現代人は“超おいしい”食べ物に包囲されている

サイエンス

 現代の食生活は商業主義の影響が色濃く反映されているが、例えばポテトチップスなどの手軽に食べられるフードアイテムの大半は、念入りに加工された“超おいしい”食品であることが最近の研究で報告されている。現代人は“超おいしい”食べ物に包囲されているのだ。

■現代人は“超おいしい”食べ物に包囲されている

 せいぜい袋の半分くらい食べるにとどめておこうと思っていたポテトチップスだが、勢いづいてそのまま1袋完全に食べてしまうこともあるだろう。こうした“超おいしい”加工食品には3つのパターンがあるとされている。

 1つは脂肪とナトリウムの組み合わせ(ホットドッグやベーコンなど)。もう1つは脂肪と糖の組み合わせ(ケーキ、アイスクリーム、ブラウニーなど)。最後は炭水化物とナトリウムの組み合わせ(クラッカー、プレッツェル、ポップコーンなど)である。

 米・カンザス大学の研究チームが2019年11月に「Obesity」で発表した研究では、米国農務省の食事研究用食品・栄養成分データベース(FNDDS)に登録されている加工食品の実に63%が、過度に加工された“超おいしい”食品(hyper-palatable foods)であることを報告している。そしてこれらの“超おいしい”食品の普及が現代人の肥満を後押ししていると警鐘を鳴らしているのだ。

“超おいしい”食品のほとんど(70%)は、肉料理や卵などの脂肪やナトリウムが多いメニューか、オムレツやチーズディップなどの牛乳ベースの食品である。“超おいしい”食品の約25%は脂肪と砂糖が多く、16%は炭水化物とナトリウムが高いメニューであった。この3つのパターンのうち、1つ以上の基準を同時に満たしているのは意外なことに10%以下である。したがってやはりこの3つのパターン(クラスタ)は、“超おいしい”食品の実態を特徴的に物語っていることになる。

 加えて衝撃的だったのは、脂肪、砂糖、塩、カロリーが控えめか、ノンカロリーと表示されたフードアイテムが、“超おいしい”食品の5%を占めていたことだった。さらに、FNDDSで砂糖、脂肪、ナトリウムがそれぞれ「低」、「減」、「無」とラベルづけされたいわゆる“ヘルシー食品”のうち、49%が“超おいしい”食品であった。

 現代人の食環境が、口当たりが良くて食欲が増す加工食品に取り囲まれている実態があらためて確認される研究結果となった。日々の食生活で意識的に生鮮食料品をじゅうぶんに摂ることが求められているのだろう。

■仕事終わりの誘惑には逆らえない?

 さまざまな“超おいしい”食べ物に舌を肥えさせられ、加えてかなりの割合でアルコールも楽しむようになっている都市生活者にとって、忙しかった仕事終わりの帰り道など、ついついネオンが灯る飲食街方面へと足が誘われてしまっても不思議ではない。

 それでも健康や体重のこと、さらに経済面を考慮すれば、そういう場所へ出入りする状況にはないという人々もいそうだが、それでもつい飲食店に誘い込まれてしまうのはいったいどういうわけなのか。

 豪・ニューサウスウェールズ大学の研究チームが2019年8月に「Psychological Science」で発表した研究では、日中の仕事のストレスと疲労が、その夜のジャンクなフードメニューやアルコールへの誘惑に抗し難くしていることを報告している。ストレスと疲労によって仕事終わりの我々の脳は、フル活動できる状態ではなく、意思決定において刺激的な報酬を予感させるシグナルを無視できなくなっているという。

 研究チームは視線の動きを追跡するアイトラッキング技術を使って、実験参加者に報酬を伴う課題をいくつか行ってもらいその視線の動きを分析した。

 収集したデータを分析したところ、視線を合わせると報酬を伴うシグナル(ここではカラフルな円形)を目で追う行為は、数字を暗記する課題中においてより頻繁になっていることが突き止められたのだ。つまり脳の情報処理のキャパシティーがほかのことに使われている時ほど、報酬を予感させるシグナルについつい目が奪われてしまうのである。

 身体も脳も疲れた仕事帰りの道すがら、ついつい飲食店が立ち並ぶ横丁に誘い込まれてこってりした料理やお酒に舌鼓を打ちたくなるのもある意味では仕方がないということになる。研究チームは疲れていたり、仕事上のことなどで考え事がある時には、こうした“誘惑”の多いエリアには立ち寄らないようにすることを進言している。

 もちろん、明日への活力とリフレッシュのために軽く一献、というポジティブなケースもあるだろうが、その後に後悔することがないように“経験値”を積みたいものだ。

■なぜ“深夜のドカ食い”をしてしまうのか?

 誘惑に抗えないという話になると、“深夜のドカ食い”もその1つかもしれない。そして最近の研究で寝不足の深夜に高カロリーメニューを食べたくなる“深夜のドカ食い”は、サイエンス的にもなかなか抗い難いものであることが報告されている。

 米・ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部の研究チームが2019年10月に「eLife」で発表した研究では、寝不足の深夜には人間の嗅覚システムに変化が生じて高カロリー食品の刺激に敏感になり、ついつい誘惑に乗ってしまうことを指摘している。

 18歳から40歳までの男女29人が参加した実験では、じゅうぶんな睡眠をとっている日と、4時間しか眠っていない日とでは、食の好みに変化が生じるのかどうかが検証された。

 収集したデータを分析した結果、睡眠が不足した状態であると、食の好みがよりカロリーの高いもの(ドーナツ、チョコチップクッキー、ポテトチップスなど)に傾くことが判明した。

 摂食行動の追跡に加え、実験参加者のカンナビノイドの血中濃度を計測し、脳活動をfMRIでモニターしたところ、睡眠不足下では人間の嗅覚システムが生理学的に変化することもまた明らかになった。嗅覚が高カロリー食品の匂いに敏感になると共に、嗅覚のからの信号を処理する脳の領域(梨状皮質)との接続性が低下し、理性的な摂食行動が損なわれるという2重の“後押し”によって“ドカ食い”に抗えなくなってくるのである。

 徹夜や夜勤でついつい高カロリーの夜食を食べてしまうのも無理はないということになる。したがって“深夜のドカ食い”の根本的な解決策は唯一、じゅうぶんな睡眠をとることに尽きる。睡眠の重要性は体型維持の観点からも注目されなければならないようだ。

参考:「Wiley Online Library」、「SAGE Journals」、「eLife」ほか

文=仲田しんじ

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