現代社会に欠かせない“自信”を高めるための5つの科学的方法

サイエンス

 ある調査によれば業務上横領などの従業員による不正行為は、アメリカ全体で1年間に500億ドル(約5兆3000億円)もの経済損失をもたらしているという。いったい何が人を不正行為に向かわせるのか? 最近の研究ではそれは“自信の喪失”にあるという。

■自信喪失体験が不正行為の原動力に

 最近の研究では、自信を失う体験は別の領域でそれを埋め合わせようとする強いモチベーションとして働くことが報告されている。それがたとえ不正行為であってもだ。

 カナダ・トロント大学ロットマン・マネジメントスクールの研究チームが2018年3月に発表した研究では、ある分野で自信を喪失する体験は別の分野で自分の価値を高めたいという強い欲求を生じさせることを指摘している。それは慈善的な利他的行為にもなれば、 身勝手な不正行為にも向かわせる原動力になるというのである。

「自信の度合いは状況の変化でいとも簡単に変化します。そして低下した自信を取り戻すための行為に及びます。慈善的で利他的な行為に及ぶこともあれば、自分本位の金銭的欲求を満たす不正行為に及ぶこともあります」と研究チームのチャーリー・サイ教授は語る。

 研究チームは一連の実験で、自信を失う体験が人々にどのような反応を引き起こすのか、過去のネガティブな出来事を思い出してもらったり、解答できない難しい課題に挑んでもらったりすることで詳細に分析した。

 分析の結果、例えば自信が低い状態にある人は、やや高価だが環境に優しく周囲からも推奨されている商品(グリーンプロダクツ)を購入しない傾向が浮き彫りになった。またボーナスを自己査定させてみると、自信のない人ほど高額なボーナスを要求するということだ。そして自信が低い人々の3分の1が不正行為を働くという。一方で自信の高い人々の間で不正行為を働く割合は10%である。

 しかしこうした自信が低い人の特徴は、属する集団の状態によって変わってくるというから興味深い。人々の交流が密接な集団の中にあっては、自信の低い人ほど環境に優しい商品を購入し、富や資源の分配において他者に対して気前が良くなるということである。

 したがって経営者にとって理解が求められているのは、従業員の自信を失わせる要素や状況を見つけ出して対策を講じることである。汚職や不正が蔓延する組織になるのか、お互いに協力しあう風土の組織になるのかは、この問題への理解に関わっているともいえる。プライドとやり甲斐を持って働ける職場環境づくりが求められているようだ。

■青少年の精神疾患治療の鍵を握る自己評価の向上

 自信や自己評価が重要な役割を担っているのは勤労者だけではない、10代の精神疾患の入院患者において、自己評価を回復させることが治療の鍵になることが最新の研究で指摘されている。

 カナダ・ウォータールー大学の研究チームが2018年2月に精神科系学術ジャーナル「Canadian Academy of Child and Adolescent Psychiatry」で発表した研究では、8歳から17歳の精神科患者47人を調査したところ、精神科入院患者は全体的自己価値(global self-worth)が顕著に低いことを報告している。

「今回の研究は精神疾患を持つ若者を調べる最初の調査で、入院患者と外来患者を比較して、自己評価との関連を分析しました。私たちは入院患者のほうが全体的自己価値(global self-worth)が低いことを突き止めましたが、これまでの他の研究からもより低い自己評価がより深刻なメンタルヘルス問題の前兆であることが報告されています」と研究を主導したマーク・フェロー氏は語る。

 研究チームによれば。入院している青少年の精神的健康を改善するための治療プログラムを実施する際には、自己評価がきわめて重要な要素になるということだ。

「入院治療中の若者は自己評価が低いので、自己価値を高めることを目指した治療プログラムは開発に値するでしょう。個人の自己評価や自己認識を向上させることは、小児および青少年の精神疾患を早急に治療するというニーズを補完するものになります」(マーク・フェロー氏)

 人生の重要な時期である幼少期・思春期に精神疾患を患うことはその後の長い人生に大きな影を落とすことにもなりかねない。さらに有効な治療プログラムが開発されることに期待したいものだ。

■サイエンスに裏打ちされた自信を高めるための5つの方法

 かつてのスタンフォード大学経営大学院の研究では、自己評価の高い人物はそうでない者よりも、他者から魅力的に見られる可能性が高まるという。

 自信を高め、高い自己評価を維持していくには、常に実力を養い成功体験を積み上げていくことに尽きるのだが、その一方で生活の中でのちょっとした心がけで、自信を持ったポジティブな気持ちになれるという。そこでサイエンスに裏打ちされた自信を高めるための5つの方法があるということだ。

1.身体を動かす
 ちょっとした運動を欠かさないことが肝要だ。運動の後は肉体的にも気分的にも、またメンタルの面からもポジティブになれる。これまでの研究でも運動が自尊心を高めることが報告されている。

2. 笑顔を心がける
 ある研究では、笑顔になることですぐにも気分が良くなり、そして相手が笑顔を返してくれることでこの効能がさらに強化されるということだ。さらに笑った時にあらわれる白い歯は公私どちらのコミュニケーションにおいてもダイレクトに好印象を与える。

3.自尊心が高まるポーズをとる
 姿勢を正すことで自信を維持できる。コミュニケーションの際には真っ直ぐ背筋を伸ばすことで、自信を持った対応ができることが実験で確かめられている。また最も自信が高められるポーズとして、胸の前あたりに両手を持ち上げ、胸を前に開くようなイメージで背筋を伸ばし、上から引っ張られているように頭を真っ直ぐ持ち上げることが推奨されている。

4.服装の色を活用する
 適切な色合いの服を着ることで、当人の顔が全体的に強調されて浮かび上がり、着ている本人の気分も良くなることがこれまでの研究で確かめられている。具体的にどのカラーの服が良いのかは状況によりけりではあるが、例えば休日などではこれまであまり着てこなかった明るい色のファッションで外出してみてもよいのかもしれない。

5.戦略的にフレグランスを活用する
 特定の香りもまた気分を高揚させポジティブな気分にさせてくれることが確かめられている。TPOをわきまえつつも気分が優れる香りを身にまとい、また部屋の中でアロマキャンドルと炊くなどして、香りがもたらす効能を積極的に活用したい。

 身につけた自信が決して“見かけ倒し”にならないようにはしたいものだが、今日の社会では自信を感じさせる態度はますます重要になっているとメンタルヘルスの専門家であるレシア・バシャク氏は指摘している。自信に満ちた態度はかならずしも自己中心主義ではなく、悪意ある周囲から身を守るためにも必要であるということだ。

 もちろん過度に自信満々になってしまうのはナンセンスだが、身だしなみや姿勢に気を配って自分を適切に扱うことで相応の自信が身につけられるということだろうか。

参考:「University of Toronto」、「University of Waterloo」ほか

文=仲田しんじ

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