本心を悟られない表情を“ポーカーフェイス”というが、ポーカーに強い人は実際にポーカーフェイスに長け、加えて人を見抜く力に優れていることが最近の研究で報告されている。
■勝てるポーカープレイヤーの特徴とは?
ポーカーや麻雀などのゲームで勝つには確かな実力が求められるのはいうまでもないが、利益を上げることができる人物には、実力以上に重要な能力が備わっているという。それは決して真意を悟られない“ポーカーフェイス”と相手の本心を見抜く力、そして“演技力”である。
米・カリフォルニア大学デービス校の研究チームが2018年6月に認知科学系学術ジャーナル「Cognitive Science」で発表した研究では、3万5000人ものプレイヤーが3週間にわたってプレイしたポーカーを分析している。
この期間に負け込むことなく収益をあげられたプレイヤーは全体の10%から多くても15%までと見積もられるということだが、こうした勝てるプレイヤーにはある特徴があった。それは相手の言動を注意深く観察しているという点だ。しかもそれをなるべく気づかれずに行なっているのである。
成功しているポーカープレイヤーは自分の手の内をどれくらい見せて、相手の言動からどれほどの情報を引き出せるのかを常に天秤にかけながらプレイを行なっているという。したがってなんらかの独自のプレイスタイルがあるわけではなく、相手の出方によって柔軟に出方を変えているのである。
研究の対象になったポーカーはアメリカで最もポピュラーなテキサス・ホールデムと呼ばれるポーカーで、ゲームにおいて“ブラフ(bluffing)”という騙し合いの駆け引きが重要な役割を占めている。
手札の役を作るあたってあらゆる可能性を確率論的に考えていくことももちろん重要だが、特にテキサス・ホールデムはプレイヤー同士の駆け引きという“心理戦”が占める割合が高い。したがってプレイヤーには相手の言動からその真意を見抜く目と、こちらの本心を悟られないポーカーフェイス、そして相手を欺くための“演技力”必要とされてくるのである。
もちろん人を欺くのはゲームの中だけにすべきだが、常に敏感に情報を収集して自分の手持ちの札の可能性を探るポーカープレイヤーの戦術から学ぶことは多いのかもしれない。
■社会的成功においてIQよりも重要なものとは?
課題に取り組むにあたっては築き上げた自分のスタイルで行なうようりも、その都度周囲の状況を見ながら柔軟に対処することの重要性が指摘されているわけだが、社会的成功においてもまた柔軟にその都度新しいことを学びながら取り組むことで成果があげられることが示されている。そしてこの姿勢はIQ(知能指数)よりも社会的成功に繋がる重要なファクターであるということだ。
米・スタンフォード大学の心理学者、キャロル・ドウェック教授は、その人の基本的な思考様式(マインドセット)が、固定型マインドセット(fixed mindset)なのか、それとも発展型マインドセット(growth mindset)なのか、そのどちらがより支配的であるのかによって、後の社会的成功を占えることを指摘している。
固定型マインドセットとは、自分のことは自分が一番知っていて変化することなく、今の生活が繰り返し連綿と続いていくという前提である。
この固定型マインドセットは物事がうまく回っているときはきわめて効率的なスタイルなのだが、新しいことに挑戦しなければならない時や、失敗を体験した時には問題となってくる。そもそも新しいことにチャレンジするようにはできていない思考様式であるので、前例のない体験に圧倒されてしまうのだ。
一方、発展型マインドセットはいつでも自分は努力によって向上できると確信しており、初めての取り組みに前向きに挑み、新たな学びの機会を得ることを歓迎するのである。そして失敗体験から教訓を学ぶことを貴重なことと考えている。
ビジネスの世界では成功する時よりも失敗のほうが多いかもしれない。ドウェック教授はこの失敗体験をどのように扱うのかが、人生の成功を占う重要な要素であると力説している。
「失敗は情報の宝庫です。我々は“失敗”とラベル付けしますが、それ以上の価値のあるものです」(キャロル・ドウェック教授)
毎日が同じことの繰り返しなのか、それとも新たな体験と学習に満ちた日々なのか、そのどちらにマインドをセットするかで、毎日の生活は大きく変わってきそうである。
■タトゥーにピアスの外科医はアウトではなかった
社会的成功にはIQ以上に重要な要素があることが指摘されているのだが、キャリアの上での成功に欠かせないのがプロとしての気概と実力に裏打ちされた自信、つまりプロフェッショナリズムだ。
プロフェッショナリズムには高いパフォーマンスのほかにも適切で相応しい身だしなみも含まれてくるのだが、どうやら最近は許容される外見にかなりの幅が生じてきているようだ。最新の研究では、タトゥーにピアスという外見の外科医に対し、患者の信頼と信用は失われていないことが報告されている。
米・セントルーク大学ヘルスネットワークの研究チームが2018年8月に「Emergency Medicine Journal」で発表した研究では、緊急医療センターの外科医に実際にフェイクのタトゥーとピアスをしてもらい患者の反応を見るというユニークな実験が行なわれている。
実験では9ヵ月の期間中にフェイクのタトゥーとピアスをした外科医を含む5人の外科医を、実際にこのセンターで治療を受けた924人の元患者に、能力、安心感、プロフェッショナリズム、話しやすさをそれぞれ評価してもらった。ちなみに対象者には調査の本当の目的(外科医の外見が評価に与える影響)は知らせずに、医療業務の向上のための調査であると伝えられた。
回答を集計した結果、タトゥーとピアスの有る無しは医師の評価に影響を与えていないことが判明した。またタトゥーとピアスとした時の医師と、していなかった場合の同一人物の間にも評価の違いはなかったのである。
中高年以上ではやはりタトゥーとピアスは評価が下がるのかとも思われたが、驚くべきことに50歳以下と以上の集計にほとんど違いはなく、加えて性別による違いも見られなかった。
「医師のタトゥーと顔面のピアスは、医師の能力、プロフェッショナリズム、または話しやすさに関する患者による評価のマイナス要因にはならなかった」と研究は結んでいる。
職種や企業風土により、外見や身だしなみにはさまざまレギュレーションが存在するが、大手コンビニや飲食店をはじめ徐々にアルバイトの“茶髪OK”が進んでいることなどもあり、許容される外見の範囲が着実に広がっていることが窺える話題だろう。
参考:「Wiley Online Library」、「World Economic Forum」、「BMJ Journals」ほか
文=仲田しんじ
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