自転車に乗って車道を走っている時、追い越してくる車がことのほか自分の近くを通り過ぎて思わずヒヤリとして経験はないだろうか。そんな思いをしないためにも自転車レーンがあればそこを通りたいものだが、はたして自転車レーンで本当に安全に走れるのか。
■自転車レーンを走行すると車が近づいてくる?
自転車専用通行帯、いわゆる自転車レーンはもちろん、サイクリストの安全を考えて導入されているのだが、なんとも皮肉なことに自転車レーンを走ると追い越しをかけてくる車のとの距離が縮まるという研究が報告されている。自転車レーンを走ったほうが危険性が増すのである。
オーストラリア・モナッシュ大学の研究チームが2019年4月に「Accident Analysis and Prevention」で発表した研究では、実験を通じて、路上で走行中の自転車と自動車の距離を分析している。
実験に参加した60人のサイクリストは、自転車のそばを通る自動車との距離を計測できる機器を取り付けた状態で、計422回に及ぶ走行を行なった。自動車に追い抜かれる際に記録した自動車との距離は総計1万8000キロにものぼっている。
データを分析してみると、追い越しのおよそ17回に1回が危険とされる100センチ以内の距離で行なわれていることが判明した。自転車を10キロメートル走らせると、平均1.7回の危険な追い越しを体験することになる。そしてさらに危険なことに、124のケースにおいて追い越し時の自動車と自転車の距離は60センチ以内であった。
ちなみにオーストラリアのほとんどの道路では、追い越し時には追い越す車両とのギャップを時速60以下では100センチ以上、時速60キロ以上では150センチ以上にすることが求められている。
そして興味深いことに、自転車レーンを走行時に追い抜かされる際の自動車との距離は、自転車レーンがない道路を走行中の時よりも平均で40センチ縮まっていることが突き止められたのだ。皮肉なことに自転車レーンを走っている自転車のほうがリスクに晒されているのである。
研究チームはドライバーは自転車レーンのない道では自転車を意識的に追い越しているのだが、自転車レーンがあるとドライバーはそれにある種安心して自転車にあまり注意を払わなくなるためであると説明している。もちろん車との距離の近さがそのまま事故率に比例するわけではないと思うが、自転車レーンについてこうしたリスクが潜んでいることはサイクリストとドライバーの双方にとって広く共有されなければならないだろう。
■自転車レーンの走行はやはり安全
自転車レーンの思わぬリスクが指摘されているのだが、別の研究ではこれに真っ向から反対する結果が報告されている。カナダの都市部の道路ではやはり自転車レーンがあったほうが安全であるというのだ。オーストラリアとカナダ、あるいは郊外と都市部では自転車レーンが持つ意味が違ってくるということになるのだろうか。
カナダ・ウォータールー大学の研究チームが2019年3月に「Accident Analysis & Prevention」で発表した研究では、センサーやカメラを装備した自転車で収集したデータを分析して、自転車レーンは安全性の向上に役立っていることを報告している。
自転車が走ったのはカナダのオンタリオ州南西部の都市・キッチナーからウォータールーまでの都市部の道路で、2レーンの道路もあれば4レーンの道路もあり、自転車レーンがある道路もあれば自転車レーンがない道路もあり、走行距離は合計して数100キロに及んだ。
研究チームはサイクリストが自動車に追い越される時の横方向の車間距離が100センチ以内を“危険”と定義してデータを分析したところ、自転車レーンが安全に寄与していることが突き止められたということだ。
具体的には2車線で自転車レーンがない道路の場合、危険な追い越しは12%で、自転車レーンがあるとなんと0.2%にまで減少した。一方で4車線で自転車レーンがない道路の場合、危険な追い越しは6%で、自転車レーンがあると0.5%にまで減少した。
「ドライバーはサイクリストを怖がらせようとしているわけでもなければ、思いやりに欠けているわけでもありません。多くの場合、道路の形状や他の車両との距離の兼ね合いで、じゅうぶんなスペースを空けることができないと感じているだけです」と研究を主導したブルース・ヘリンガ教授は語る。
ドライバーは自転車に近づこうとしているわけではなく、反対画の空間のことも考えて結果的に自転車に近づいてしまうケースがあるということになる。したがって自転車レーンが区分されていたほうが迷うことなく自転車を追い越せるということになるのかもしれない。カナダの都市部では自転車レーンが有効に機能しているようだ。
■シェアバイクで低まるヘルメット装着率
自転車レーンを過信することなく安全な走行を心がけたいものだが、万が一のためにはヘルメットの装着も軽視することはできない。そしてこの自転車ヘルメットについて、やや奇妙な研究が報告されている。
米・ワシントン大学の研究チームが2018年12月に「Journal of Community Health」で発表した研究では、シアトルではじまった乗り捨て式シェアバイク(free-floating bike sharing)で、何故かヘルメットの装着率が低いことが報告されている。シェアバイクのカゴにはヘルメットが備え付けられているのだが、シェアバイクのヘルメットの装着率は20%で、一方で一般のサイクリストのヘルメット装着率はこの地では90%にものぼっているのだ。
おそらくシェアバイクの利用者はまず第一に“お手軽”さに魅かれてシェアバイクを利用しているので、その“お手軽”さとヘルメット装着が結びつかないためではないかと考えられるという。つまりヘルメットを装着する行為は“お手軽”ではなくなってしまうのだ。
シェアバイクが普及した地域ほど、一般のサイクリストを含めてヘルメット装着率が低くなる傾向があることもこれまでの研究で報告されており、シアトルでもこのままシェアバイクが普及していくと、これまでの高かったヘルメット装着率が低くなる懸念も生まれてくる。
シェアバイク利用者のヘルメット装着率には地域差もあるようで、ニューヨークではさらに低く15%、ボストンでは高く39%、そしてカナダ・バンクーバーでは64%にも達しているという。
シェアバイクは近隣住人にとっても旅行者にとっても便利な移動ツールだが、その“お手軽”さに乗じて安全対策を怠ることがないようにしたいものだ。
参考:「Monash University」、「University of Waterloo」、「University of Washington」ほか
文=仲田しんじ
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