自己愛人間は自分の姿に葛藤していた!? 自撮りSNS全盛時代に知っておきたいナルシスト研究最前線

サイコロジー

 しょっちゅう自分の姿を見て確認している人々がいる。メイクをした女性ならともかく、それが男性だった場合、思い浮かぶ言葉はただひとつ――そう、ナルシスト(ナルシシスト)だ。

■ナルシスト男性は自分の姿に葛藤している?

 トイレの洗面台などで鏡を熱心に見ている男性を時折見かけるが、いったいどんな気持ちで自分の姿を眺めているのだろうか。自分の姿に見惚れている“ナルシスト”という言葉がやはり思い浮かんでしまうのだが、意外にその心の内は複雑であることが最新の研究で指摘されている。

 オーストリア・グラーツ大学の研究チームは、ナルシシスト度を測定するテスト(Narcissistic Personality Test)を受けた600人の中から、ナルシスト度が高いと判定された上位21人、同じく最も低かった下位22人に実験に参加してもらった。

 実験参加者は、脳活動をfMRIでモニターされた状態で、3種類の写真を見せられてその時の脳の活動状態が詳しく記録された。3種類の写真とは、参加者本人の写真、参加者の友人の写真、見知らぬ人の写真である。

 ナルシストの男性の脳活動に注目が集まるのだが、分析の結果、意外なことに自分の写真を見た時のナルシスト男性の脳には、ネガティブな感情や心の葛藤を示す活動が引き起こされていることがわかったのだ。実は自分の姿に複雑な思いを感じていることになる。こうしたことから、ナルシストはおそらく潜在意識レベルでは自身のネガティブな評価に苛まれている可能性が示唆されることになった。

 これはナルシストたちの自己イメージにおいて、良くもあれば悪くもあるという両義性と葛藤を意味しているのだと研究チームのエマニュエル・ヤウク氏は説明している。

 さらに興味深いのは、自分の姿を見たときの心の葛藤は男性のナルシストにしか起っていない点である。とすればやはりナルシストの男性は独特の存在ということにもなりそうだ。まだまだサンプル数が少ない初歩的な研究ではあるが、SNS全盛の時代を迎えている中、ナルシシズムへの関心と理解が広く求められているようだ。

■男女関係を“修羅場”にする脆弱ナルシスト

 もちろんイメージ通りの分かりやすい“自画自賛型”のナルシストも存在している。学術研究レベルの話では、こうした自画自賛型ナルシストを尊大ナルシスト(grandiose narcissists)、先の例にように自分の姿に葛藤を抱えるナルシストを脆弱ナルシスト(vulnerable narcissists)と呼んで2つに分類している。そしてこの脆弱ナルシストが周囲にとって実に厄介な存在であることが最近の研究で報告されている。

 米・アラバマ大学の心理学者であるグレゴリー・トートリエロ氏がこの夏に心理学系ジャーナル「Personality and Individual Differences」で発表した研究では、尊大ナルシストも脆弱ナルシストのどちらも、パートナーに“嫉妬”を起させるための言動を意図的に行なっていることが指摘されている。いったいどういうことなのか。

 ご他聞に漏れず不倫や浮気はパートナー同士の間に常につきまとうリスクだが、そうした行動に出る真意は実は一筋縄ではいかないようだ。トートリエロ氏らの研究チームは、以前の研究でナルシストが第3者の人物と親密な行動をとることで、パートナー間の関係にしばしば故意に一時的な危機を呼び込んでいるとする報告に興味をそそられていたという。

 研究ではこれらのパートナー間の関係を危険に晒す行動は衝動的であり、ナルシストは自分自身でこれを止めることができないことを理論化している。つまり常に男女関係に“修羅場”を求める人々のことである。そしてトートリエロ氏は、こうした人々の問題行動にはもっと深いメカニズムがあるのではないかと考えたのだ。

