ネット環境がグローバルに整備されている昨今、職種によっては海外を含めてどこに住むかの自由度はますます高まっているといえるだろう。利便性を第一に住む場所を決めるのも賢明ではあるが、住む場所が健康に及ぼす影響も無視できないようだ。
■世界で最も貧しい睡眠事情である日本
学術誌「Science Advances」で米・ミシガン大学の研究チームが発表した報告が話題を呼んでいる。なんと日本人がシンガポール人と並んで最も睡眠時間が短い国民であることが指摘されたのだ。
同研究チームが開発し、2014年から無料で公開している時差ぼけを最小限にするためのiPhoneアプリ「Entrain」の利用ユーザー5400人から収集したデータを分析したところ、各国のお国柄が就寝時間と睡眠時間に大きく影響していることが浮き彫りになった。もちろん個人差はあるものの、国籍によって睡眠事情の大まかな傾向が判別できるのだ。
分析によればシンガポール人と日本人が最も睡眠時間が短く(7時間半弱)、概してアジア諸国の睡眠時間は欧米諸国よりも短いということだ。オーストラリア人が最も早く床に就き(約午後10時45分)、スペイン人が最も就寝時間が遅い(約午後11時45分)。
最も早起きなのは意外にも(!?)アメリカ人(約午前6時46分)だが、それでも8時間近い睡眠時間を確保している。逆に最も遅く起きるのはUAE人の約午前7時45分だ。概して眠りにつく時間が遅いほど、睡眠時間が短くなる傾向も判明している。定時で勤務している者にしてみれば床に就く時間が遅ければそれだけ睡眠時間を削ることになるだろう。
「大まかにいって、属している社会が睡眠パターンとその構成員(国民)の体内時計を支配しているといえます。就寝時間が遅いほど、睡眠時間が短くなる傾向もあります」と研究を主導したミシガン大学のダニエル・フォージャー教授は「Sunday Moring Herald」紙の取材に応えている。
そして研究では、睡眠に関しては太陽暦(グレゴリオ暦)の時間よりも習慣化した各人の睡眠パターンのほうが強く影響を及ぼしていることも分かったという。電車内でうたた寝をしている乗客が多い日本ならではの光景も、これで説明がつくということだろうか。
■平均寿命が最大25年違う地域による“健康格差”
話は睡眠時間だけでは終わらない。住む場所は“生死”の問題に関わっているというのである。
英・ダラム大学の公衆衛生調査の専門家、クレア・バンブラ教授の近著『Health Divides: Where You Live Can Kill You』が話題になっている。「住む場所はあなたを殺せる」という副題がショッキングだ。
本書の内容説明によれば、アメリカ人はフランス人やスウェーデン人よりも平均寿命が3年短く、同じイギリス内でもスコットランド人はイングランド人よりも平均寿命が2年短いという。またヨーロッパにおいて、貧しい地域の女性の平均寿命は富裕な地域の女性に比べて最大10年短くなる。そして世界規模で明らかになった地域による“健康格差”には、最大25年の平均寿命のギャップがあるということだ。
「健康格差」という言葉は最近日本でもよく聞かれるようになってきたが、バンブラ教授が先頃「Huffington Post」に寄稿した記事によればイギリス国内でも住む場所による健康格差にはかなりのギャップがあるという。
ケンジントンやチェルシーといった富裕層が多く住む地区ではやはり平均寿命は長く、グラスゴーやブラックプールというあまり裕福ではない地域では短い傾向にある。また全体的に北部(スコットランド、北アイルランド)は南部(イングランド、ウェールズ)にくらべて2年ほど平均寿命が短いということだ。
もちろん地域による「健康格差」は今にはじまった問題ではないのだが、イギリスにおいては1980年代のサッチャー政権によるネオリベラリズムよって福祉予算が縮小されたことにより、健康格差のギャップが広がったとバンブラ教授は解説している。
記事の中でバンブラ教授はもうひとつ興味深い指摘をしているのだが、それは戦争下においてはこの健康格差のギャプが縮まるということだ。第二次世界大戦終了後も、アメリカと共にイギリスも朝鮮戦争を戦い、その後アメリカは長いベトナム戦争へと突入したのだが、この1950年代から70年代初頭の間、イギリスでもアメリカでも社会保障費の拡大と完全雇用が実現し、健康格差をはじめとする貧富の格差は縮小していたということである。もちろん、だからといって戦争を望む術もないのではあるが。
