男性の“女性を見る目”はホンモノだった!? 頼りすぎてはいけない優れた脳の機能が次々発見される

サイエンス

 信じるべきか否か、仕事や人生の上で難しい判断を迫られるケースは決して少ないないだろう。客観的な判断材料がなかったり不足している状況下での判断に際しては、手っ取り早くコイントスや占いを活用する方法もないわけではない。しかし、いくら考えても無駄なことだとわかっていても、やはり自分の目と脳で判断したほうがよいという話題がここのところ続いているようだ。

■男性の“理想の女性像”が今も保守的な理由とは?

 異性の容姿に関する話題は男女問わず雑談の定番ネタだが、男性が女性を見る“鑑定力”は少しばかり優れているかもしれないというユニークな研究が発表されて話題になっている。

 西オーストラリア大学が行なった実験では、男子大学生100人以上に、2枚の女性の写真が一対になった17種類のカードを見せて、そのすべてのカードについて「どちらの女性が信頼できるか」を判断してもらったという。1枚のカードにプリントされている2人の女性は未婚、既婚問わず共に決まったパートナーがおり、一方は2度以上の不倫体験をもつ女性で、もう一方はまったく不倫したことがない“信頼に足る”女性であるということだ。

 はたして男性の“女性を見抜く目”はいかほどのものなのか……。並んだ2人の女性のうち、不倫体験のない女性を「信頼できる」として選んだ確率は、グループごとの実験で55~59%にのぼったという。男子大学生たちは6割近い確率で、女性をひと目見ただけで信頼に足るかどうかを判断できたことになる。

 55~59%の“正解率”は「統計学上は素晴らしい数字だが、一般的には月並みな確率ですね」と実験を主導した西オーストラリア大学のサマンサ・レイバース博士はオンラインメディア「Your Tango」の記事で言及している。しかし、写真だけの情報で6割に達するということは、実物を見て判断すればもっと“正解率”は高くなるのかもしれない。

 どうして男性はこのような“鑑識眼”を備えているのか? 研究者によればそれは進化の過程で男性が獲得してきた能力なのだという。自分の遺伝子を確実に子孫に伝えるために、男性は不倫をしない女性を見定めてパートナーに選ぶ鑑識眼を長い進化の過程で身につけてきたというのだ。逆に言えば、この鑑識眼を獲得できなかった男性は淘汰されてしまったということにもなるだろうか。

 抜きん出た容姿や器量を持ち合わせているようには見えなくとも、男性から絶大な支持を受ける女性は決して少なくないが、多くの男性の“お眼鏡”に適うということはやはり“貞淑さ”や“一途さ”を感じさせるものを持っていることになりそうだ。多くの男性の“理想の女性像”が今なお保守的であるのは、遺伝的な現象でもあったのだった……。

■脳は“罪と罰”を検証し判決を下す機能を持っている

 日本でも2009年から裁判員制度がはじまっているが、ほとんどが法律の門外漢である抽選で選ばれた裁判員が、はたして裁判で適切な判断を下すことができるのかどうかは、時折話題になる争点だ。しかし、特別に法律を勉強した者でなくとも、もともと脳は人が犯した罪を裁く能力を備えているというのだ。

 脳のこの驚くべき機能がわかったのは、経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation、TMS)という、磁気を用いて脳活動を調べる機器が高性能化し、信頼度が増したことによる。そして今回、英・ハーバード大学の心理学者、ジョシュア・バックホルツ博士がこのTMSを用いた研究で、罪を裁く能力が脳のDLPFC(dorsolateral prefrontal cortex、背外側前頭前野)にあることを突き止めたのだ。

「現代の裁判制度では、第三者を交えて審議する裁判員(陪審員)制度が主流になっていますが、与えるべき罰の重さと、犯した罪の重さを結びつけるものが、脳のどのような働きによるものなのか最近までわかっていませんでした。我々の研究は人間がどのような判決を下すのかについて、新たな知見をもたらすものになります」(ジョシュア・バックホルツ博士)

 罪を犯した者を裁定するうえで、裁く者は犯人がどの程度咎められるべきなのか、そして実際の犯行の結果がどの程度残虐なものであったのかを天秤にかけて考証しなければならない。その過程において脳のDLPFCはきわめて重要な位置にあるということだ。DLPFCは脳の別々の部分で認識される罪と罰の“重さ”を統合して比較考量し、判決を下す機能を持っていたのだ。