 研究チームは237人の大学生に彼らの人格特性、パートナーを故意に嫉妬させる行動、およびそれらの行動の動機に関する詳しいアンケート調査を行なった。

 回答を分析した結果、ナルシシスト度の高い人物ほど、パートナーを嫉妬させようとする行動に出る可能性が高いことがわかった。そしてこれはパートナー間の結びつきを強化する目的で、故意に行なわれていることも判明した。つまりナルシストはパートナーに対して“恋の駆け引き”を定期的に行なっているのである。そして前述した尊大ナルシストと脆弱ナルシストとでは、その“恋の駆け引き”の模様がかなり違うのだ。

 尊大ナルシストの場合は、パートナーに対して自分が主導権を握ることが“恋の駆け引き”を行なう動機であるということで、ある意味ではわかりやすい。しかし一方で脆弱ナルシストは“恋の駆け引き”を複数の理由で行なっていることが示されることになった。

 主導権を握ることも動機のひとつではあるのだが、そのほかにも相手の愛情と信頼を確かめるためであったり、実は意外に低い当人の自尊心を埋め合わせるためや、かつてパートナーから嫉妬させられた経験の報復であったりと、なかなか複雑で厄介なものであるのだ。

 こうした“恋の駆け引き”をある意味で楽しめるパートナーであればつき合っていけるのだろうが、安定した交際や結婚生活を求める向きにとっては、こうした脆弱ナルシストとの関係はまさしく“修羅場”になるだろう。パートナー候補になる人物については、早い時点でこうした傾向があるのかどうを把握する必要があるのかもしれない。

■ナルシストは不倫と“レイプ神話”を認めている?

 ナルシストがパートナーに対して“恋の駆け引き”をするということは、本人にとって不倫や浮気がそれほど罪悪感を生じさせるものではないのだろうか。

 また、いわゆるレイプにまつわる見解として根強いのが「レイプされた側に不手際があった」という“神話”がある。男性に対して挑発的な格好をしていたり、女性のほうから性的関係を求めるサインを発していたのではないかという見解だ。しかしこれは被害者からすれば濡れ衣以外の何物でもない“レイプ神話”である。

 そしてこうした“レイプ神話”や不倫を、それほど抵抗なく受け入れているのがナルシストであるということが新たな研究で報告されている。

 米・アーカンソー大学マラキ・ウィリス氏をはじめとする研究チームは、308人の大学生に不倫やレイプの被害者についてどのような見解を抱くのかを詳しく調査している。この調査に加えて実験参加者はサイコパス度とナルシスト度を計測するテストを受けた。

 ウィリス氏の研究チームは、不倫を許容することは“レイプ神話”の許容と関連していることを発見した。「不貞は誰にも危害を及ぼすことはない」などの見解に同意した学生は、「性的関係を優先する女性はレイプに不平を言うべきではない」という解釈などに同意する可能性が高かったのだ。

「レイプ犠牲者に対する否定的な態度は、当人の性的関係における不倫の許容度に関連している」とウィリス氏は説明する。つまりサイコパス度やナルシスト度が高い者は、不倫をある程度許容できるマインドセットを持っていることになる。そしてレイプ被害者にも同情することはなく自己責任であるという立場をとる傾向があるのだ。

統合失調傾向とナルシズム傾向の高さは、一連の否定的な性的態度として現れることがあります。具体的には、自己中心的であり自分が特別な人間であるという感覚を持っている者は、不倫と“レイプ神話”を許容する可能性が高いとウィリス氏は説明している。

 ナルシストと“レイプ神話”の許容に関係があることが指摘されることになったが、これについては伝統的なステレオタイプのジェンダー観が影響している側面もあり、個人の性格的特性を越えた文化的な側面もあるということでさらなる研究が求められている。しかしながらSNS全盛時代にあって接触の可能性が高まるナルシストたちの特徴と傾向を把握する上で、こうした研究は興味深いと言えるだろう。

参考:「Scientific Reports」、「ScienceDirect」、「ScienceDirect」ほか

文=仲田しんじ

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