“目ヂカラ”を消した穏やかな顔になる簡単な方法とは

サイコロジー

 スーパーマンや一部のウルトラマンは目からビーム光線を放つが、我々の多くはこうした非科学的な“目ヂカラ”の存在を心のどこかで信じていることが最新の研究で報告されている。

■我々は物理的な“目ヂカラ”を無意識に信じている?

 人間は目から“フォース”を発生させることができるのかどうかを742人に尋ねてみたところ、イエスと答えたのはわずか(?)5%であったという。しかしそうは言っても心のどこかで“目ヂカラ”の存在を漠然と信じている人はもっと多いかもしれない。

 この問題に科学的に取り組むべく、米・プリンストン大学の研究チームは157人の参加者にあるビジュアル課題に挑んでもらった。

 パソコンのディスプレイ上で出題される課題では、トイレットペーパーの芯のようなさまざな大きさと太さの紙管が表示された。紙管は垂直に立てられおり、画面の左側にはこの紙管を見つめている男性の横顔が描かれている。

 パソコンのキーボードの特定のキー(←、→)を押すと、この紙管は左右に僅かずつ傾くように設定されているのだが、参加者はさまざまな大きさの紙管について、倒れないと思われるギリギリのところまでキーを押して左右それぞれ傾けるように求められた。

 収集したデータを分析した結果、見つめている男性がいる左方向への傾きはわずかではあるが右方向への傾きよりも深くなっていることが突き止められた。見ている男性の顔に向かって紙管が若干深く傾けられていたということは、まるで目から放出された“フォース”に当たって支えられているような構図になるのだ。逆に右へ傾けるときはこの“フォース”に煽られて倒れやすくなっていると認識されていることにもなる。我々はどこかで漠然と“目ヂカラ”を信じていることが示唆されたのだ。

 そして面白いことに、男性の顔のイラストにアイマスクが着けられた状態では、この“目ヂカラ”は発生せず、左右の傾きの限界点はほぼ同じになった。またこの紙管が実はコンクリート製の重い円柱であると説明された時にも、“目ヂカラ”は無効になり左右の傾きはほほ同一になった。“目ヂカラ”はきわめて微弱なものであることになる。

 おそらく参加者の大半は“目ヂカラ”を自覚していないと思われるが、それでも意識の片隅のどこかで目から放たれる“フォース”を感じているということなのかもしれない。

■恐怖を与えない顔にする方法とは

 微弱なものであれ目から“フォース”が発せられている(と感じている)とすれば、直接目を合わせるアイコンタクトは実はかなり重大な意味を持つ行為となる。そして実際、これまでの研究でアイコンタクトは信頼のおけるコミュニケーションを醸成する一方で、脅威を感じる行為であることも報告されている。

 特に自閉症傾向のある人々にとっては視線を合わせることは困難を伴うのだが、最新の研究では興味深いことにこうしたアイコンタクトを恐れる人々にとって視線を合わせやすくなる方法が指摘されている。それは首をかしげることだ。

 我々が一対一のコミュニケーションをとる時、基本的に相手の顔の左側(相手にとっては顔の右側)を見ているといわれている。これは左注視バイアス(left gaze bias)と呼ばれ、人間の右脳が表情に関わる処理を行なっていることから、顔の右側(観察者にとって左側)により多くの感情が表れるからであるという。

 米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究チームがアイトラッキング技術を駆使した研究で導き出したのは、首をかしげて顔を斜めにすると左注視バイアスが消え去ることである。斜めになった顔からは脳は表情を読み取ることができなくなってしまうのだ。そして上の目バイアス(upper eye bias)という新たなバイアスが生じてくるという。

 首を左右どちらに傾けても、我々は上になったほうの目を凝視する傾向があり、しかもこの目とのアイコンタクトは自閉症傾向のある人も恐怖が和らぎ、近づきやすくなるということだ。つまり首をかしげると恐怖を与えない顔になるのである。

 確かに首をかしげていればどこなくユーモラスな雰囲気も漂い、場合によっては少し変な人に見られ、そのぶん警戒されなくなるのかもしれない。この上の目バイアスが最も効果的に働くのは頭を45度に傾けた時であるということだ。

 物腰柔らかく人に接してコミュニケーションを図りたいときなどには、この首をかしげてみるテクニックが有効に働くかもしれない。

■“体型”にまつわる根強い偏見

 我々は相手の顔、特に目から多くの情報を得ているわけだが、一方で相手の体型からも多くの印象を受け取っていることも最近の研究で明らかになっている。しかもそれは往々にして旧態依然とした安易な“偏見”がベースになっているというから厄介だ。

 米・ビラノバ大学やバルーク大学をはじめとする研究チームが2018年6月に消費者心理学系ジャーナル「Journal of Consumer Psychology」で発表した研究では、実験を通じて来店客の体型がショップ店員の勧める商品にどう影響を及ぼしているのかを探っている。

 郊外のショッピングモールで行なわれた実験では、身長150cm、体重46.3kgという小柄でスリムな女優に腕時計と香水を探しているという設定でショップを回ってもらったのだが、その半分の時間では義手や義足などをつけプロの手によって巧妙に肥満体型に変装した。

 各ショップの計37人の店員の言動を分析したところ、客の体型に関してあからさまな“偏見”を持っていることが明らかになった。肥満体型に変装した状態では、多くの店員はボリュームのある丸い腕統計と、丸っこいボトルの香水を勧めていたのである。一方、変装しない状態では薄い角ばった腕統計と細長い立方体の香水を勧めるはっきりした傾向が明らかになった。

 ほとんどの場合で店員はこうしたことを意識していないと思われるが、客の体型で勧める商品が違ってくるのである。そしてもちろん、客がそれらの勧められた商品を気に入るかどうかはまったく別問題だ。

 続くオンライン上での実験でも肥満体型の消費者は丸くボリュームのある商品が相応しいと多くは認識しており、また男性のケースにおいても同様であることが確かめられた。

 さらに肥満体型の客はよりフレンドリーであると店員に認識されていて、一方で痩身の客はフレンドリーではないと思い込んでいることも判明した。そして体型に関わらず、フレンドリーな客には丸くボリュームのある商品が勧められる傾向も見られた。

 まったくもってわかりやすい“偏見”だが、多くの場合、店員は無意識にこうした“差別”を行なっているということだ。こうした偏見に基づく商品の推奨は客の主観的な好みを反映するものではなく、場合によっては気分を害するケースもあるだろう。したがって店舗経営側にはこうした根強い“偏見”に自覚的になり、客の好みを真摯に聞き出してから商品を勧めることで売り上げを増やせる可能性があることにもなる。安易に人を“外見”で判断することがないようにしたいものだ。

参考:「PNAS」、「SAGE Journals」、「University of Texas at Austin」ほか

文=仲田しんじ

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