少女マンガに登場する男性や、女性に人気の男性アイドルグループのメンバーなどはたいてい“女顔”である。女性は女性的な特徴を多く持った男性を好む傾向があるのだろうか?
■なぜ“女顔”の男性が好まれるのか
もちろん例外はあるものの、女性に人気の男性アイドルといえばおおむね女性っぽさを兼ね備えたキレイな顔立ちのビジュアルだ。この“女顔”の男性が好まれる傾向はもちろん海外の女性にも見られ“ジョニー・デップ効果”とも呼ばれている。
しかし現実の生活の中においては、必ずしも“女顔”の男性が特別モテているわけでないようにも思えるがいかがだろうか。そこでニュージーランド・オタゴ大学と米・カリフォルニア大学サンディエゴ校の合同研究チームは、顔の好みに関する実験を行なっている。
実験は学生81人(男子33人、女子48人)に110種類もの顔写真を見せて、そのひとつひとつについて魅力の度合いを評価してもらった。用意された顔写真の大半は、白人の男性と女性の顔をCG合成したもので、写真によって男性寄りの顔だったり、まったく“中性”だったり、あるいは女性寄りの顔だったりとさまざまな写真が評価の対象になった。
実験の結果、ある意味では予想通りというべきか、男性でも女性でも性差がはっきりと分かる顔のほうがより魅力的に感じられていることがわかった。やはり一般的には男らしい男性が好かれ、女らしい女性が好まれるということで、“中性”的な顔は魅力が低いと評価されたのだ。研究チームの説明によれば、ひと目で性別が判別できない顔にはネガティブな印象を抱きやすくなり、そのため低評価に繋がる傾向があるという。ではなぜ、少女マンガの登場人物や男性アイドルが“女顔”なのか?
その答えは続いて行なわれた実験にあるようだ。次は白人の男女の要素の他に、アジア人の男女という要素も加えて、CGで幾通りもの合成顔写真を作成し、実験参加者に魅力を評価してもらった。当然ながら、白人男女のケースよりもバラエティに富んだ写真が作成されたのだが、興味深いことに“中性”的な顔を低く評価する傾向が見られなくなったという。つまりこのケースでは男性の“女顔”もそれなりに好まれるようになったのだ。
これは男女についての“文化的固定観念”が、人種の要素が加わることで“文脈”が変化したためだと研究チームは説明している。つまり現実の世界では、文化的価値観に則った男らしい男性が高く評価されるのだが、例えば“少女マンガ”やアイドルというファンタジー世界へと“文脈”が変ることで、“女顔”の男性も好まれるということになる。
時代によっても好かれる顔のタイプが違ってくることはご存知の通りだが、状況や条件の変化でも我々の好みは案外簡単に変るものであったのだ。
■女性は潜在的にバイセクシュアル?
男らしいマッチョな外見の男性に惹かれる一方で、“女顔”の男性アイドルのファンにもなるという女性の好みは、男性から見ると何か矛盾しているようにも思えるのだが、そもそも女性にとっての魅力の感じ方が、男性とはまったく違うことを浮き彫りにした研究もこれまでにいくつか発表されている。
2004年に心理学者のメレディス・チヴァース氏らが行なった実験では、異性愛者の男女と同性愛者の男女に3本のアダルトビデオを見せて、その興奮度を測定するという興味深い検証が行なわれいる。その3本のアダルトビデオとは、男女が出演する作品、男性2人が出演する作品(ゲイビデオ)、そして女性2人が出演する作品(レズビデオ)だ。
その結果はおおむねご想像の通りなのだが、ストレート(異性愛者)の男性は男女の作品よりもむしろレズビデオのほうにより興奮していたという。ゲイ男性はやはり男性2人が出演するゲイビデオに最も性的興奮を引き起こした。
では女性のほうはどうだったのか。やはりレズの女性はレズビデオに最も興奮したことは想定内ではあるが、ストレートの女性は3本のアダルトビデオのどれもに同じくらい興奮していたのだ。ということは女性とは本来、バイセクシュアルの素質を持っているということなのだろうか。
研究者は、女性が潜在的にバイセクシュアルである可能性もじゅうぶんに考えられるとしている。いくつかの研究によれば、女性のバイセクシュアルの潜在性は進化論的に獲得してきた“能力”であるという。男性よりも共同体への依存度が高い女性は、夫が自分の子どもを積極的に育てるつもりがない場合、共同体の女性たちに子どもの面倒を見てもらうケースも多いため、夫よりもむしろ女性同士の関係のほうが歴史的に重要であったことからきているという。もちろんそれが女性同士の性愛関係に直結するものではないものの、同性愛に対して男性に比べればずっとハードルが低いものになっているということだ。
生存戦略的には、女性は肉体的外見的にも優秀で健康な子どもを産むために、生殖に適した時期において男らしい男性を好むようになるということである。したがって、女性の長い一生の中で“マッチョ”な男性が好ましく思える時期は実はとても短いということがこれまでの研究で指摘されている。ということは、“女顔”の男性に好意を感じるのは恋の季節ではない“平常時”の女性にとって自然なことなのかもしれない。
■連れ添う人物で魅力は変る
このように、好まれる顔は状況や条件によってかなり変ってくることがわかってきたのだが、顔の魅力を左右するもうひとつの重要な要素がある。それは誰と一緒にいるのかだ。
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイの研究チームが学術誌「Psychological Science」に発表した研究では顔の魅力を探る実験が紹介されている。
実験では参加者が大量の顔写真を1枚ずつ見せてその魅力を評価してもらうという形でビッグデータを収集した。人それぞれの好みの違いはあるにせよ、ビッグデータにより写真の人物の評価はある程度定まったのだが、次の実験ではある1枚の顔写真(顔写真A)の魅力を評価してもらう際に、その人物よりもやや評価が低い人物の写真を一緒に並べたのだ。
すると、顔写真Aは最初の評価よりも高い評価を受ける傾向が浮き彫りになった。つまり当人よりも少し魅力の低い人物と一緒にいることで、当人がより高い評価を受けるのである。この場合、一緒に並べられた魅力の低い人物が“引き立て役”になったといえる。自分を“実力以上に”魅力的に見せたいと思った場合、語弊はあるがちょっと地味な友人などと一緒にいることが有効な手段であるということになる。なかなか残酷な(!?)現実を突きつける研究結果となったが、このメカニズムに気づいている人は、特に女性には多いと思われるがいかがだろうか。
しかしこの現象はあくまでも同性の組み合わせで生じるものであり、カップルであれば逆の効果を引き起こすことも知られている。つまり魅力的な女性と一緒にいる男性はより魅力的に評価され、魅力的な男性と連れ添っている女性もまたより魅力的に見えるということだ。
アメリカの実業家で雑誌『PLAYBOY』の発刊者であるヒュー・ヘフナーは、いつも美女を引き連れ精悍で精力的な魅力溢れる人物を“演出”しているのだが、これにちなんで美女(美男)を従えて本人の魅力がアップすることは“ヒュー・ヘフナー効果”と呼ばれているようだ。
だが、逆もまた真なりということになればこれも同じく残酷な事態を招きかねない。つまりあまり魅力的でないパートナーを連れていると、その当人の魅力も過小評価されてしまう可能性もあるということになるからだ。
もちろん人目に写る自分の姿のことばかり考えてもきりがないが、単純な外見や身だしなみ以外にも、実にさまざまな理由で人に好かれたり嫌われたりしていることを時折思い返してみてもよいのかもしれない。
参考:「University of Otago」、「Psychology Today」、「Telegraph」ほか
文=仲田しんじ
コメント