現代のコミュニケーションに欠かせなくなったともいえるSNSだが、SNSにまつわるトラブルや事件は絶えない。そして今、ソーシャルメディアの危険性が改めて指摘されている。
■「SNSが人間関係にもたらす影響が徐々にわかりつつある」
フェイスブックの副社長で創成期のユーザー獲得に多大な貢献をしてきたチャマス・パリハピティヤ氏が一転、「SNSのツールが社会をバラバラに分断している」とフェイスブックをはじめとするSNSの危険性に警鐘を鳴らしている。
このパリハピティヤ氏の発言は2016年11月にスタンフォード大学経営大学院で行われたトークセッションで飛び出したもので、フェイスブックの元副社長によるSNS批判ということで大きな物議を醸し、フェイスブック社も急遽公式にコメントするなどして広く世間を賑わせた。
パリハピティヤ氏の発言には否定的な声も少なくなかったのだが、アカデミズムの側からはかなり強力な“援護射撃”が相次いで放たれているようだ。米・ペンシルベニア州立大学の社会心理学者であるリズベス・キム氏はパリハピティヤ氏が今日のきわめて現実的な問題に言及していると指摘している。
「私はパリハピティヤ氏がSNSと即効性のある充足感に関するとても現実的な問題を指摘していると思います。彼のメッセージは私たちがしばしば意図的に無視するかもしれない全体像の一部分なのです」(リズベス・キム氏)
SNSは人々の結びつきを強める一方で、イジメや各種のハラスメント、そして時には犯罪の道具にもなることが今日ますます問題視されている。キム氏は、今日のSNSが誰のメッセージでも取り込んで影響力を増幅し、信用を与えていることに強く警戒しているのだ。こうした性質をもつSNSは小規模なサイバー攻撃からより広範なネガティブキャンペーンまで、あらゆる工作の有効なツールになる。
SNSで流通する情報の不確かさを実証するために、キム氏はオンライン掲示板に性差別的な発言(sexist comment)で“炎上”している架空のスレッドを作ってユーザーの発言と反応を分析した。
分析の結果、炎上の元になった発言が男性か女性かでユーザーの反応がかなり違うものになっていたのだ。元の発言が女性であった場合は本当の話であると信じられやすく、そのぶん強い憤りを感じるユーザーが多かったのである。情報の信ぴょう性もさることながら、人物に対するイメージによっても受け手の印象はいとも簡単にコロコロ変わってしまうのだ。
「SNSが現代の対人関係に及ぼす影響について単純に非難することは困難です。しかし時を経るごとに研究も進み、SNSが人間関係にもたらすプラスとマイナスの影響がおぼろげながらにわかりつつあります」(リズベス・キム氏)
今やすっかり社会に普及しているSNSだが、それでもまだ最近の新しい現象であり、今後社会に思いがけない影響を与える可能性が残されていることを再確認したいところだ。
■“スマホ中毒”の若者の脳に変化
先進各国では今や平均10歳でスマホを手にして活用しているといわれており、ゲームアプリを楽しんだり“SNSデビュー”する年齢もどんどん若年化している。若年層においてもオンラインで過ごす時間がますます増えているのだが、そこで気になるのは健康と脳への影響だ。
韓国・高麗大学校の研究チームが2017年に発表した研究では、“スマホ中毒”の10代の青少年はなんと脳に変化が起っていることが指摘されている。その結果、うつや不安障害に苛まれるリスクが高くなっているというのである。
研究チームは19人の“スマホ中毒(ネット中毒)”の10代の若者と、そうした症状のない10代の若者19人の性格的特性とメンタルの状態を測定し、加えてスキャニング機器による脳活動のモニターによってその違いを分析している。収集したデータを分析した結果、スマホ中毒度の高い若者ほどうつ、不安障害、不眠症の程度が重度であることが浮き彫りになったのだ。
スキャナーによる脳活動のモニターにおいては一般的にGABA(ギャバ)と呼ばれる脳内神経伝達物質「γ-アミノ酪酸(4-アミノ酪酸)」の分泌が増えていることが判明した。このGABAは平常時においては脳内の過度な電気的信号の発生を抑制して精神的な落ち着きに導く働きがあるのだが、分泌が多過ぎればうつや不安障害を招くといわれている。
つまり今回の研究で、スマホ(ネット)に過度に依存することでGABAの分泌が増えることが示唆され、それによってメンタルヘルスのリスクが高まることが指摘されることになった。スマホ中毒で脳が変化するのである。
とはいっても暗い話題ばかりではない。スマホ中毒の若者は、9週間の認知行動療法(cognitive behavioural therapy)でGABAの分泌量が正常に近づいたこともまた確認された。
人々のスマホ依存、ネット依存は着実に進んでおり、ある調査によれば72%の人々がトイレの時間にスマホでメールやメッセージを確認していて、62%がWi-Fiが無い環境で不安を感じるということだ。若年層を含み全年齢で進行するスマホ依存、ネット依存だが、脳が変化するとすれば今後ますます問題視されてくるのかもしれない。
■スマホ中毒にならないための9つの心がけ
スマホ中毒、ネット中毒、SNS中毒に陥ることは何としてでも避けなければならない。そこで経営アナリストのイブラハム・フサイン氏が“SNS中毒”の傾向を自覚した人々に向けて、そこから抜け出すための9つの心がけを紹介している。
1.ネットに繋がっていた時間を確認する
まずは1日の間にどれくらいネットに繋がっているのかを正確に割り出してその数字に正面から向き合うことが求められる。本来の要件や業務以外での接続時間を明らかにして危機意識を持つのだ。自宅などでネットに接続するときはタイマーをセットするなどして時間を制限してみてもよい。
2.電話(音声通話)を増やす
プライベートの用件では音声通話の機会を意図的に増やすことを心がけてみる。ビジネスにおいては先方の事情を配慮しなければならないが、大丈夫そうな相手を見極めて電話連絡を“復活”させてみてもよい。
3.時間が空いたら外に出る
自由になる時間ができたらとりあえず外出してみる。スマホは手放せないかもしれないが歩きスマホは御法度だ。
4.オンライン上の人間関係を“リストラ”する
関わっているオンライン上のコミュニティを大胆に削減してみる。これは“リストラ”作業であると共に“離脱”の試みでもある。
5.実益面を重視する
冷淡な言い方にもなるが実益が見込めないオンライン上の関係は整理していくことが重要だ。目的が曖昧なまま“繋がって”いてもそのぶん時間は失われる。
6.優先順位をはっきりつける
オンラインの活動では優先順位をはっきりつけて、時間がない場合は下位の物事に関わらないことを習慣づける。
7.先延ばししない
メッセージやメールはリアルタイムで確認できてしまうが、今現在行なっている課題をまずいったん終わらせることを基本原則にしたい。
8.アプリを“リストラ”する
必要だと思ったからこそインストールした数々のアプリだが、現状ではほとんど使っていなくて今後も使う見込みのないアプリも少なくないだろう。こうした不要なアプリは折をみてどんどん“リストラ”したい。
9.家族・友人と過ごす時間を増やす
やはり“リアル”な交流に費やす時間を務めて長くすることを心がけるしかない。“きりがない”オンラインの交流は時間を取られる一方である。
SNSの急激な普及でオンライン上の交流がもはや普通の人間関係になれば、虚飾のない“リアル”な人間関係がもう一度望まれてくるのだろう。オンラインに傾き過ぎた人的交流を考え直す機会にしてみたい。
参考:「Futurism」、「Live Science」、「Lifehack」ほか
文=仲田しんじ
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