激辛ファンが挑んだ「生まれたことを後悔させる」辛さとは!?

サイエンス

 我々日本人も一般的に辛い食べ物に弱いといわれているが、いわゆる“白人”のコーカソイド系の人々も辛さへの耐性が低いともっぱらの評判だ。それでも日本と同じく一部では熱烈に辛いモノを愛する激辛ファンもいるのだが、そうした辛いモノ好きなある人物が「生まれたことを後悔する」辛さを味わったというのだが……。

■「生まれたことを後悔させる」辛さとは

 米・フロリダ州ジャクソンビル在住のローガン・ドラン氏はスパイシー料理が好きで、地元のアジア系レストランの数々にも足繁く訪れているという。アジア系スパイシーフードの中でもよく注文しているのがタイ料理のパッタイである。しかしながらその辛さに満足することはあまり多くないという。

「私はいつも『辛さマシマシで』で注文していますが、私が白人の男だとわかるとまともに受け止めてくれません。辛すぎてクレームをつけられることを恐れているんでしょう。だから私は時折、店の人に客は白人の男ではないとシェフに伝えてくれと頼むこともありますが、あまり効果はなくて本当にそう伝えているのだとも思えません」(ローガン・ドラン氏)

 普段通う店では辛さの面ではあまり満足していないドラン氏だったが、先日、仕事の昼休みの時間に近くにある人気のアジア料理レストランでテイクアウトのパッタイを注文したところ、ちょっと面白いことが起きたという。

 いつものようにドラン氏は注文の際にダメもとで「辛さマシマシで」と伝えたのだが、受け取った料理の容器の箱には“要注意!”という殴り書きと共に炎のマークが描かれていたのだ。そして支払いを済ませて渡されたレシートを見てまた軽く驚くことになる。

 レシートには無料の“追加スパイス”がズラリと17も並んでおり、その下には「生まれたことを後悔させる」とタイプされていたのである。なかなか面白いこのレシートをSNS掲示板のredditに投稿したところ、一晩で3000ものコメントが寄せられ話題になった。

 では実際に、その「生まれたことを後悔させる」辛さとはいかほどのものだったのか。テイクアウトした料理を持ち帰り、職場のデスクで箱を開けてみると、パッタイの上には麺が見えないほどのペッパーフレークがこんもりと振りかけられていて、それを見た職場の同僚たちが集まってきてちょっとした騒ぎになったという。

 同僚たちはひと口食べたドラン氏が悶絶して七転八倒するのではないかと期待していたようだが、激辛ファンとして筋金入り(!?)の彼の前ではちょうどいい満足いく辛さだったということだ。

「生まれたことを後悔する辛さではありませんでした」とドラン氏は語る。自宅ではいつもこの程度の辛さで食べているという。

 同僚たちは少しガッカリしたようだったが、ドラン氏によれば辛いモノ好きは職場で有利な立場に立てるという。それは社員共用の冷蔵庫に保管した辛い料理は他の同僚に食べられることがないというアドバンテージだ。激辛好きはいろんな意味で“アンタッチャブル”な存在になれるのかもしれない!?

■人はどうして激辛ファンになれるのか?

 激辛ファンの存在は、一部の人には信じられないであろう。また逆に辛いモノ好きはどうしてある種の人々がスパイシー料理を忌み嫌うのか理解できないかもしれない。激辛ファンはどうして辛さに耐えられ、そして辛さを楽しめるのか。謎が多い激辛嗜好についてサイエンスの側からメスが入れられている。

1.辛さを感じる受容体が遺伝的に少ない
 トウガラシの辛さの源の化合物であるカプサイシンを受容しているのがTRPV1と呼ばれる舌や口蓋部にある受容体なのだが、このTRPV1が生まれつき遺伝的に少ない人々も存在しているという。TRPV1はカプサイシンを受容するとその刺激を“痛み”として表現するのだが、TRPV1が少なければ痛みの程度は低くなる。つまり生まれつき辛さに鈍感なので激辛にも耐えられるのだ。

2.日常的に辛いモノを食べている
 味覚は変化するもので、避けていたピーマンが食べられるようになったり、苦いビールを美味いと感じるようになった経験を持つ人も少なくないだろう。同じように辛さも日常的に接していることで好ましく感じてくるケースもじゅうぶんに考えられる。メキシコやインド、タイなど辛い料理が文化的に受け継がれている国では、そこに生まれただけで辛さへの耐性が自然に身につくともいえる。

