“燃え尽き症候群”にならないための3つの予防策

サイエンス

 責任感と熱意を持って職務に取り組む優秀な社員には皮肉にもかなりの確率で離職の可能性があることが最近の研究で報告されている。それは“燃え尽き症候群”による離職リスクだ。

■模範社員の“燃え尽き症候群”による離職リスク

 米・イェール大学の研究チームが2018年1月に学術ジャーナル「Career Development International」で発表した研究では、全米50州の1085人の勤労者に電話アンケート調査を行い、仕事に対するスタンスの実態を探っている。

 研究チームは収集した回答から、仕事への責任感と現在の“燃え尽き度”の組み合わせで勤労者を3タイプに分類した。

●平凡型:責任感と燃え尽き度のどちらか、あるいはどちらも低い:41%

●中庸型:中程度の責任感と中程度の燃え尽き度:35.5%

●燃焼型:強い責任感と高い燃え尽き度:19%

 そして最も離職を考えている割合が多かったのは仕事に最も熱心で責任感のある「燃焼型」の勤労者であったのだ。

 これらの研究家結果は経営側の課題となり、仕事への熱意と燃え尽き症候群の両方に光を当てることで、モチベーションの高い従業員に燃え尽き症候群と離職のリスクがあることが突き止められたと研究チームは解説する。

 これまでの研究では仕事に対する責任感の強さは生産性を高めるだけでなく、勤労者当人のメンタルの充実に結びつき生活の満足度を高めるものであると考えらがちであった。しかし今回の研究はこれまでの見解に異を唱えるものとなり、強い責任感を持つ従業員に高い離職リスクがあることが指摘されることになったのだ。

 グローバルな競争に晒されている現在の過酷なビジネス環境も多分に影響を及ぼしているのかもしれないが、組織のリーダーや経営側には理解が求められる話題だろう。

■唾液で社員の“燃え尽き度”を簡単に診断

 仕事への熱意と責任感が強い人物は、ややもすれば今、自分が燃え尽きようとしているのかどうかが自覚できにくいのかもしれない。そして自覚がないからこそ、対策をとることができずに本当に“燃え尽きて”しまうのだ。

 しかし今後は燃え尽き症候群をはじめとするメンタルのストレス診断が実に簡単に、しかも正確に行なうことができるようになりそうだ。

 ストレスを受けると別名、“ストレスホルモン”呼ばれるコルチゾールの分泌が促進される。このコルチゾールが体内の炎症を抑えようとして多く分泌されるのだが、過剰なストレスによって長期間多量に分泌されることで副腎への負担が増すといわれ、また脳の海馬を萎縮させることも報告されている。そしてコルチゾールは唾液からも採取することができる。

 オーストリア・ウィーン医科大学と健康予防センターの合同研究チームは、40人の燃え尽き症候群の患者を含む66人の唾液を詳しく検査し、各人に仕事に関連するストレスについての問診も行なった。

 唾液は朝、昼、晩と就寝直前の4回採取されたのだが、健康な人々は朝が最もコルチゾールのレベルが高く、日中に徐々に下がり寝る前にはほとんどゼロになる。

 一方、燃え尽き症候群の人々は、1日を通じていつもコルチゾールのレベルが顕著に高いままであるということだ。

 そして特筆すべきは検査の精度である。研究チームはこの検査でほぼ100%の確率で精神的ストレスに苛まれている人を特定できるという。しかも検査に要する時間は最短4時間であるということだ。将来的には多くの企業の福利厚生に適用される検査になるのかもしれない。

■燃え尽き症候群にならないための3つの予防策

 アメリカ国内の各仕事の現場では、ストレスが原因の欠勤が1日平均100万件発生していて、その経済損失は年間で150億ドル(約1兆6600億円)から300億ドル(約3兆3200億円)にものぼっている。そして欠勤が続くようであれば燃え尽き症候群と診断され、離職へと繋がるものになる。

 ではいったいどうすればよいのか? 起業家のトム・ポポマロニス氏が職場で深刻な燃え尽き症候群にならないためのシンプルな予防策を3つ解説している。

1.作業を細分化する
 大きな仕事というのは、例えるなら何千ページもある書籍を読破するようなものである。これを一連の作業として行なおうとすれば心理的なハードルも高くなる。

 しかし作業をいくつかに分割して、ほかの仕事と平行して行なうようにすれば精神的負担は少なくなるだろう。つまり千ページの本を2日で読みきろうとするのではなく、100ページずつ10日間かけてほかの本や雑誌なども読みながら読了するという“戦術”である。

 1日100ページと定めた小さなゴールであっても達成時には報酬系の脳内伝達物質・ドーパミンが分泌されるため、引き続き課題に取り組むモチベーションとなる。

2.休憩を取る
 たとえば休みなくチェーンソーを抱えて木を切る木こりがいたとする。連続して木を切り続ければ、刃の切れ味は鈍り、機械の油も切れてくるだろう。

 この木こりにどうして手を休めて機械の手入れをしないのかと聞けば、彼は切れ味が鈍くなることを見込んで手を休めずに長く木を切り続けなければならないと答えたという。しかし機械の手入れを含めて定期的に休憩を取っていれば一度に長い時間働く必要もなくなるだろう。

 同じように職場においても、適切な休憩を取ってそのつどリフレッシュしてみたい。結果的に作業効率も上がり、逆にストレスが蓄積しにくくなる。

3.誰かと話す
 職場ではなるべく周囲と積極的に雑談する(もちろん仕事の話でもよい)。休憩時間にSNSでリアルタイムのコミュニケーションをとってもよいし、カフェに行って店員や客と他愛のない話をしてもよい。また仕事帰りにバーや居酒屋などで1杯ひっかけるのも有効なストレス解消法だ。

 燃え尽き症候群の測定尺度であるMBI(Maslach Burnout Inventory)の考案者である心理学者のクリスティーナ・マスラック氏によれば、雑談のできる友人と一緒に過ごす時間は仕事に関連するストレスを緩和するということだ。

 本当の燃え尽き症候群に陥ってしまう前に、消耗感、疲労感を感じた場合には先手を打ってこうした行動を心がけてみてもよさそうだ。

参考:「APA PsycNet」、「Scientific Reports」、「Inc.」ほか

文=仲田しんじ

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