炭水化物は制限したほうがよいのか?

サイエンス

 炭水化物を極力減らし、脂肪と食物繊維をたっぷり摂る食事法であるケトジェニックダイエットの人気が続いているが、最近の研究ではこの食事法は減量目的だけでなく、インフルエンザシーズンにも有効であることが報告されている。

■インフルエンザ予防にもなるケトダイエット

 身体をケトン体消費体質にするケトジェニックダイエット(以下、ケトダイエット)は、世界的にも流行が続いているが、最近の研究でケトダイエットはインフルエンザの予防に効果を発揮することが示されていて興味深い。

 米・イェール大学医学大学院の研究チームが2019年11月に「Science Immunology」で発表した研究では、マウスを使った実験でケトダイエットがインフルエンザに対する免疫機能を向上させることが報告されている。

 インフルエンザをはじめとする感染症への防御策として、我々の身体は鼻の粘膜や喉のコンディションを良好に保つために唾液や粘液を絶えず適切に分泌させている。つまり唾液や粘液の分泌が活発であれば、インフルエンザに感染しにくくなるのだ。

 研究チームはケトダイエットの餌を与えたマウスが、免疫機能を損なうタンパク質の複合体であるインフラマソーム(Inflammasome)の生成を妨げることを突き止めた。

 またケトダイエットのマウスは、細菌やウイルスに対する免疫反応において重要な役割を果たすガンマデルタT細胞(gamma delta T cells)が多く生成され、それにより肺の内壁の粘液が盛んに分泌されることで免疫機能が良好に保たれていたのである。そしてもしインフルエンザに感染させたとしても、ケトダイエットのマウスは回復する確率が高かった。

 糖質の代わりに脂肪からケトン体を作ってエネルギー源にするケトダイエットのメカニズムは、免疫システムへも効果的にエネルギーを供給していることが示されることになった。ケトダイエットの有益性がますます高まったといえそうだ。

■ケトダイエットで片頭痛を緩和できる

 インフルエンザ予防効果に加えて、ケトダイエットは片頭痛を緩和する効果もあることが最近の研究で報告されている。その効果は頭痛薬を上回るというから驚きだ。

 スイス・バーゼル大学をはじめとする国際的な合同研究チームが2019年4月に「Nutrients」で発表した研究は、実験を通じてケトダイエットが片頭痛の症状を緩和すると結論づけている。

 35人の頭痛持ちで肥満の成人が参加した実験では、ランダムな人選で約半数が4週間のケトダイエットを行った。どちらのメニューも脂肪の量とカロリーは同じで、タンパク質と炭水化物の比率が大きく異なっていた。

 どちらもカロリー制限食であったため、減量効果はほぼ同じであったが、ケトダイエットは片頭痛の緩和にはるかに効果的であることが判明した。

 ケトダイエットを行った参加者の75%近くが片頭痛に苛まれる日が少なくとも半分になったと報告した。一方で炭水化物の多い食事を行ったグループで片頭痛が改善したと報告したのは9%に留まった。

 ちなみに片頭痛予防薬である「CGRPモノクローナル抗体」では、片頭痛の日数が半減したと報告したのは服用者の48%である。つまりケトダイエットは薬よりも効果的であることになる。

 ケトダイエットによって、脳のエネルギー源がグルコースからケトン体に変わることで、脳の炎症が減少し頭痛の原因となる脳波が停止して片頭痛が緩和されるのだと研究チームは説明している。頭痛持ちの人々にとってケトダイエットは無視できそうもない食事法になったといえるだろう。

■長期間の糖質制限で寿命が縮まる?

 インフルエンザ予防にもなれば片頭痛を薬よりも緩和してくれるという、いいことづくめのケトダイエットだが、長い期間続けるとどうなるのだろうか。2018年に発表された研究では、炭水化物摂取が極度に低い食習慣が続くと、適度に耐水化物を摂っている者よりも早期死亡率が高まることが報告されている。

 米・ハーバード大学をはじめとする合同研究チームが2018年8月に「The Lancet Public Health」で発表した研究では、人々の食事内容と健康状態を25年にわたって追跡調査して炭水化物の摂取量と死亡率の関係を探っている。

 1万5400人ものアメリカ人を追跡調査した結果、炭水化物摂取量が低くても(カロリーの40%未満)も高くても(カロリーの70%以上)、早期死亡率が増加していることが突き止められた。そして炭水化物摂取量が中程度(カロリーの50~55%)のグループが最も死亡リスクが低くなった。

 より具体的には50歳の時点で炭水化物摂取量が中程度の者はその後33年(83歳)生きることが予測でき、低い者は29年(79歳)、高い者は32年(82歳)であった。ちなみに炭水化物をほとんど食べない者と、逆に食事メニューのほとんどが炭水化物という両極端のグループは研究対象から外している。

 したがってケトダイエットなどの糖質制限を長期にわたって続けることは場合によってリスクになるのかもしれない。しかしながら今回の研究は単純な炭水化物の摂取量を扱っているだけであり、どんな種類の食品を炭水化物として食べているのかや、全体的な食品のクオリティなどは考慮に入っていない。そして個々の体質なども食事と健康に影響してくるだろう。

 ケトダイエットを長期間続けることについては考え直してみる必要はありそうだが、ともあれ品質の高い食品を適切にバランスよく食べることが基本中の基本なのだろう。

参考:「Science」、「NLM」、「The Lancet」ほか

文=仲田しんじ

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