 全米最大の料理学校であるカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカのウィリアム・フィリップス准教授によれば、カプサイシン受容体のTRPV1は“鍛えられる”という。繰り返し辛いモノを食べることで、辛さに過剰反応しなくなるのだ。

3.個人のパーソナリティー
 ジェットコースターやお化け屋敷といったアトラクション体験、あるいはホラー映画の鑑賞などが好きで、自分からスリルを求める人々がいるが、同じように激辛メニューもある種の人々には“スリリングな体験”として楽しまれているという指摘が2012年の研究で報告されている。決して辛さへの耐性が高いわけではなく、新たな刺激を求める冒険好きなパソーナリティーが人を激辛ファンにしているということになる。

「カプサイシンを摂取した時、生物学的にはこの刺激を伝えられた脳は口の中で何かが燃えているような危険な状態として解釈します。しかし何度か繰り返すうちに脳と身体はこの感覚が危険なものではないと理解しはじめ、その時に危険が“スリル”に変るのです」とペンシルバニア州立大学の研究者であるナディア・バーンズ氏は語る。

 これは辛い料理を楽しむ文化圏に育っていなくとも立派な激辛ファンになれることの説明にもなる。そして心理学者によれば、激辛ファンになることは、自虐や自傷で快楽を得るマゾヒズムの初期段階にあるということだ。

 マゾヒズムに通じるとというのはちょっと(かなり?)不気味な感じがしてくるが、好奇心旺盛に激辛メニューを楽しめればストレス解消にも繋がるだろう。“過ぎたるはなお及ばざるがごとし”をモットーに激辛フードアイテムを楽しみたいものだ。

■激辛メニューで一時的に聴覚喪失に!?

 イギリス人のブロガーで若きシェフの男性、ダン君が旅行で訪れたインドネシア・ジャカルタの裏通りで、世界一辛いヌードルであると標榜されている“デス・ヌードル”を発見して試しに友人と一緒に食べてみた模様を動画に収録している。

 いくつか食べ歩きをした後なだけにインドネシア料理にも慣れた様子であったが、乾麺を使った料理に見えるその“デス・ヌードル”にさしたる感動した様子も見せずに平気な顔でひと口ふた口と食べ進めるも案の定、しばらくしたところで異変が……。まるでめまいを起こしたかのように頭が揺れ、たまらずシャツをを脱ぎだし、それでも麺を口に運ぶダン君だったが、たまらず席から立ち上がってギブアップ!

 目を真っ赤にしながらドリンクを次々口にして「これまで食べた中で絶対に一番辛いモノだ! 食べて数秒で汗が噴き出して気分がわくるなった」とカメラに向かって報告している。水道の蛇口から直接水を頭に浴びてもはやちょっとしたパニック状態のダン君だったが、その最中に「耳が聞こえない」と気になる発言をしていた。この時、耳が聞こえない状態が2分ほど続いていたということだ。

 食材に用いられたトウガラシはバーズアイ・チリという品種で、一般的なジョロキアの45倍の辛さを誇るという。しかしどうして彼の耳は一時的に聞こえなくなったのか?

 この謎についての回答がサイエンスの側から報告されている。

 解剖学的に人間の耳と喉は耳管と呼ばれる管状の器官で繋がっているのだが、ロバート・ウッド・ジョンソン大学病院のマイケル・ゴールドリッチ医師によれば、カプサイシンを摂取した際に激しく分泌される涙やヨダレや鼻水がこの耳管を一時的に塞ぎ、聴覚が失われるのではないかということだ。これは大量に鼻水が出るタイプの風邪を引いたときにも起り得るという。

 またもうひとつの説明として耳鼻咽喉学の専門家であるサム・マルツォ医師によれば、三叉神経(trigeminal nerve)への過度な刺激によって、蝸牛神経の血流の流れが変化して一時的に聴覚が失われるという。カプサイシンを大量に摂取した身体反応として、頭痛に似た症状があらわれ三叉神経を過度に刺激するということだ。

 そしてこうした束の間の聴覚喪失は決して一時的なもので終わらずに長期的な影響を及ぼすリスクもあるという。激辛メニューを食べてもしこうした症状に襲われた場合、医師の診察を受けることをマルツォ医師は勧めている。激辛ファンや激辛料理に挑戦してみようという向きには“小耳”に挟んでおいてもよい話題だろう。

参考:「Miami Herald」、「says.com」、「Live Science」ほか

文=仲田しんじ

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