組織を代表した使命であれ、不純な動機(!?)であれ、ある特定の人物と親密になるためには、まずはこちらから“ソノ気”を見せなければならない。そしてどうしたら効果的に“誘惑”できるのか? その方法が科学によって示されている。
■5つの科学的“誘惑”方法
米・ウェブスター大学の心理学者、モニカ・ムーア博士が科学的に効果的な“誘惑”の演出をアドバイスしている。この5つのポイントを深く理解することで、対人交渉における有力な武器になるということだ。
●アイコンタクト
研究によれば、アイコンタクトと笑顔は相手にロマンティックな感情を抱かせる最も重要な方策であるということだ。そして相手がアイコンタクトを好意的に受け止めてくれるならば、じゅうぶんに“脈”があるということになる。
●ボディランゲージ
相手の歓心を引きつけることに成功したコミュケーションにおいては、その55%がボディランゲージ表現であるという。あまり良い例えにはならないが、身振り手振りを最大限に交えて人を魅了する演説を行なったヒトラーも効果的なボディランゲージの使い手であった。
●ボディタッチ
最も抵抗の少ない「握手」をはじめとして、身体接触は相手との仲を一気に縮められる手段だ。関係の親密度に応じて3段階の社交的身体接触があり、1.握手、2.腰または腕に触れる、3.顔に触れる、となる。もちろん相手の反応を確かめながらレベルをあげていくことが必要なのは言うまでもなく、いきなり顔を触るという愚は避けたい。
●ポーズの一致
仲のよいカップルはカフェなどで話している間、知らず知らずのうちに同じポーズをとっているという。そこでこれを意識的に行なうことで相手に抱かせる親近感を増すことができるのだ。例えば会話中に相手が脚を組んだら同じように脚を組み、身体を傾けたら同じように傾けるという具合だ。
●タイミングを見計らっての撤収
ある話題で会話が盛り上がってきたところで唐突に、しかし嫌味を与えずに話題を変えることは、相手の興味を長引かせるための会話テクニックであるという。そして頃合を見て話を終わらせて別れることも重要だ。相手にまだ話し足りない感覚を抱かせることで、次の機会がさらに充実したものになるのだ。
ある人物を前にして上記のようなことを頭に置きながら交流するのは、何だか打算的で腹黒い行為にも思えてくるのだが、生物としての人間にとって好意をもった相手を“誘惑”するのはきわめて自然な行為である。それならばできる限り効果的に相手を誘惑するのが正解と言えるだろう。
■女性の“誘惑”にめっぽう弱い男性のタイプとは
相手にアプローチする側の科学的“戦略”について触れたわけだが、逆に視線を投げかけられ、にっこりと微笑みかけられてしまった場合は……。もちろんそこにガイドラインはなく、あくまでもそれぞれの判断ということになる。しかし単なる参考になるということ以上に興味深い研究が発表されていて興味深い。特に男性の場合、女性の笑顔にめっぽう弱い人々がいることがわかったのだ。
アメリカの心理学者、ジョシュア・ハート氏とレア・ハワード氏の共著による論文が2015年に発表されているのだが、その中で女性のアプローチに対して“過大評価”し、そのぶん魅力的に感じてしまう男性の一群が存在することが突き止められた。わかりやすく言えば、愛らしい女性の笑顔に“コロッと参ってしまう”タイプの男性だ。
もちろんその種のタイプの男性は決して珍しい存在でないと思うが、これまでそれが何に起因しているのかはよくわからず、単なる持って生まれた性質であるという解釈しかなかった。しかし今回の研究で、そのような男性は心理学でいう“愛着スタイル(attachment style)”が「とらわれ型(不安定型)」である傾向が浮き彫りになったのだ。
愛着スタイルとは、対人関係を築くうえでのその人物の心理的な接し方のスタイルのことだ。この愛着スタイルは「親密性の回避」と「見捨てられ不安」という二つの心性の配合具合により下記の4種類に別けられている。
●安定型
●とらわれ型
●拒絶型
