選挙戦ではどんなに実力のある候補者でも、有権者へ有能さや頼もしさをうまくアピールできなければ戦いは難しいものになるだろう。自信に溢れた人物は時に鼻持ちならない印象を受けることもあるが、人物評価の面では確かに有利に働いているようである。
■根拠がない“自信”でも出世に繋がる
それなりに実務能力があっても、やはり“自信”が欠けているとキャリア形成に支障を及ぼすことが指摘されている。
2012年に発表された研究では、500人以上の学生、研究者、勤労者を対象に調査が行なわれており、自信を抱いている人物はそうではない同僚よりも高い社会的地位を得ている傾向があることがわかった。才能、仕事ぶり、知識よりもキャリア形成にはまず自信をアピールすることが最優先であるということだ。
職場環境の中では、基本的に役職の高い人物が高い評価を受け、意見を求められ、そして組織の決定により強い影響を及ぼしている。この高い地位に上り詰めるための鍵となる要素が過剰な自信にあるということだ。
「我々の研究は、高い社会的地位を獲得するために自信過剰が大きな役割を果たしていることを発見しました。実際には能力が低くとも、自分が他の同僚より有能であると信じている者には、昇進への道が広く開かれています。そして昇進することでまた自信過剰になるのです」と研究を主導した米・カリフォルニア大学のキャメロン・アンダーソン教授は語る。
例えば大学の中で高い地位にあるのが“教授”だが、教授たちへの調査で実際に彼らの94%は研究において平均以上の優れた業績を成し遂げていることを自認しているという。
研究では6つもの実験が行なわれ、組織と自信過剰な人物との間のありがちな力学が浮き彫りになった。組織は自信家の言葉の影響を受けやすく、その際に彼の自信は決して“過剰”なものではなく素晴らしい能力からくるものと思い込みやすいということだ。組織を誤った方向へと導くカリスマの出現もまたこのようなメカニズムから生まれるのだろう。
そしてまず高い地位への欲望があることによって、自信過剰なふるまいが生まれるという。さらに自信過剰な人物ほど会議で多く話し、また声が大きいことでその意見が正しいものと受けとめられやすい。自信に溢れた人物にいろんなことを任せたくなるのは人情かもしれないが、その自信によって実力以上に過大評価されているケースが多いと考えたほうがよさそうだ。自信家のその自信が本物なのかどうかをチェックする目もぜひ持ちあわせたい。
■生理学的に自信を高める“ワンダーウーマン”ポーズとは
実力、能力のことはひとまず置いておいて、これらの研究は基本姿勢として自信をアピールしたほうがビジネス面では何かと得をすることを物語っている。ではどうしたら自信を外に向かってアピールできるのだろうか。ハーバード大学の社会心理学者、エイミー・カディ氏は“ワンダーウーマン”のポーズを2分間するだけで自信家になれると主張している。
2012年のTEDトークにおいてカディ氏は自身の経験を交えながらボディランゲージを使ったメッセージが人生を大きく変える可能性を指摘し、実際に社会の中でボディランゲージが実に大きな影響力を持っていることを解説している。
ワンダーウーマンやスーパーマンのように両脚をやや開いてシャキッと立ち、ボディビルダーのように胸を張ったポーズを2分間続けると実際に当人に自信が溢れてくるという。具体的にはこうしたポーズをとることで、ストレスホルモンといわれるコルチゾールの分泌が低下し、逆に“モテるホルモン”とも呼ばれているテストステロンの分泌が盛んになるのだ。こうして生理学的にもストレスに強くなり、いつでもドッシリと構えた自信家になれるということだ。
霊長類の社会の中でも、権力を握っているボスはテストステロンの値が高く、コルチゾールが少ないことが確かめられている。そして権力の交代が起って新たなボスが登場すると、数日内にその個体のテストステロンの値は大きく上昇し、コルチゾールのレベルが大幅に下がってくるのだ。
人間の参加者に協力してもらった実験でも、ワンダーウーマンのようなポーズは、他人から見て力強く自信に溢れた印象を与えることがわかっている。そして当人も自信を感じており、2分間この力強いポーズをとった者の86%がギャンブルの機会を与えられた場合に賭けに出たというデータが残されている。そして唾液中のテストステロンが20%増加し、コルチゾールが25%減少していたということだ。
もちろん映画の中でワンダーウーマンやスーパーマンに“変身”して八面六臂の活躍をするようなことがすぐにできるわけでないだろうが、こうした力強いポーズを普段から心がけ、その小さな積み重ねで人生を大きく変えることができるとカディ氏は訴えている。背筋を伸ばして“居住まいを正す”ことでメンタルの安定を保つことは古来から言われていることでもある。真の自信を獲得するための入口として、まずは姿勢から入ってみてもいいのかもしれない。
■真の自信家は謙虚
背筋を伸ばした自信に溢れたポーズでホルモンの値を変え、結果的に自信家になれることがわかったが、もちろんそこには程度問題もある。自信をアピールしているはずが、威圧的で鼻持ちならない態度だと相手に受け止められてしまえば、対人関係ではマイナスに働く場合もあるだろう。そして実際、本当に自信のある人物はきわめて謙虚な物腰であったりすることもまた一面の真実だ。
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのトーマス・チャモロ・プレミュジック教授はかつて「ハーバード・ビジネス・レビュー」で、アピールする自信と内なる秘めた自信について言及している。
「自信には2つの顔があります。外に向かっての自信と、内面に向かう自信の2つです。少なくとも欧米文化の中では、外に向かって自信をアピールする者のほうが外交的でカリスマ的な好ましい印象を持たれやすいでしょう。しかし人は外へ向けてアピールすることなく心の中で自信を深めていくこともできるのです。そして人々は時に自信過剰な人物を見て、魅力的というよりも傲慢で鼻持ちならないナルシストと見なすこともあります」(トーマス・チャモロ・プレミュジック教授)
この言葉を引用した「Elite Daily」の記事で筆者のジョセフ・マイロード氏は「真の自信は人を謙虚にする」と自らの経験に基づく自説を述べている。能力は見せるものであって語るものではなく、実際に見せることができればアピールする必要もないということだ。
「内側へ向かう自信はいつでも自分を原点に立ち帰らせる理想的な自信です。もちろん私個人の意見ですが、これは自分自身に純粋な自信を感じる根拠になっています」(ジョセフ・マイロード氏)
最初に抱いた志を忘れす、スタート地点に立った時の気持ちに戻れることが、内面の自信を育む鍵ということなのだろうか。自信をアピールして“背伸び”をすることで上昇志向になり個人の成長が促されるが、やはり最終目標はどんな分野であれ揺らぐことのない内面の自信をつけることなのだろう。
参考:「Science Daily」、「Elite Daily」ほか
文=仲田しんじ
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