日中の眠気はビジネスパーソンにも学生にとっても大敵といえるだろう。特に大学の大教室での講義は場合によっては“催眠術”に匹敵するかもしれない!?
■講義の最中に人間が落ちてきた!?
ワシントン大学(動画の説明によれば)の講義の様子を収めた動画が話題になっている。大きな教室の正面にはスクリーンの幕が下ろされ、図表などをプロジェクターで映しながら講義が行なわれていたのだが……。
静かな教室で淡々と講義が進められていたその時、あろうことかスクリーンの下の床に人間が落ちてきたのだ! 横になった体勢で落ちてきたその人物は、一瞬、うつ伏せになって床にうずくまるが、すぐに立ち上がると荷物のリックを担いでスタスタと歩き教室を出て行ってしまう。講師もしばらくの間何も言葉を発することができず唖然。教室を後にする男子学生らしき後ろ姿に、教室からは笑いの声がチラホラと。この突然のハプニングに講師は「ノーコメント」とつぶやいてオチをつけたところで(!?)、講義は再開したようだ。
人間が落ちてきた!?
おそらくこの男子学生はこの大型スクリーンを含めて教室内の機材のセッティングと管理を任されていたのだと思われるが、スクリーンの影に隠れて時間をやり過ごしているうちにどうやら睡魔に襲われてしまったようである。しかしこの一件はこの学生と撮影者によって仕組まれた“ドッキリ”であるという指摘もあるようで動画のコメント欄を賑わせている。だが思わずしでかしてしまった失態に、平然さを装ってその場を後にするこの男子学生の姿は芝居のようには思えないのだが……。
これが本物のハプニングであれ、仕組まれたドッキリであれ、現代の大学生が寝不足気味であることは間違いないようだ。2014年にミシガン大学で行なわれた調査では、50%の大学生が日中に睡魔に襲われることが日常的にあると回答しており、また大学生の70%が8時間以下の睡眠時間である実態も浮き彫りになった。また同じく2014年にアメリカ睡眠医学会が報告した研究では、じゅうぶんに睡眠をとっていない学生は成績が低く、単位を落としやすい傾向があることも指摘されている。さらに2009年にロクサーヌ・プリチャード博士らが発表した研究では、慢性的な睡眠不足状態にある学生は、精神疾患を抱えている確率が高いことも明らかになっている。
学生ばかりではない。社会人が勤務中に睡魔に襲われうっかり居眠りしてしまうことで、その後の人生を狂わしかねない事態に直面することがあるのもご存知の通りだ。ここ最近、アメリカでは警察官や消防士などが勤務中の居眠りで解雇されるニュースが相次いでいる。現代の多くの職場において、仕事は睡魔との闘いでもあるようだ。
■日中の眠気は睡眠不足だけではなかった
睡眠不足が続けば日中に眠気に襲われるのも当然といえるが、必ずしも睡眠不足だけが原因というわけではないようだ。健康情報サイト「Health Line」では、単なる睡眠不足ではない日中の眠気について解説している。
●ライフスタイルに起因する眠気
長時間労働と徹夜労働、夜勤は日中の眠気に結びつく。このケースは原因がはっきりしているだけに、生活スタイルを改めることで解決できる。
●精神状態に起因する眠気
精神、感情、心理の状態も日中の眠気の原因になる。具体的にはうつ、不安、ストレスなどが眠気の大きな元凶だ。また退屈することや、疲労感、無気力感などもわかりやすい眠気の源だ。
●医学的症状に起因する眠気
糖尿病など医学的な症状によっても日中に眠気が引き起こされる。ほかにも血中ナトリウム濃度が低くなる低ナトリウム血症(hyponatremia)や、甲状腺ホルモンの分泌量が不十分となる甲状腺機能低下症(hyponatremia)、アメリカでは青少年が罹る“眠り病”として有名な単核球症(mononucleosis)、あるいは慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)など、日中に眠気を誘発する症状は意外にも多い。
●薬剤に起因する眠気