 実験ではある架空の犯罪者、ジョンの犯罪について、窃盗から殺人までの様々なケースの犯行の詳細、またジョンが正常な判断能力を備えていたというケースに加え、何者かによって反抗を強いられていたケースや、あるいは当人が統合失調症であったというような様々シナリオを用意した。そしてこれらのシナリオを裁判さながらに見せられて裁きを下すボランティアの実験参加者66人の頭部には、繰り返し電磁刺激を与えるrTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation、反復経頭蓋磁気刺激法) を装着したのだ。

 しかしながら実際は半数の33人のrTMSが実際に脳のDLPFCを刺激しており、一方の33人のrTMSは作動していない。もちろんこの事実は参加者には知らされずに、さまざまな犯罪が実際の法廷さながらに解説され、参加者にジョンの罪の重さをジャッジしてもらったのである。

 結果としては、rTMSの刺激によってDLPFCの活動を阻害された33人の参加者は、ジョンに与える刑罰が軽くなる傾向が見られたということだ。犯行が意図的ではあるものの、被害が軽微であった場合には特にDLPFCの活動を阻害された参加者のジャッジが軽くなるということだ。つまりこの実験によってDLPFCが、人の罪の重さを考量するうえで重要な働きをしていることが明らかになったのだ。特に法律を勉強しなくとも、誰もが“脳内裁判官”を持っていたのだ。

■メールチェックは仕事場に着いてからがいい

 我々の脳には“裁判官”のほかにも、一段階上の立場で仕事を管理する“監督”もいるというから興味深い。

 この“脳内監督”はRLPFC(rostrolateral prefrontal cortex、吻側外側前頭前皮質)と呼ばれる脳の一部分で、我々の仕事や生活面でのルーティーンワークを管理しているというのだ。しかも作業内容が変化すれば柔軟に対応し、作業をスムーズに行なえるように行動をパターン化するという優秀な現場監督なのである。

 例えば起床から出勤までの行動など、我々のパターン化した行動はひとつひとつ意識することなく半自動的に行なえてしまうものだが、これを可能にしているのがRLPFCの働きなのだ。RLPFCは何度か行なわれた特定の行動のパターンを強化し、本人があまり意識することなくスムーズに行なえるように身体に指示を与えているのだ。このRLPFCの機能のおかげで我々は、例えば車を運転しながら同乗者と会話することができるのである。

 また、一連の行動の内容が変化した際にも柔軟に対応し、新たに行動パターンを“上書き”して強化するという優れた機能があるのも卓越した点だ。例えば車の運転であれば、いったん運転に習熟していれば車両が変わってもすぐに対応できるのはこのRLPFCの働きなのだ。

 しかし逆に言えば、このRLPFCの働きを阻害するような要素が加わると、普段何事もなくこなしていることにミスが生じやすくなるという。米・ロードアイランド州のブラウン大学で行なわれた実験では、ここでも前出のTMS(transcranial magnetic stimulation、経頭蓋磁気刺激法)を駆使して、参加者の脳のRLPFCに刺激を与えて機能を阻害した状況で、事前に何度か繰り返して慣れてもらった単純作業をしてもらったという。その結果、やはりRLPFCの活動が邪魔されると、作業にミスが増えたのだ。

「この研究が明らかにしているのは、“監督”であるRLPFCの働きが妨害されることによって、作業においてミスを犯しやすくなることです。また当人の能力を超えた複雑な作業や、許容量を越えた作業量は“監督”に負荷をかけてミスを犯しやすくします」と、研究を主導したテレサ・デスローチャース博士は「Psychology Today」の取材に応えている。

 もちろん、RLPFCの働きは実験のように何も電磁的な刺激だけで妨害されるわけではなく、強い精神的ショックを伴う出来事など、例えば身近な人々の訃報などでも阻害されると考えられている。このことから、例えば朝の通勤で車を運転する前などにはメールチェックをしないほうがいいかもしれないということにもなる。それと共に、我々の中の優秀な“監督”にあまり頼り過ぎてはいけないことを時折自覚してみてもよさそうだ。

参考:「Your Tango」、「Science Daily」、「Psychology Today」ほか

文=仲田しんじ

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