ついつい夜更かししてしまうという人も少なくないと思うが、最新の研究から夜型人間に凶報が届けられている。夜型は寿命が短いというのだ。
■夜型人間は朝型人間よりも致死率が10%高まる
その人間が朝型か夜型かを決めるのは半分が遺伝的な体質で、もう半分は生活スタイルにあるといわれている。つまり夜型体質の人間にはかなり意識的な“努力”がなければ朝型の生活スタイルを保つことができない。
こうした“努力”がストレスになっているのか、最近の研究では夜型人間は朝型人間よりも致死率が高いことが報告されている。
英米合同研究チームが2018年4月に学術ジャーナル「Chronobiology International」で発表した研究では、イギリスの健康診断データベース「UK Biobank」から38歳から73歳の成人4万3000人以上の健康診断データを6年半にわたって追跡して分析している。そこで判明したのは、夜型人間は朝型人間よりも致死率が10%高いということだ。
これに追い討ちをかけるように、夜型人間のネガティブな傾向も浮き彫りになっている。夜型人間は朝型人間よりも肥満率が高く、循環器系疾患、消化器系疾患、精神疾患のいずれの疾患においてもリスクが高まるという。
原因はやはり夜型人間は朝型の勤務スタイルや生活スタイルに合わせようと無理をしていることにある。朝型の生活をキープできれば良いのだが、何かのきっかけで根の夜型がよみがえると、結果的に睡眠時間が短くなるなどしてストレスが増え徐々に健康が損なわれてくると考えられている。また睡眠不足では気分も落ち込み、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす。
一説によれば遺伝的な夜型は人口の4割を占めるともいわれ、これらの人々の多くは朝型になることを社会に強いられているのだ。この事実をもはや無視し続けることはできないと研究チームは指摘している。例えばフレックスタイムをドラスティックに導入するなど、より柔軟な働き方が選べる選択肢を用意するべく議論をはじめなければならないと研究者は呼びかけている。
■学校の始業時間を遅らせると生徒の睡眠時間が増える
こうした健康面を含めて、今日の社会では何かにつけて朝型人間のほうが有利なのだが、ある意味で行き過ぎた“朝型社会”を問題視する研究も発表されている。学校の始業開始時間を45分遅らせてみたところ、生徒たちの心身の健康状態が向上したケースが報告されているのだ。
教育熱心なシンガポールでは、子どもたちがなるべく長く学校で勉強できるように、始業時間が朝7時半と早い。そしてある調査ではシンガポールの子どもたちの平均睡眠時間は6時間半という短さである。
子どもたちの睡眠時間の短さが問題になっているのだが、もし学校の始業時間を遅らすと子どもたちの睡眠時間は増えるのだろうか。逆にそのぶん夜遅くまで勉強をして睡眠時間が減ったりはしないのか。この問題を検証するために、シンガポール国内のある中学校(女子校)で始業時間を45分遅らせ8時15分にする社会実験が行なわれている。
デュークNUS大学院医学部の研究チームは、対象となった7歳から10歳の女子生徒375人に対して、始業を遅らせてから1ヵ月後と9ヵ月後に睡眠事情と健康状態に関して詳細な調査を行なった。
結果は好ましいものになった。睡眠時間が1ヵ月後には平均して23.2分増加し、9ヵ月後にはさらに10分伸びて33分に増えたのだ。つまり始業を45分遅らせることで、生徒の平均睡眠時間を7時間以上にすることができることになる。
さらに生徒たちの自己診断による健康状態も大幅に向上した。日中に眠気や疲れを感じなくなり、以前よりも授業に集中できることも報告されている。
教育熱心なアジアの国々では“睡眠を削って”勉学に勤しむことが特に試験の前などでは当然と思われている風潮があるが、始業時間を遅らせることで睡眠時間を増やせるとすれば、生徒たちの健康に資することになり、じゅうぶんに検討に値する措置となるだろう。
■夜型人間は“勤勉”だった!?
朝型の側の人々の偏見のひとつに、夜型は怠惰であるというイメージがありそうだ。朝の“スタートダッシュ”が利かない夜型は生産性が低いという嫌疑が投げかけられているのである。
だが昨今の研究では、夜型が怠け者であるというのはまさに偏見であり、夜型のほうが生産性が高いばかりでなく起業家に向いているのだという見解もある。
2009年に発表された英・ロンドンスクールオブエコノミクスの研究では、ロンドンの80の高校と52の中学校から2万745人の生徒を対象に、睡眠習慣と知性の関係を探っている。それによれば、IQが高い生徒ほど夜型である傾向が顕著に浮き彫りになったのだ。
研究を主導した進化心理学者のサトシ・カナザワ氏によれば、夜型人間は“進化論的な新規性”であると解説している。つまり夜型はこれまでにはない人類の特性であり、現在の人類が進化の末に獲得した行動様式であるということだ。
またほかにも興味深い研究が報告されている。イメージに反して、夜型人間のほうが注意力・集中力が長続きしているというのである。
ベルギー・リエージュ大学のかつての研究では、極端な朝型人間16人と極端な夜型人間15人の脳活動を分析している。実験では、それぞれの生活リズムを保ったまま、起床から30分後の脳活動に加え、起床から10時間半後の脳活動を詳細にモニターして記録した。
収集したデータを分析したところ、起床30分後の脳活動の活発さは朝方も夜型もほとんど同じであったのだが、起床10時間半後の脳活動は明らかに夜型人間のほうが活発であることが判明したのだ。つまり夜型人間のほうが1日の中で頭脳が明晰な時間が長く“勤勉”でいられるということになる。夜型は怠惰ではないのだ。
こうした研究からも、いわゆる“9時5時”で設定された勤務などがもっと見直されてしかるべきであることになる。まさに「働き方改革」が目下の議題になっているが、ひょっとすると夜型人間への世の理解の乏しさが思わぬ経済損失を生み出している構造があるのかもしれない。
参考:「Taylor & Francis Online」、「Oxford University Press」、「Inc.」ほか
文=仲田しんじ
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