●恐れ型
この中の「とらわれ型」は、他者に対してきわめて高い親密性や承認、応答性を求め、相手の心が自分から離れることに不安を感じる傾向があるタイプの人物だ。人間関係の中で互いに承認をし合いながら生活を送るという、ある意味で集団行動に適応したタイプの人々だと言ってもよいだろうか。
ハート氏らは434人の異性愛者の男性を対象に、ナイトクラブで出くわした女性グループの1人から視線を向けられ微笑みかけられた場合、どのような心境になるのかを詳細に回答してもらった。そしてそれぞれの男性の愛着スタイルもまたテストによって判定した。
回収したデータを分析すると、愛着スタイルが「とらわれ型」の男性は、女性をよりセクシャルで魅力的に感じ、それと同じくらい相手も自分に好意を寄せているのだと思い込む傾向があることがわかったのである。そしてもちろん、自らも女性に対して魅力的に映るようにふるまうのだ。
いわゆる女癖が悪いとか、キャバクラ通いがやめられないという一群の男性がいることは重々承知のことと思うが(!?)、いくら反省を求めたところで、ある意味では仕方がないということにもなる。もちろん趣味の範囲内で“夜の交遊”が収まっているのなら何ら問題はないだろうが、度を越してくるようであればカウンセリングなどを受けることも選択肢に入ってくるということだろう。
■片思いは報われる!?
“恋多き”「とらわれ型」の男性も、その思いが本物であるのならば、必ずしも毎回“誤解”で終わるわけでもなさそうだ。プラトニックな片思いが現実の恋愛に繋がることがけっこうあるということが、最近の研究でわかってきたのだ。いったいどういうことなのか?
米・メリーランド大学の心理学者、エドワード・ルメイ氏とノア・ウルフ氏の最近の共同研究によれば、身近な友人に恋愛感情を抱いてしまう例を解説している。いつしか片思いがはじまり、これまでの関係、さらに周囲との関係もあって告白できず胸に抱き続けているだけであったにせよ、その思いを枯らすことなく持ち続けることで、考え方に「投影バイアス(projection bias)」がかかってくるようになるという。投影バイアスとは、相手も自分と同様の考えをもっていると“錯覚”する傾向のことだ。そしてこれが“錯覚”で済まなくなるケースが往々にして起こるのだ。
片思いの感情を抱いて相手に接することは、相手側にしてみればより魅力を感じるものになるという。よく考えてみれば、自分を何とも思っていない人よりも、自分に好意を持ってくれている人のほうが、接してみて良い感じを抱くことはある意味で当然だろう。そしてこのような接触の機会が何度が行なわれた末に、相手の気持ちも傾き片思いが本当の恋愛に成就するというわけである。まさに友だちから恋人へ、という関係に発展するのだ。
研究チームはこの友だちから恋人へ発展する恋愛のメカニズムを2回の調査によって実証している。そしてわずかではあるものの、男性のほうが投影バイアスを持ちやすいということだ。
「夢想から現実の関係へというこの現象は、どとらかといえば男性に起りやすいものです。片思いの男性は“標的”にされている女性にとってより魅力的に感じられる傾向かあるからです」と研究チームは説明している。女性のほうが好意を敏感に察知できるということも影響しているのかもしれない。
しかし調査は若い独身の男女を対象にして行なわれたので、もし既婚者や離婚経験者なども多く含め対象を広げた場合にどのような結果になるのか、まだ未知数の部分もあるということだ。確かにいわゆる“不倫”も恋愛に含めるとなると、一筋縄ではいかなくなるかもしれない。
とはいえ、真摯に慕い続けていればやがて思いが報われることもあることが科学的に立証されたことに勇気づけられる人も多いのではないだろうか。
参考:「Metro」、「Medical Daily」、「Psychology Today」ほか
文=仲田しんじ
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