いわゆる“中年太り”はある程度は仕方のないものだと考えられているが、太り方のペースを遅らせられればそれに越したことはない。最近の研究では意外なことにナッツ類の食習慣で中年太りが防げることが報告されている。
■ナッツの食習慣で中年太りリスクが低下
アーモンドやクルミなどのナッツ類は不飽和脂肪酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富で栄養価に優れているが、総じてカロリーは高く一般的には減量に向く食材であるとは見なされてはこなかった。
米・ハーバード大学の研究チームが2019年9月に「BMJ Nutrition, Prevention & Health」で発表した研究では、30万人もの人々の健康データを20年以上にもわたって追跡調査し、ナッツ類の食習慣と体重の関係を探っている。
研究チームの分析によれば、1日14グラムのナッツの食習慣で、4年間で2キロ以上増量する中年太りのリスクが低下することが示された。また同量のクルミの食習慣でも肥満のリスクが15%低下している。
どうして高カロリーのナッツの食習慣で肥満リスクが低下するのか。研究チームによれば、ナッツの食習慣がいわゆる“ジャンクフード”と呼ばれる不健康な食品の摂取量を引き下げているのではないかと説明している。ご存じの通りナッツは咀嚼に時間がかかり、そのぶん少量でも満足感が得られやすい。ナッツを食べる習慣があれば、不健康なジャンクフードなどで小腹を満たすような必要がなくなるのである。
ナッツの食習慣に関するデータはすべて自己申告なので正確を期するにはさらなる研究が求められているが、ナッツと中年太りの関係に興味深い話題を提供してくれる研究であることは間違いないだろう。
また昨今、動物性タンパク質に代わる食材としてナッツが果たす役割にも注目が集まっている。肉食の割合を減らしその分ナッツ類を増やすことで、地球規模の環境保全に繋がることも期待されている。健康面からも環境面からもナッツに熱い視線が注がれているようだ。
■1日60グラムのナッツで男性の性生活が充実
1日14グラムといわず、どうせなら1日60グラムのナッツの食習慣を持つとどうなるのか。最近の研究では、1日60グラムのナッツで男性のセックスライフが充実することが報告されている。
スペインのロビラ・イ・ヴィルギリ大学の研究チームが2019年7月に「Nutrients」で発表した研究では、ナッツの食習慣と男性の生殖機能の関係を探っている。
実験に参加した83人の健康な成人男性は2グループに分けられ、一方にはこれまで通りの欧米的食事を続けてもらい、もう一方には食事に加えて1日60グラムのナッツ(クルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンド)を摂取してもらい14週間が経過した時点で性機能に関する学術的アンケートに回答した。
収集したデータを分析した結果、あまり健康的ではない欧米的食事であっても、そこに60グラムのナッツを加えると、性的欲求とオーガズムの質を改善できることが示されることになった。ナッツの食習慣で性生活の満足度が向上するのである。
男性の勃起不全および性機能障害は今日さらに広がりを見せていて、40歳未満の男性の2%、40~70歳の男性の約52%、80歳以上の男性の85%以上に影響を及ぼすと考えられている。関連する危険因子としては、喫煙、過剰なアルコール摂取、運動不足、ストレス、不健康な食事が主なものだ。
しかしナッツの食習慣を加えることができれば、充実したセックスライフを長く続けられる可能性が高まるということになる。性生活の面からもナッツの持つパワーが注目されているようだ。
■ナッツは高齢者の認知機能低下を防止
肥満防止や男性の性機能の維持向上だけでなく、ナッツは脳にも良いことが最近の研究で報告されている。1日10グラムのナッツの食習慣で高齢者の認知機能が維持されるという。
豪・南オーストラリア大学とカタール・カタール大学の研究チームが2019年2月に「The journal of nutrition, health & aging」で発表した研究では、55歳以上の中国人4822人の食生活と健康データを分析し、1日10グラム以上のナッツ(主にピーナッツ)の食習慣が、良好な認知機能と有意な関係があることを報告している。
「1日あたり10グラム以上のナッツを食べることで、高齢者はナッツを食べていない人と比較して認知機能を最大60%改善できます」と研究チームのミン・リー氏は語る。
ご存じのように社会の高齢化は、21世紀で最も大きな課題の1つであり、人々が長生きするだけでなく、加齢に伴い、追加の健康支援が必要になり、高齢者ケアと医療サービスに前例のない負担がかかる。特に中国では社会が急速に高齢化しているため今後さらに大きな問題になる。
中国でもピーナッツはよく食べられているが、中国健康栄養調査(China Health and Nutrition Survey、CHNS)によれば、ナッツ類を常食しているのは国民の17%にとどまるという。加齢に伴う認知機能低下の決定的な防止法はないものの、食生活の改善によって緩和できることを研究チームは広く訴え、ピーナッツの食習慣を推奨している。
世界的な社会の高齢化が進む中、“健康寿命”を伸ばすためにもナッツの食習慣で生まれるメリットをじゅうぶんに活用したいものだ。
参考:「BMJ Journals」、「MDPI」、「Springer」ほか
文=仲田しんじ
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