日本ではなかなか食べられない肉料理も案外多く、そのひとつにアメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィアのソウルフードと呼ばれる“チーズステーキ”がある。
■1930年代に考案された“チーズステーキ”
フィラデルフィアが発祥の地であり、地名をそのまま冠にした「フィラデルフィアチーズステーキ」、あるは短縮形の「フィリーチーズステーキ (Philly cheesesteak)」とも呼ばれているチーズステーキは、アメリカ料理では珍しい薄切り肉のステーキをロールパンに挟み、溶けたチーズをかけたサンドイッチタイプのファストフードである。
牛肉にチーズという、見るからにカロリーが高そうな組み合わせでいかにもアメリカ人が好みそうなこのチーズステーキだが、The New York Times」などによれば1930年代にこのフィラデルフィアの地で考案されて人気を博し今に至るファストフードである。創業者のパット・オリヴィエリが開いたチーズステーキ専門レストラン「パッツ・キング・オブ・ステーキ(pat’s king of steaks)」は、今現在もチーズステーキ店を代表するレストランとして人気を集めている。
チーズステーキの発端となったアイディアは、安いものを美味しく手軽に食べるというファストフードに共通のテーマであったようだ。フィラデルフィアの街角でホットドッグを売っていたオリヴィエリエ兄弟はある日、違うメニューを考案することを思い立ち、安いステーキ肉を薄く細かい肉片にして、細かく切ったタマネギと一緒に焼いてみたのだった。焼きあがった肉片とタマネギをパンに挟んで「ステーキサンドイッチ」として売り出してみたところ、食欲をそそる匂いに引き寄せられたのか、タクシー運転手を中心にたちまち支持を得たのだった。
このステーキサンドイッチを主力にして、オリヴィエリエ兄弟のレストラン事業が発展していったのだが、一方で起こっていたピザ人気の影響で、ピザ用のソースやチーズをトッピングで加えるようになったところ、チーズのトッピングが大ヒットする。すぐにレギュラーメニューとしての「チーズステーキ」が生まれてオリジナルのステーキサンドイッチの人気を凌駕し、気づけばこちらが主役になったということらしい。
地元の歴史も感じさせてくれて、まさに郷土愛に満ちたソウルフードであるこのチーズステーキだが、最近では“町おこし”の目玉としても地元では積極的に押し出されているようだ。
■食品衛生管理が厳しいフィラデルフィアの外食店
2016年にフィラデルフィアの飲食店を舞台に予期せぬ“フードスキャンダル”が起り地元を騒がせている。市の保健局による抜き打ちの衛生検査が行なわれたのだ。
年明けの1月14日と24日に行なわれた事前通告なしの抜き打ち検査で、市内の200店のレストランと食料品店の衛生環境がチェックされた。その結果、チーズステーキの発案者が創業した最古参の名店である「パッツ・キング・オブ・ステーキ」で、11もの衛生管理違反が発覚したのだ。主な違反には、ナイフの不衛生、ネズミの糞の放置、製氷機の不衛生などが含まれているという。また今回の一斉抜き打ち検査で、地元の人気イタリア料理店「Di Bruno Bros」もいくつかの衛生管理違反を指摘されたということだ。
今回の衛生検査は抜き打ちであったものの、昨年11月にはパッツ・キング・オブ・ステーキから道路を隔てた向かいにあるライバル店「ジーノズ・ステーキ(Geno’s Steaks)」にも抜き打ち検査が入っている。同店は、調理場の手洗い所に従業員の手洗いを促す注意書きが無かった点などを指摘されている。ともあれこの程度のこと(!?)でもニュースになるとは、同市の食品衛生に対する意識の高さを物語っていそうだ。
パッツ・キング・オブ・ステーキの衛生管理違反にしても、ネズミの糞は調理や食材に関係のない地下室で発見されたもので、製氷機の汚れについても、週一回の拭き掃除の直前であったためであるということだ。厳しすぎるといえなくもない市の厳重な衛生検査だが、もちろん消費者としては大きな安心となる。
フィラデルフィアといえば、映画『ロッキー』の撮影の舞台にもなったフィラデルフィア美術館などをはじめ観光名所も多い。そのうえ外食の衛生面にも管理が行き届いているのであれば、旅行客にとっては魅力的な滞在先になるだろう。機会があればフィラデルフィアで本場のチーズステーキを堪能してみるのもよさそうだ。
参考:「The New York Times」、「NJ.com」ほか
文=仲田しんじ
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