ハンバーガーやホットドッグ、スナック菓子などは高カロリー、低栄養の“ジャンクフード”であると見なされ昨今ますます風当たりが強くなっている。適量の範囲内であればまったく問題はないこれらのファストフードや菓子類だが、本人の自覚がないままに“ジャンクフード中毒”になっているケースも少なくないという。“ジャンクフード中毒”になっているのかどうか、心当たりのある向きはこの機会に自己診断してみてもよいのではないだろうか。
■“ジャンクフード中毒”自己診断7項目
ドラッグやニコチン、アルコールへの依存と比べると“ジャンクフード中毒”は本人が気づいていない可能性が高いということだ。そこで医師と科学者のチームがジャンクフード依存の7つの兆候を解説している。このうち3つ以上あてはまるものがあればアナタも立派な“ジャンクフード中毒”ということになる。はたして思い当たるフシがあるや否や……。
1.しばらく食べないと禁断症状がある
ジャンクフードにも生理学的な禁断症状があるのかどうか、科学的にはまだよくわかっていないという。しかし好きなジャンクフードメニューを頻繁に食べたくなるという人は少なくないだろう。マウスを使った実験では、砂糖に依存症状があることが確認されている。砂糖を多く使用したジャンクフードには中毒性の高いものがある可能性が高いということになる。
2.前回と同じ量では満足できなくなる
適量であれば特に問題はないジャンクフードだが、徐々に量が増えてきているとすれば“依存症”になってしまっている可能性が高い。薬物の中毒症状と同じく、脳内の報酬系システムに組み込まれてしまい、徐々に摂取量を増やさないことには満足できなくなってくるのだ。好きなメニューをいつの間にか大盛りや特盛りで食べるようになってはいないだろうか。
3.カラダに悪いと思いつつもやめられない
そのメニューがカラダに悪いことを自覚しており、場合によっては食べた後に体調を崩すことがあるにもかかわらず、懲りずにまた定期的に食べたくなるとすれば“依存症”になっている可能性が濃厚だ。つまり酷い二日酔いを何度も体験しているのにアルコールがやめられないのと同じ症状である。
4.食べはじめると止まらなくなる
スナック菓子など、はじめは全部食べるつもりはなくても、いざ食べはじめると止まらなくなり結局1袋空けてしまう場合も“中毒”が疑われる。その場に大量にあったり、すぐに手に入る環境では1袋どころでは済まなくなるかもしれない。
5.量、サイズを減らせない
空腹時なら「大盛り」は自然な欲求とも言えるが、あまりお腹がすいていないときでも「並盛り」が注文できなくなっているとすれば“依存症”の疑いが強い。飲んだ後の締めのラーメンなのに大盛りにしないと満足できなければてきめんにウエストサイズに反映してくるだろう。
6.食べ物が頭に浮かんでいる時間が長い
自由になる時間で中で、頭の中を食べ物が占めている割合が多いとすれば確かに問題だろう。最近のテレビではグルメを扱う番組がますます増えていることも、この現象を後押ししているかもしれない。無意識になんとなく考えているケースも多く当人にとっては気づき難いので根が深い問題でもある。
7.人づきあいの減少
食べ物が理由で人づきあいを敬遠する傾向があるとすれば深刻だ。飲み会や会食など、ある程度周囲のペースに合わせて飲食するのが憚られるのであれば、健康問題を越えた人生の問題になり得ると言っても決して大げさではないだろう。
以上、心当たりが3つ以上あるとすれば、この機会に食生活を考え直してもみてもよさそうだ。
■“満腹スイッチ”が効かなくなると過食に
何かと食欲をソソられてしまうジャンクフードの話題だが、ルーマニアやアメリカの一部の自治体では、砂糖入りの炭酸飲料やスナック菓子、ファストフード、揚げ物、脂肪分が高い肉の缶詰などに“ジャンクフード税”が課されるほど、社会における肥満の蔓延が大きな問題となっている。