個人の心がけ次第でこのような地域による健康格差をじゅうぶん克服できるとは思うが、転居などを考えている際には少しその地域の特性を知っておくことでいろいろな備えと心構えができるだろう。
■通勤時間を有意義にする秘訣7
利便性だけではなく住む場所について、いろいろと考慮に入れなければならないことがありそうだが、そうして選んだ住処が職場から遠くなってしまう場合もあり得る。あるいはすでにけっこうな通勤時間を費やしているという向きもあるだろう。そこで、何かと手持ち無沙汰な通勤時間をいかに消耗せず、有意義に過ごすかについてのアドバイスを心理学系情報サイト「Psychology Today」が行なっている。そのポイントは7つだ。
●車の相乗りを活用する
性格にもよりけりだが、通勤が心地良くないひとつの理由に孤独であることがあげられる。特に自動車通勤は何かと手持ち無沙汰な時間を過ごすことになる。そこで近所の同じ職場、同じ地域へ通勤する気のあう人々と情報をSNSなどで共有して2~4人程度が同じ車に相乗りして向かうということが考えられる。複数の人々とコミュケーションをとりながら通勤することで、単純に楽しく心労は大いに軽減される。また、個々にそれぞれが自動車通勤するよりも地域の環境に優しく、渋滞の緩和にも繋がる。
●通勤時間中に仕事を進める
通勤の時点で仕事がはじまっているのだと考える。公共交通機関を利用していることが前提になるが、つまり可能な限り通勤時間の段階から仕事をはじめるのだ。もちろん、日本の都市部などでは特にラッシュアワーの混雑が激しく、ノートPCを開くことすらできないケースも多いだろう。だが最近浸透しているフレックスタイム制を選択できる職場の場合、時間をズラして空いている電車やバスに乗れればノートPCやタブレット端末を使って仕事の準備を進めることができる。
●通勤時間を娯楽時間にしてしまう
スマホやタブレット端末が普及している今日にあっては、割り切って通勤時間を娯楽時間にしてしまう選択もあり得る。もちろんモバイル端末でなくとも、紙の書籍や新聞や雑誌でも構わない。また自動車通勤の場合は、車の中は絶好のカラオケの練習場所にもなる。
●通勤時間を運動の時間と考える
公共交通機関での通勤は、実は運動不足解消の格好の機会であることは疑問の余地はない。駅のエスカレーターやエレベーターを使わずに階段を使うことを心がけたり、車内でもなるべく座らずに吊革につかまってアイソメトリックスを行なったり、ストレッチ運動をしたりすることもできる。また1駅先の駅まで歩いたり、1駅前で降りたりして歩行距離を伸ばす習慣をつけてもよいだろう。自動車通勤の場合でも信号待ちで腕や肩、首のストレッチ運動などはじゅうぶんに行なえる。
●通勤ルートを考え直してみる
ほとんどの場合、通勤においては最短ルートを選ぶものだが、電車や道路が極端に混んでいる場合などは多少時間がかかったとしても通勤ルートを考え直してみる選択もある。乗り換えルートを変えたり、あるいは特急や急行などをあえて回避してみることでストレスの少ない通勤を実現できる可能性がある。
●“瞑想”の時間にする
通勤時間をあえてスマホ利用や読書などには充てずに、“瞑想”の時間にすることでさまざまな“気づき”を得ることができる。慌しい日常の中では、その日に体験した気になる出来事について深く考える時間がなかなか持てないのだが、その意味では通勤時間は格好の“再検証”の時間になる。
●感謝する!
交通手段が発達している現代文明に感謝する(!)。
……通勤時間をストレスに感じるか、そこに何か意義を見出せるのか、まさに考え方次第ということになる。これらの方策が必ずしも毎回できるとは限らないだろうが、いろいろと工夫次第で通勤時間をポジティブな充実した時間にすることができそうだ。
参考:「Sunday Moring Herald」、「Huffington Post」、「Psychology Today」ほか
文=仲田しんじ
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