されることになったのだ。ブラックコーヒー好きなどにはかなり不都合な研究結果と言えるだろう。

 しかし昨年になって“苦味好き=サイコパス説”に疑問を投げかける声もあがりはじめている。主張によれば、苦い物が好きな人々にサイコパス傾向があるのではなく、サイコパス傾向のある人々にわずかながら苦い物を好む傾向が見られただけのことであるというものだ。つまり主従が逆転しているということである。

 そしてサイコパス特性を推し量るものとして味覚の好みを引き合いに出すのは適切ではなく、遺伝子解析などもっと別の相応しい判別法があると指摘している。

 性格的特性を味覚の好みでジャッジするというアイディアは興味深いのだが、やはり人間の性格的特性はそれなりに複雑な要素で形成されていて、これも一筋縄ではいかないということかもしれない。

参考:「ACTIVE」、「NCBI」、「Science Direct」ほか

文=仲田しんじ

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