しかし将来的にはこうした止むに止まれぬ食欲が薬でコントロールできる可能性が指摘されている。研究者たちはこの度、脳内に食欲をコントロールする“満腹スイッチ”を見つけ出したからだ。ジョンズ・ホプキンズ大学医学部の研究チームが2016年に科学誌「Science」で発表した研究によれば、マウスを使った実験で脳が満腹を感じるメカニズムが突き止められたという。その鍵を握るのは糖転移酵素(OGT)である。
人が満腹を感じるのは、必ずしも物理的に胃に食べ物が満たされるからではなく、食事の直後から上昇する血中ブドウ糖濃度が脳に働きかけ、あるレベルまでくると満腹感を引き起こすと考えられている。ここで重要な役割を担うとされているのが糖転移酵素(OGT)と呼ばれる酵素である。
糖転移酵素は人体の新陳代謝に大きく関与しているといわれ、ブドウ糖の化学誘導体をタンパク質に加えることで特定の脳神経細胞に働いて食欲をコントロールしていると考えられている。つまりこの糖転移酵素のおかげで、我々は満腹を感じて食べ過ぎを防止しているのだ。そして逆にもし、この酵素の働きが阻害された場合は満腹を感じ難くなり、極端な場合は物理的に胃袋が満杯になるまで食べ続けることができてしまう。実際にマウスを使った実験では、糖転移酵素の働きを意図的に妨害することでマウスの食欲に歯止めが効かなくなり、2週間で体重が2倍になっているのだ。
ということは、極端な過食によって肥満になっている人々は何らかの原因でこの糖転移酵素の作用が働かなくなっていると考えられるため、これを薬剤で化学的に“治療”する道も拓けてきたことになる。単純に食べ過ぎを防止するにとどまらず、新たな“ダイエット薬”としての役割も期待されているのだ。もし少し食べただけで満腹感が得られるなら、減量のための大きなアドバンテージになるだろう。今後のさらなる研究に期待したい。
■締めのラーメンが食べたくなるワケ
食欲の話題となれば、酒好きの間でしばしば議論を呼ぶのが(!?)“締めのラーメン”問題だ。居酒屋などでけっこういろいろ食べたのに“締めのラーメン”は別腹という向きも少なくないだろう。
どうしてお酒が入った後に“締め”が食べたくなるほどの食欲がわいてきてしまうのか? 以前の研究では、アルコールを摂取することで食べ物の風味に敏感になることがわかっている。つまり味覚と嗅覚が敏感になることで食欲も増してくると考えられていたのだが、最近になってこの現象を説明するさらに納得できるメカニズムがマウスの実験で解明されている。
英ロンドンのフランシスクリック研究所の研究チームはまず、一群のマウスの腹部にアルコールを注入することを3日間続けた。注入した1日の“酒量”を人間のレベルにスケールアップすれば、ワインをボトルで2本、ビールならジョッキ10杯というからかなりの深酒を3日間続けたことになる。
3日後、深酒を続けたマウスの食事量を検分してみると、25%もカロリー摂取量が増えていることが判明した。つまり酒を飲ませると食欲が旺盛になるということだ。アルコールが脳内の特定のタンパク質(アグーチ関連タンパク質、AgRP)を活発にしていると考えられ、このタンパク質が活性化されると食欲のコントロールが効かなくなると見なされている。
マウスの実験で判明したこのメカニズムがそのまま人間に適用されるのかは科学的にはまだクリアにはなっていないが、研究チームによれば人間の脳内でもこのプロセスが働いていることがじゅうぶんに考えられるということだ。そしてこのメカニズムがわかったということは、アルコールとアグーチ関連タンパク質が結びつかないようにすることで、食欲を抑制できることにもなる。つまりここでもまた、食欲をコントロールできる新たな薬剤が将来的には開発可能になる。
もちろんあまり薬に頼ることなく食生活を送りたいものだが、アルコールを楽しんだ後には食欲のコントロールが効かなくなることを常に気に留めておくだけでも、食べ過ぎの防止に一役買うのではないだろうか。
参考:「Elite Daily」、「Science」、「Science Alert」ほか
文=仲田しんじ
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