子どもの頃に兄からイジメられた体験を持つ者は少なくないようだ。最近の研究で第一子はイジメっ子になりやすく、弟と妹はイジメられやすいことが報告されている。
■長男はイジメっ子になりやすい?
複数の兄弟に囲まれて育った者なら“お兄ちゃん”は何かと“特権”を有していることが実感として理解できるかもしれないが、サイエンス的には長男は“暴君”になりやすいことが示されている。
英・ウォーリック大学の研究チームが2018年10月に発達心理学系ジャーナル「Developmental Psychology」で発表した研究では、1991年または1992年生まれの兄弟を持つイギリス人6838人の生育状況の実態データを長期にわたって追跡し、きょうだい間のイジメについての研究を行なっている。
収集した各種データを分析したところ、約28%の者がきょうだい間のイジメ(肉体的、精神的)を経験していることが明らかになった。肉体的なイジメよりも悪口などの精神的なイジメのほうが割合が高く、また多くはイジメたこともあればイジメられたこともあった。
きょうだい間のイジメが起りやすいのは3人きょうだい以上の家庭で、年長の者のほうがイジメる側になりやすく、反対に年下の者はイジメられやすいという。特に妹はイジメの対象になりやすいことも判明した。またきょうだい間でイジメが発生するのは当事者が8歳前後の頃からであるという。
第一子は兄弟が生まれるまでは親の愛情を100%受けて育ち、買い与えられる物を独占してきた経験を持っている。しかし弟や妹が増えるほどにこの100%の愛情と100%の独占はほかのきょうだいたち割かれていき、これがフラストレーションとなりイジメに向かうと説明できるという。きょうだい間のイジメはいわば長男の“生存戦略”が起しているのだ。しかしあくまでも大多数(72%)の家族できょうだい間のイジメがないこともまた確認しておかなければならない。
また家族の経済状態や、一人親であるかどうかなどについては、きょうだい間のイジメに特に影響を及ぼしていないことも明らかになっている。複数の子を持つ親は耳に入れておくべき話題なのだろう。
■きょうだい間のイジメ体験で精神疾患リスクが3倍に
世の弟たち妹たちには哀れなことに虐げられるリスクがあることが指摘されているのだが、きょうだい間のイジメ体験を持つ者は、その後のメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしていることが最近の研究で報告されている。精神疾患のリスクが3倍にも高まるというのである。
前出の英・ウォーリック大学の研究チームが2018年10月に「Psychological Medicine」で発表した研究では、3600人のイギリス人児童の生育データを分析して、きょうだい間のイジメと精神疾患の関係を探っている。
前出の統計とはまた異なってくるが、12歳の時点で3600人のうち18.4%がイジメの加害者であったことを認め、13.5%が犠牲者であったと自己申告していて、21%がイジメた体験もイジメられた体験もどちらもあったことを打ち明けている。
3600人のうちで55人が18歳の時点で精神疾患の症状を発症させていたのだが、12歳前後の時点でより多くイジメに関わっていた者が後に精神疾患を発症する可能性は、イジメに関わらなかった子どもの2倍から3倍に高まっていることが浮き彫りになったのだ。
イジメ加害者も精神疾患リスクは高まるのだが、やはりイジメ被害者と、加害者と被害者の両方を体験した者のほうがリスクは高くなった。そしてきょうだい間のみならず学校でもイジメ被害を受けていた者は精神疾患リスクが4倍にも高まるという結果も導き出された。
学校でのイジメは社会問題として頻繁に話題にのぼるが、きょうだい間のイジメについてはこれまであまり語られてこなかった経緯がある。しかし今回の研究できょうだい間のイジメは軽視することができないメンタルヘルスへのリスクがあることが明るみになったと言える。
■イジメ被害者は中年期に経済的困窮リスク
幼少期・児童期でのイジメ体験がその後の人生でのメンタルヘルスにネガティブな影響を及ぼすリスクが取り沙汰されているのだが、精神疾患リスクだけにとどまらず、中年期における経済的リスクをも高めていることが最近の研究で報告されている。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究チームが2018年5月に「Social Science & Medicine」で発表した研究では、イジメ被害者たちを長期にわたって追跡し、後年の経済状態の実態を探っている。児童期のイジメ被害者は、後年の人生において経済的リスクが高まっていることが示されているのだ。
イジメ被害の体験がメンタルに及ぼすネガティブな影響についてはこれまでにも多くの研究が行なわれているが、後年の経済状態に与える作用についてはあまり着目されてこなかった。今回研究チームはイギリス人1958人の生活実態データを長期にわたって追跡し、イジメ被害体験と中年期の経済状態の関係を探った。
研究チームがデータを分析したところ、児童期のイジメ被害体験は個人と社会に大きなインパクトを与えていることが示されることになった。
児童期のイジメ被害体験を持つ男女は50歳前後の時点で雇用されている確率が低く、持ち家率が低く、また貯金額も少ない傾向が浮き彫りになった。賃金労働を行なっている女性では収入が少ないことも明らかになった。
社会に及ぼす影響としては、イジメ被害男性は失業手当などをはじめとする労働関連コストが高まり、イジメ被害女性においては医療費コストが高まることが指摘されている。児童期のイジメ被害体験は当人だけでなく社会的な損失ももらたしているのである。こうした観点からもイジメ防止への取り組みが今以上に求められていることは言うまでもないだろう。
参考:「APA」、「University of Warwick」、「ScienceDirect」ほか
文=仲田しんじ
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