日常的に服用している薬剤の副作用で眠気が引き起こされている例も少なくない。花粉症の緩和のためや、乗り物酔いによく服用される抗ヒスタミン薬(antihistamine)は一種の睡眠薬でもあるため、当然ながら眠気を誘発する。精神安定剤として用いられるトランキライザー(tranquilizer)もまた副作用で眠気を引き起こすということだ。
●睡眠障害に起因する眠気
じゅうぶんな睡眠時間を確保していても、睡眠の“質”が低くなる睡眠障害を引き起こしていると日中に眠気を引き起こす。代表的なものは睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)で、睡眠時に呼吸停止または低呼吸になることで定期的に目を覚まし、眠っていても疲労が回復しないため日中も眠くるのだ。
また就寝時に脚が“ムズムズ”してなかなか寝つけない症状である「むずむず脚症候群(restless legs syndrome)」や、早い時間に床に就いているのに結局は夜中(午前2~4時)にならないと眠れないという睡眠相後退症候群(delayed sleep phase disorder)なども、社会生活を送る上では結果的に睡眠不足になるので日中に睡魔に襲われやすくなる。
このように日中の眠気は単純な寝不足ではないケースもけっこうあるようで、問題をさらに複雑にしているようだ。
■仕事中の睡魔を追いはらう10の秘訣
では日中の眠気にどう対処したらよいのか? もちろん、眠いときは可能なら仮眠をとって身体に無理をかけないのが第一だが、どうしても重要な仕事や用件がある場合には以下の方法を試してみるのもよいだろう。
●太陽光にあたる
カーテンを開けたりベランダに出るなどして。自然の太陽光にあたることで素早く効果的に気分を変えることができ、眠気を吹き飛ばすことができる。また体内でのビタミンDの合成を促進し季節性の気分障害を防ぐということだ。
●水をたくさん飲む
脱水状態にあると疲労を感じやすくなり眠くなる。もちろん普段から水分補給は大事だが、眠いときは少し多めに水を飲むことで集中力を回復できる。
●軽くて栄養豊富な食事を摂る
即効性のあるテクニックではないが、眠さやだるさを感じている日ほど食事を抜くべきでないという。タンパク質など栄養豊富なメニューを少量だけ朝、昼と摂ることが求められる。まだしばらく起きていなくてはならない場合は、エナジードリンクやカフェイン飲料はむしろ避けるべきであるということだ。
●少し歩く
座ったままでは眠さを解消するにも限界がある。トイレに行くなどのタイミングで少し大目に歩き回る。ミネラルウォーターを買いに行くのもよいだろう。
●深呼吸する
効果的に深呼吸をすることで意識がはっきりした状態を保つことができる。そのためにも呼吸法を身につけたいものだ。
●アップビートな音楽を聴く
もしイヤホンなどを使って音楽を聴ける環境にあれば、アップビートな曲を選んで聴く。眠気解消のための即効性のあるテクニックだ。
●30分ごとに身体を動かす
仕事をしながらでも30分に1回は屈伸運動やストレッチ運動をなどを心がける。
●新鮮な空気を吸う
どうしても眠いときはいったん外に出て新鮮な空気を吸うことで気分がリフレッシュされ眠気を追い払える。
●シャワーを浴びる
時間と条件が許せばシャワーを浴びることで確実に眠気を払拭できる。条件が揃わない場合は冷たい水で顔を洗うのもよい。
●短いうたた寝をする
条件が許す場合は10~15分のうたた寝をすることも確実な眠気解消法である。眠い状態のまま仕事をするよりも、15分のうたた寝で気分をリフレッシュできれば、うたた寝に費やした時間はじゅうぶんに挽回できる。
もちろん日中に眠気を起させない生活サイクルにすることが肝要であることはいうまでもない。カフェイン飲料や薬剤に頼るのは最後の手段であり、連続して多用すれば健康を害しかねないので注意が必要だ。やはり普段からの睡眠管理が大切ということになりそうだ。
参考:「Health Line」ほか
文=仲田しんじ
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