現代的な広いオフィスは実はストレスに満ちていた!?

サイコロジー

 働く者なら全員が当事者である「働き方改革」の議論だが、フレックス・タイムや在宅勤務などの柔軟な働き方は何も働く母親のためでだけではないことが最新の研究で指摘されている。

■柔軟な働き方ができる環境でも従業員の4割は利用を躊躇

 仕事と生活の調和を目指す「ワーク・ライフ・バランス」の議論になると真っ先に検討されるのがシングルマザーをはじめとする女性の働き方にはなるのだが、この問題はもちろん働く者全員の問題である。そしてフレックスタイムや在宅勤務などの柔軟性のある勤務の選択肢は、女性のみならず男性にも影響を及ぼすものであることが最近の研究で報告されている。

 米・ミシガン大学とカリフォルニア州立大学チャンネルアイランズの合同研究チームが2018年4月に社会心理学系学術ジャーナル「Sociological Perspectives」で発表した研究は、勤労者にとっての理想的な勤労形態(Ideal Worker Norm)を実験を通じて探っている。

 研究チームは2700人以上の勤労者(およそ男女半々)に柔軟な働き方についての一連の質問をして調査を行なった。調査対象者はまた、現在の仕事の全体的な満足度、私生活への仕事の持ち込み具合、逆にプライベートな要件を職場へ持ち込む度合い、そして将来的な離職の意図についてもそれぞれ回答した。

 加えてさらに現在の職場への信用・信頼度についてや、もしプライベートや家族の事情で休暇を取得した場合にキャリアにマイナスに働くかどうかについても、参加者はそれぞれの現在の実感を自己申告した。

 回答データを分析したところ、約40%の勤労者が私生活の事情で休暇を取得した場合には仕事への出世や成功の障害になると感じると答えている。柔軟な働き方ができる環境にあったとしても、4割は利用することを躊躇している実態が明らかになったのだ。

 働き方の柔軟性という話題では、通常はシングルマザーや働く母親の問題になると考えられているが、男性や非正規雇用者を含めて勤労者全体に影響を及ぼすものであることが指摘されることになったのだ。

 研究者らは、この問題は従業員が自分のスケジュールをほとんど制御できず、職場のサポートを得られないと感じたり、会社は個人的責任でライフ・ワーク・バランスを図る従業員を差別しているのではないかと疑惑を引き起こしている点も指摘している。

 研究チームは勤労者がペナルティを科されることなく、柔軟な働き方ができると感じられる職場文化の構築を促進する必要があると結論づけた。いずれにしても「働き方改革」にはこれからも長く議論が必要とされる案件であるようだ。

■広々としたオフィスは気が散る?

 現代的なオフィスの象徴ともいえる広い面積の見晴らしの良いオープンオフィスは一見、いかにもバリバリ仕事ができそうなイメージをもたらすかもしれないが、最新の研究ではこうしたオープンオフィスは従業員の気を散しやすく長期的には生産性を下げる環境要因であることが指摘されている。特に女性のオフィスワーカーにとっては、立ち居振る舞いや服装を変えざるを得なくなるほどのストレスになるということだ。

 従業員のデスクが一望できる広いオフィスは、逆に言えばそこで働く当人もまたいつでも見られる存在になっていることになる。英アングリア・ラスキン大学とベッドフォードシャー大学の合同研究チームが2018年3月に「Gender, Work and Organization」で発表した研究では、あるイギリス企業の約1000人のオフィスワーカーを3年間以上追跡調査して収集したデータを分析し、職場環境と仕事の満足度の関係を探っている。

 この企業では以前はオフィスが6つに分かれていたのだが、移転を機に全従業員がワンフロアに収まるオープンオフィスへと刷新することにしたのだった。

 オープンオフィスになったことで、多くの従業員のメンタルに変化が訪れていることが、インタビューなどを通じて浮き彫りになってきた。特に女性従業員は以前の職場とは異なる服を着る者が増えたのだ。そして気分の落ち着かなさを訴える声も少なくなかった。

「もともと小さなオフィスにいた勤労者が広々とした透明性の高いオープンオフィスに移った場合、開放感よりもむしろ落ち着けない気分になり、他者の視線をより意識するようになります。特に女性は見られることをより意識するようになり、服装を変えなければならない気にさせられます」と研究チームのアリソン・ハースト氏は語る。

 ただオープンオフィスのすべてが悪いというわけではなく、従業員が平等に扱われているという感覚が増したり、書類などの受け渡しがスムーズになったり、また服装に気を配るようになったりするなどの好ましい変化もある。そしてオープンオフィスへの移行当初は、オフィスの労働生産性が向上したということだ。

 しかしながら研究チームは「多数の同僚とオフィスをシェアすることは職場の満足度にネガティブに働く」と結論づけている。従業員の職場の満足度が低いままであれば、長期的には労働生産性が損なわれ、また離職率も高まってくることになる。研究チームがほぼ断言している今回の研究だけに考慮に値する話題と言えそうだ。

■集団マインドフルネスでチーム内の軋轢や対立を緩和

 職場環境が従業員の満足度と労働生産性に大きな影響を及ぼしていることがあらためて確認されることになったが、これ以外にもぜひとも注目してしてみたい話題も持ち上がっている。職場での集団マインドフルネス(team mindfulness)だ。

 グーグルやアップルの職場でも行なわれているというマインドフルネス(瞑想)だが、ブリティッシュコロンビア大学サウダー・スクール・オブ・ビジネスをはじめとする合同研究チームが先ごろ発表した研究では、集団マインドフルネスで職場のチーム内の見解の相違に端を発する軋轢や対立を緩和できることを報告している。

「マインドフルネスは個人の心身の健康に資するものですが、我々はこれを集団にも適用できないかと考えました。そして我々はチームがマインドフルネスを実践することで、メンバー間の対立が減り、チームがより目的指向型になることを突き止めました」とブリティッシュコロンビア大学のリンタオ・ユイ助教授は語る。

 研究チームはMBA課程の学生394名と、中国の医療従事者292名を対象に複数の実験を行い、集団マインドフルネスを実践したチームはメンバー間の対立が少なくなることを確認した。集団マインドフルネスによって困難な仕事や気の進まない仕事をいったん心理的に切り離すことができるため、感情の高まりや偏見を取り除くことができるということだ。

「集団マインドフルネスは組織にとってのセーフガードになり、課題の遂行を確かなものにします。また個人の強く否定的な感情を制限し、感情の高まりをコントロールすることができます」とミネソタ大学のメアリー・ゼルマーブルン氏は述べている。

 すでに集団マインドフルネスを取り入れている企業も多いが、研究チームはより多くの企業が集団マインドフルネスを導入すべきであると進言している。組織で動く企業にとっては、個々の業績向上よりもチームのパフォーマンス向上が優先されるべきであるということだ。職場環境に加えてこの集団マインドフルネスもまた組織運営において無視できないものになっているようだ。

参考:「University of Michigan」、「University of Bedfordshire」、「University of British Columbia」ほか

文=仲田しんじ

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