現代人はもっと“うろちょろ”すべき!?

サイエンス

 長時間座らざるを得ない職種が増えている現代の仕事の現場だが、こうした座りがちの生活を20年以上続けていた場合、早期死亡リスクが2倍に高まるというショッキングな研究が報告されている。

■20年の座りがちの生活で死亡リスクが2倍に

 座りがちの生活を20年続けていると死亡リスクが2倍になる――。このショッキングなレポートが2019年夏にフランス・パリで開催されたESC欧州心臓学会「ESC Congress 2019」で発表されている。

 発表を行ったノルウェー科学技術大学(HUNT)の研究では、1984年から1986年、1995年から1997年、2006年から2008年の3つの期間で、20歳以上のノルウェー人(合計2万3146人)に対して余暇の身体活動の頻度と所要時間について詳しい質問を課してデータを収集した。

 その後、回答者は運動習慣によって3グループに分けられた。その3つとは、運動習慣がない、中程度の運動習慣(週2時間未満)、および高レベルの運動習慣(週2時間以上)である。

 収集したデータを分析した結果、1984年から1986年の調査から20年後の2006年から2008年の調査において、運動習慣のない人々は、全死因において早期死亡リスクが2倍高くなり、心血管疾患による死亡においては早期死亡リスクが2.7倍高くなっていることが導き出されたのである。

「私たちの発見は、早発性の全死因および心血管死に対する予防に関して、活発な身体活動を続けることで健康上の最大の利益を得られることを示唆しています。またそれまで運動習慣がなくとも、人生の後半に身体活動を習慣づけることで早期死亡リスクを軽減できます」と研究チームは言及している。

 若い頃に運動習慣がなくとも、社会人になって座りがちの生活が続くようであれば、やはり意識的に運動習慣を持つことが求められているのだろう。

■立ち上がるクセをつけてカロリー消費を促進

 ぜひとも運動を習慣づけたいものだが、忙しい生活の中では思うようにはいかない場合もあるだろう。それでも生活の中で気を配ってみたいことは何かあるのだろうか。最近の研究では自室でもオフィスでも椅子から腰を上げて立つクセをつけることであると指摘している。

 スペイン・グラナダ大学をはじめとする研究チームが2019年6月に「PLOS ONE」で発表した研究では、普段の運動に加えて仕事中に立つことを心掛けるだけで1日のカロリー消費に大きな違いが生まれてくることを報告している。

 具体的には1日に6時間の間、単純に立っているだけで45キロカロリーのエネルギーを消費できるという。特に運動する時間がなかなかとれない場合は、仕事中に立ち上がる癖をつけることでわずかながらでも座りがちの生活の悪影響を打ち消すことができるのだ。

 平均的なスペイン人は、睡眠時間を除き1日8時間から10時間、座ったり横になっているという。仕事中でもプライベートの時間でもなるべく立つことで、肥満や2型糖尿病などの疾患の発症リスクを軽減できることを研究チームは指摘している。

 しかし残念ながらこの“起立クセ”があまり効果がない人々もいることもまた判明している。それは筋肉量が少なく基本的なエネルギー消費量が少ない“省エネ型”の人々だ。極端な“省エネ型”の人は座っていても立っていてもエネルギー消費量がほとんど変わらないということだ。

 したがって“省エネ型”の人の運動メニューはジョギングやランニングなどよりも、まずは筋トレで身体の筋肉量を増やすことが最初に求められそうだ。立っているだけでエネルギーを消費できる身体に“肉体改造”できれば、その後の人生でさまざまな疾病リスクを回避できるのだろう。

■“うろちょろ”することで認知機能が向上

 立ち上がるクセをつけることで座りがちの生活の悪影響をいくぶんかは緩和できるのだが、可能であれば少し周囲を“うろちょろ”することで健康効果のみならず認知機能の向上も図れるというから興味深い。

 本格的な運動ではなくとも、たとえば早歩き程度の運動でも1日30分ほど行うことで認知機能が良好に保たれることがこれまでの研究で報告されている。1日30分以上は運動に費やせないとしても、あることを心掛ければさらに認知機能の維持向上に役立つという。それは“うろちょろ”と歩き回ることだ。

 豪・西オーストラリア大学、オーストラリアンカトリック大学などをはじめとする国際的な合同研究チームが2019年4月に「British Journal of Sports Medicine」で発表した研究では、座りがちであっても30分に1回、うろうろ周囲を歩き回ることで、短期記憶力が向上することが示されている。

 実験に参加した67人(平均年齢67歳)はすべて肥満気味か肥満で、正常な認知機能を有している。参加者は3グループに分けられ、それぞれ異なるプログラムを6日間続けた。その3つのプログラムとは、

A.8時間座り続ける(トイレ休憩などは除く)。

B.1時間座った後、30分の早歩きをし、その後6時間半座り続ける。

C.1時間座った後、30分の早歩きをし、その後6時間半座り続けるのだが、30分経過ごとに3分間、周囲を歩きまわった。

 プログラムを終えた6日後、参加者には各種の認知機能テストが課され、脳由来神経栄養成長因子(BDNF)が測定された。

 データを分析した結果、Cのプログラムを続けた参加者のワーキングメモリーと、BDNFの血中濃度が向上したことが確かめられた。日中を通じて“うろちょろ”することで、座り続けることからくる認知機能の低下を防止できるのである。座り続けていることを自覚した際には、こまめに腰を上げて少し動くことを習慣づけてみたいものだ。

参考:「ESC」、「PLOS ONE」、「NLM」ほか

文=仲田しんじ

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