“独り言”でパフォーマンスが著しく向上する!

サイエンス

 各種の筆記試験ではたいてい私語は禁止されているが、実は独り言を口にしながら課題に取り組むことでパフォーマンスが顕著に高まることが最近の研究で指摘されている。

■独り言を口にすることで78%ミスが減る

 昨今はハンズフリー通話も普及しているため、公共の場所での独り言にも一定の理解が得られていそうだが、独りでブツブツと言葉を口にしている姿はあまり良いイメージは与えないと思えるがいかがだろうか。

 お行儀が良いとは言えない独り言だが、最近の研究では頭の中の考えを声に出してみることで、問題解決能力が著しく向上することが報告されている。独り言を口にすることでなんと78%もミスが減るというのだ。

 英ノッティンガム・トレント大学の研究チームは、35名の参加者にカードを使った課題に取り組んでもらった。48枚のカードを使った課題は、並んだカードの数字や色のパターンをいち早く発見して解答する一種のパズルゲームである。そして参加者は私語を禁止された状態と、なるべく独り言を口にするという2つのパターンで課題に挑んだ。

 結果は歴然としたものになった。黙って課題に取り組んだ際には平均45回のミスがあった一方、独り言を口にしながら解答した場合は平均で10回のミスしかなかったのだ。

 考えを言葉にして声に出すことで、注意力と集中力が高まるのだと研究チームは説明している。頭の中だけで考えている場合には、ある考えが頭に浮かんでもすぐに別の競合する案が浮かんできてしまったりもするのだが、ひとつの考えを声に出すことで、いわば“迷い”がなくなり、課題により集中できるようになるということだ。

 もちろんTPOはよくわきまえなければならないが、少しばかり集中力を要する仕事に際して、許されるかぎりの範囲内で独り言を口にしてみてもよさそうだ。

■声も“心の声”も本人にとっては同じ

 考えを声にしてみることで注意力と集中力が高まることが指摘されているのだが、まさか試験会場で独り言をしゃべるわけにもいかない。だがご安心あれ、独り言は“心の声”であっても同様に作用するようだ。

 漫画原作のテレビドラマ『孤独のグルメ』では主人公は口には出さずに心の中でいろんなことをつぶやいているが、言語化しているかぎりにおいて、こうした“心の声”も実際に声に出している声も認知機能的にはあまり違いがないことが最近の研究で報告されている。

 人間の認知機能には脳内で自分の身体の動きをシミュレーションするための「遠心性コピー」という伝達情報がある。この遠心性コピーが存在するため、例えば自分で自分のわき腹を撫でてもあまりくすぐったくないのである。つまり遠心性コピーがあることで自分に関わる知覚情報とそれ以外の知覚を明確に分けることができるのだ。

 オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学の研究チームは、EEG(electroencephalography)と呼ばれる帽子タイプの脳活動モニター機器を使って42人の実験参加者に対して、独り言を実際に声に出して話している時と、声には出さずに“心の声”でつぶやいている場合の脳活動の違いを検証した。

 結果はどちらもほとんど同じ脳活動であった。もちろん独り言を声に出せば、自分の耳で自分の声を聞くことにはなるのだが、この遠心性コピーが自分の声の聴覚的影響を著しく低下させているということだ。つまり自分の声は聞こえていてもいなくてもあまり関係がないということになる。

 極度に集中している時など、独り言を自分で声に出しているのどうか自覚がないケースもあるだろうが、どちらであれ当人にとっては変わらない現象なのである。

 しかし面白いのは、肉体の内部で反響した自分の声を本人はいつも聞いているので、もし録音した自分の声を聞くと脳は他者の声として認識するという。確かに録音された自分の声は本人が一番奇妙に感じるのではないだろうか。

 ともあれ“心の声”で積極的に独り言をつぶやいてみるのもいいかもしれない。

参考:「Journal of Undergraduate Research at NTU」、「University of New South Wales」ほか

文=仲田しんじ

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